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 第6話 来訪はデートの予約とともに。

 時刻はまだ11時20分を示しており、今から睡眠をとり、千春と友香が真也の家に来るのが5時前後としても単純に4時間強は寝れる計算であると、重たい瞼を必死に開きながら、自宅マンションのドアを開ける。

 部屋に入ると、朝は気が付かなかった甘い香りが鼻を付く。

 何の香なのかよくわからず、自室に入るとその香りがより一層強くなった。

「か、勘弁してくれぇ。とはいえ、もうダメ限界」

 おそらく女性特有の甘い香りなのだろうが、男子からしたら、普段香る事のない甘い香りに頭がくらくらする。

 それが思春期の男子ならばなおさらなのだが、幸いなことに、真也の思考はそっち方向に向くことはなく、昨晩の苦悩と睡眠不足のせいで、ベットに倒れ込んですぐに瞼が重くなる。

 ベットに倒れ込んだ瞬間、さらに自分を包む甘い香りが強くなったが、自然と嫌だという気持ちになる事はなく、むしろ心と体を包み込む様な、そんな優しい感覚に段々と意識が奪われ、気が付けば、夢の中へと旅立っていた。



 放課後、友香は一度自宅に戻るべく電車に乗っていた。

 自宅は高校から2駅離れており、真也の自宅が学校に比較的近場にあったため、何とももどかしい気持ちになりつつ、足を向けた。

 手間だとは思うが、それ以上に洋服の衣類はどうしても必要で、3日泊まると見切り発車で行ってしまった手前、何一つ用意していなかった自分が悪いのだ。

「うぅ、気が付かれなかったからよかったけど」

 自分でも非常に危ない事をしたと思っていた。

 何が危なかったのかというと、昨晩借りたジャージ、その下に実は自宅ではブラは付けないため、いつもの感覚でノーブラで真也たちの前に出て行ってしまっていたのだ。

 あそこで取り乱そうものならば、もしかしたら自分がノーブラであるとバレてしまっていたのかもしれない、そう思うと、顔が火照りそうになる。

 幸い二人には気が付かれておらず、そのまま就寝し、朝も気が付かれる前に着替えはした。

 だがやはり、2日連続での同じ下着というのは、女子としてアウトな気がするので、泣く泣く向かっている。

 電車を降り、自宅につく。

「ただいまぁ」

「へっ、な、何で帰ってきたの!」

 帰宅するなり、開口一番に、母、三条 穂香は慌ててリビングから顔を出す。

 普通、男性の家に泊りに行った娘が帰ってきて、何で帰ってきたのなどと、まるで帰ってきてはいけないみたいないい方はしないだろう、と友香は自分の母はいったい何を言っているんだと思いながら用件を伝える。

「下着とか、何も持ってなかったから。先輩の家にあと2日はいる事になりそうだし、一度衣類取りに来たの」

「ああ、そうよね」

 当たり前の事であるのに、失念していたという様に穂香は苦笑いを浮かべる。

 そんな穂香の横を通り過ぎ自室に向かい用意をする。

 ショーツ、ブラ、部屋着、スポブラも必要であろう、愛用のスリップとペチコート、ワイシャツ、ついでにハンドクリームと、保湿液もと、色々つめたら非常に重くなった。

 なったのだが、友香としてはこれでも最低限だった。

 歯ブラシは、どういうわけか買い置きがあったとかで、すでに2人分追加されており、問題はなさそうだし。

 後何が必要なのだろうと考えを巡らせる。

 巡らせて、思い至が、その考えを首を左右に振り、無理やり打ち消す。

 あまりに自分の邪な考えに赤面する。

 用意を済ませ、玄関前まで下りてくると穂香が顔を出し、友香に近づいてくるが、その顔には満面の笑みが張り付いていて、妙な悪寒を感じる。

「な、何その気持ち悪い笑みは」

「はいこれ」

「なにこれ?」

「駄目よ、いざという時に開けるのよ! 何事も準備はしておかなきゃ」

 少し可愛らしい刺繡が入っている巾着袋を渡され、何を渡したのか気になり、友香が開けろうとするが、それを自然な動作で静止し、優しい笑みで穂香は手を握ってきて、それが娘としては大変不気味に感じたが、今ここでこれを開封は難しいと思い、とりあえずカバンに詰める。

「じゃぁあと2日帰らないから」

「友香、健闘を祈ります!」

「何の健闘なの?」

「やだもぉ、言わせないでよぉ」

 友香はこの母が妙に苦手だった。

 自分はおそらく大人しめの性格なのだろうが、この母とはノリと勢いで生きており、されに娘を溺愛しているため、何かと干渉してくるのだ。

 そんな母が、自分の事をこんなにあっさり送り出し、あまつさえコレももっていけという、何かある、と娘の勘が告げていた。

 笑顔で見送る穂香を背に家を出る。

 自宅から数メートル離れたところで、友香は先ほどカバンにしまった巾着袋を取り出し、何が入ってるのだろうと、ふと思いとりあえず外側からふれてみる。

 何か筒状の小さな形状のものが一つと、何だろう、何かの包みだろうか、四角形の薄っぺらい何かが手の感触で伝わる。

「いったい何を・・・・」

 そう思って巾着の口を開け、中を確認して、すぐに巾着の中に戻して、え?! と混乱する。

 今何、何が出てきた?

 再度友香は、恐る恐る出すと、そこには、ポポという文字。これが意味するところを友香は知っているなぜならば自分の部屋にあるからである、あるのはアルが隠してあるのであるこれを。

 何をするのかはまぁそういう事なのだが、そうではなく、なぜそれがここにあるかという事だった。

 そしてもう一つ、見慣れたものとは別のものがある事に気が付き、慌てて中を確認し取り出すと、めっちゃうす、の文字があり、真空パック。

「お、おかぁさん!」

 もはやこの場で叫ばずにはいられなかったが、それらを巾着袋にしまい直し、顔を真紅に染めつつ、真也の自宅へと足早に向かうのだった。



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