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「おう・・・なんだその不景気そうな面は」

「不景気ではあるし、そういう顔に見えるなら、特に少し間違ってるが、ふぁ~」

「なんだ、寝不足か? 確かお前今日バイトじゃね?」

「ああ、寝不そ・・・」

 忘れていたと、顔から血の気が引いていく。

 というのも、昨日も本来はバイトのはずだったのだが、どういうわけかバイト先から遅刻だぞぉなどの連絡がいっさい来ていない事に、真也は今更に思い出す。

「今日どころか。昨日もバイトのはずだったんだ・・・・」

「お、おい。マジか。ヤバいじゃね?」

 ヤバいなんてものではない、下手すりゃ即クビも宣告されかねない。

「お前連絡来てないの?」 

 慌ててスマホを見るが、それらしい形跡はない、とはいえ、連絡なしはさすがにまずいと思い、教室だが、この際そんな事言ってられるかと思い、店に電話をかける。

「(はい。あさやぁ)」

「て、店長、すみませんでした!」

 開口一番、店長に伝わるわけでもないが、頭を避け、ありったけの声量で声高らかに謝る真也に、おいおい何事だよ、とクラスメイトが心配そうに見つめる、流石に昨日の騒動で、今日のこれである、クラスメイトからしたら、ヤバいんじゃねぇのか平塚とかいう話になりかねなかった。

「あー、バイトすっぽかしたらしい。皆気にせんでやってくれ」

 ああ、という顔になり。まぁ昨日はなぁ、っていう同情のまなざしに変わり、真也はすかさず、すまんと拝むように片手で誤ると、気にするなという様に、和人が親指を立てた。

 持つべきものは友である。

「(3日ぐらい休むんだろ?)」

「は、え? 誰がそんな事?」

 全く身に覚えがない、サボったことに身に覚えがあっても、休む旨の連絡した覚えは真也にはこれっぽっちもなかった。

「(あー、なんつったかぁ、静流とかいう人が店まで来てなぁ。なんでも教師で、何やらお前が大変だという事で、家庭の事情だとかで休むと、わざわざ伝えに来て呉れてなぁ。それにしてもあれだな、あんなべっぴんさんが担任なんか?良いよなぁ、最高じゃぁねぇか)」

「え。あ、店長、すんません、もうすぐ授業みたいなんで、とりあえずそんな感じでお願いします」

 話が長くなりそうだったので、真也は慌てて話をぶった切り、通話を終えた。

「何だって?」

「静流さんがなんかしたらしい」

「うわぁ。お前・・・・」

 完全に貸しを作ってしまった。

 それを察してなのか、真也はに対する和人の目は哀れなものを見る目そのものに変わっていた。

 言いたいことは分かるぞ、だが止めてくれ親友よ、現実を突きつけないでくれ、と思うのであった。

「ね、ねぇシー君。だ、大丈夫なの?」

 今の一部始終を聞いていたのだろう、なぜか機能の時点で、このクラスのしかも真也の隣の席を強制的に勝ち取った、もといい奪い取った千春が、心底心配そうに真也たちを見ていた。

「チー・・・・お前は本当に、千里さんと、特に春奈さんが来たら覚悟しておけよ」

「あー、えー。あはははは」

 藪蛇だったと、千春は乾いた笑いをしながら、真正面を向いた。

「にしても、こんな美人が幼馴染ねぇ。お前モテすぎじゃね?」

「和人。お前も静流さんの手伝いするかぁ。今なら俺あの人と取引できるぞぉ」

「ごめんなさい。調子乗りましたすみません」

 話の流れで、貸を真也が和人を売り渡す、という内容で終わらせてもいいと、そういう負ことをするのではないか、と思わせる不敵な笑みを浮かべていたので、和人は慌てて頭を下げた。



「邪魔するぞぉ」

 授業真っただ中。

 唐突にそんな声とともに教室の前方のドアが開け放たれ、白衣に身を包んだ女性が、けだるそうに姿を現した。

 困りますよ、静流先生、という国語教師の静止もむなしく。

「おい平塚、来い」

「は、え?」

 授業中だとか、そんな事はお構いなしに、真也の返答も待たず踵を返す静流に、どうしたらいいかと国語教師を見ると、行と言い、と言わんばかりに指さして、行って来いと示した。

 この人には、社会的常識が無いのかと、半ば呆れるが、先程のバイトの件もあるので、下手に苦言を申せないのも事実で、渋々従う事になった。

「あれが、静流先生・・・」

 初めて見る静流に、千春は、うわぁ超美人と、思い思わず見とれていたが、すぐにその姿が消えたので、行動早という印象も植え付けられた。

「ああ、そうそう、佐藤だったか。お前もだった。忘れてたわ」

 静流は戻ってくると、千春も来るよう促した。

 え、あたしも? と疑問を投げかけるいとまもなく、またも教室から姿を消していた。

「はぁ、行くぞ」

「え、これついてってだ丈夫なやつなの?!」

「行かなきゃ地獄へ速攻で落とされると思ったほうが良い」

「冗談だよね?」

「お前、ここに今こうしていられるの、あの人のおかげだという事、忘れないほうが良いぞ」

 何の話なのかさっぱり分からない、とう千春は小首をかしげる。

 能天気な幼馴染を連れ立って、真也は教室を出る事となった。


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