15

寝室に無理やり引っ張り込まれ、問答無用で千春は真也のベットに押し倒されていた。

「へ、なに、わ、私そんな趣味ない!」

 そらそうだろうよ、と友香もそう思いながら、押し倒した相手を永遠見つめる。

「なんで言えないんですかねぇ」

「あ、あなたには関係ない」

「さっきも言いましたが。私は先輩の事本気です」

 唇がくっ付きそうなほど近い、そんな距離で、友香は千春に言い聞かせるようにそう告げる。

「ねぇ、千春さん。話によればご両親が3日後に来るんじゃないですか」

「そ、それはぁ適当にかわしてぇ」

「先輩の様子から見るに、それはたぶんないのでは?」

 確かにそれはないだろうと、千春自身、自分の両親がどういう人物なのかよく理解している、理解しているからこそ、3日どころか、明日朝にでもこの家を訪ねてきてもおかしくは無いとすら思っていた。

 千春は不安の色をより濃くし、自分には時間が無いのかもしれないという事を、否応なく突きつけられた気がしていた。

「はぁ、なんで私、この人の味方したんだろう」

 半ば自分自身に呆れながら、千春から友香は離れ、真也の勉強机の椅子に腰かける。

 よくよく考えれば、こんな女など放置して、愛しの先輩のあれやこれやを今すぐにでもあさり、自身の欲望を心行くまで満たしてしまいたい。

 と内心は思っているが、世間体や、自分が他人から、清楚系で大人しい地味娘だと思われていることは理解しているので、やらないししない。

 千春はと言えば、やっと一息付けたと言わんばかりに、深い溜息を吐いていた。

 そんなに思い悩むなら、いっそう言っちゃえばいいのに、と思うものの、彼女の苦悩は、過去の3日前の私だと、友香はその心境が分かるからこそ、このどうしようもないヘタレ美人に塩を送る真似などしてしまったのだった。

「千春さんて。美人なのにヘタレですよね」

「あ、あのね。なんかさっきから遠慮が無くなってきてないかなぁ」

「お膳立てしたのに、ヘタレで何も言えなくなった人を、再度無理やり引っ張ってきて、ここにこうしている。私、感謝されこそすれ、そんな事言われるのは違うと思うんですけど!」

「ご、ごもっともで・・・・」

 千春としても、先程の配慮には驚きしかなかった。

 何故、友香がそんな配慮をしたいのかを聞きたい気持ちはあったが、聞いてよいのかわからずどうしようかと悩んでいると。

「わたしは、本当に昨日やっとの思いで先輩に告白しました。結果としてはスタートラインに立ったというような、そんな些細な結果でしたが、それでもきっかけは作れたと思いますし、次につながったとは思います」

「え、えっと、まさか私、相当タイミング悪い?」

「はい。まぁアナタのタイミングの悪さはどうでもよく手ですね」

 どうでもいいんだ。となんとなく落ち込む千春を無視して話しは進む。

「だからですね。分かるんです。好きな人を思い続けて苦しむのも、声が出なくなるのも、パニックになってしまうのも。お二人にどんな事情があるかは分かりませんし、わたしからしたらアナタは敵です」

「あ、そこははっきり私、的なのね」

「当たり前で。今回だけですよ」

 美人が特に特徴のない平凡な女の子に説教されている、というはたから見たら、ナニコレな状況だが、千春からしたら本当にありがたかった。

 正直見切り発車で、電話がダメなら直接会えば、現状を打開できる。そんな甘い考えで突っ走ってきた手前、自分の考えの至らなさにほとほと嫌気がさしていた。

「とりあえず3日。私はここに、あたなといますけど、だからと言って絶対に手伝いませんし、先輩に近づけるチャンスなので、存分に利用させてもらいますから」

「た、たくましいわね。お、お互い頑張りましょう?」

「私は頑張りませんけど。アナタは頑張らないと大変な事になるかもしれませんね」

 その後、話は終わりだという様に本を読みだした彼女に話しかけられるわけもなく、千春は、これからどうしようかと、頭を悩ませることとなって、ふとスマホの電源を切っていたことを思い出し、電源をつけると、レインの履歴が99+の表示になっていて、眩暈がした。



 カチカチという音が部屋に響く。

 丑三つ時、今だ真也はリビングに置かれているソファーで願入りを打ちつつ、眠る努力をしていた。

 そう努力なのである、現状、ドアを挟んで向こう側には女の子が二人、就寝している。

 年頃の男子高校生としては、もはや生き地獄も良いところである。

「泊めるしかなかったとはいえ。勘弁してくれぇ」

 弱音を言っていなきゃやってられないわ、と言い出しそうになる自分に、落ち着こう、そう、落ち着くんだ。

(私、先輩に抱かれても良いと思っています!)

「うぅぅ」

 風呂場で聞いた友香の、決意のこもった声がよみがえる、

 もちろん自分に向けられたものではなく、あくまでも千春との言い合いで思わず言ってしまったものだろう、そう思うのだが、やはり男子高校生としては、分かっていても彼女のそんな姿を想像するなというほうが無理がある。

「だからって。無理だよなぁ、スッキリするなんて」

 最終手段として、なんとかこの興奮状態を収める方法はある、あるにはあるが、危険すぎてそれを実行に移そうなどとは、死よりも恐ろしい末路があると思い、できるわけもなかった。

「あと、3日はこれかぁ」

 本当に、迷惑な幼馴染をもったものだと、思い、そういえば、告白した時も、変に迷惑かけられたっけかと思い、いまだに少しこぶになっている後頭部を少しなでながら、目を閉じたのだった。

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