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「ふぅ、行ったわね。誰に似たのか。ヘタレすぎるわよ」

「君がパワフルなだけなきがするんだけど」

「娘の今後に関わる事よ、そら必死にもなるでしょ」

「親バカだなぁ。さぁて、飛行機の時間夕方に調整しますかねぇ」

「どっちが親バカなのかしらねぇ」

 千里と春奈はお互いに見合わせながら、互いの体重を少しづつ預ける様にして寄り添うと、玄関から今しがた出ていった若い二人を思いながら、どうかうまくいくようにと心の中で祈るのだった。



 春奈に追い出されるように送り出された、千春と真也だったが、どこに向かえばよいのか、それもわからず、近くにある高台の公園へと足を向けていた。

 真也が手を取り、つないだままの手は、真也が力を入れていないのに、痛いほど千春からぎゅっと握られており、真也は妙な痛みを感じつつも、それを顔には出さず、優しく握り返しながら、そのまま歩き続けた。

 まだ朝も9時になるかどうかという時間で、過ぎ去る人々は足早にバス停や、駅方面へと進んでいく姿を横目に見ながら、誰に咎められることもなく、目的の場所についた。

 かつて、幼少期から小学校まではよくこの高台にある公園で、あきることなく夕暮れ時まで遊び続けた二人にとって、この場所はいわば特別な思い出の詰まった場所で、別れを惜しむには最も最適な場所だった。

「なんで、ここなのよぉ」

 しかしそう思っていたのは真也だけだったのか、妙に涙声のまま、真也の握っていた手にさらに力を込める。

「いったぁ、おま、いい加減痛いわ!」

「うるさいバカ!」

 あまりの痛さに慌てて振りほどこうとするも、がっちりと握られた手は離れることなく、真也の手を掴み、まるで失わないように必死に捕まえてるかのような、そんな握り方だった。

「あのな、マジで痛いんだけど」

 流石に限界だったため、真也はそっと握ってる手に空いてるほうの手を優しく乗せ、離してくれるように手を添え、ゆっくりと指をはがしていく。

 その様子を、納得いかないといわんばかりに凝視しながらも、それでも再度千春は手に力を込める事はしなかった。

「さて、色々言いたいことがあるんだが」

「シリマセン。私は何も聞いてませんでした」

「駄々っ子か!」

「それで構いません」

「お前なんで敬語なの?」

「意地悪なシー君にはこれで十分です!」

 整った顔が真也の顔を覗き込むようにして振り返り、真也は思わずたじろいたと同時に、この顔がもう見ることができなくなるのか、そう思ったら、ふと体が勝手に動き。

「え、な、え?!」

 気が付くと、真也の腕の中には千春が収まっており。

 千春もまた、何が起きたのかよく分からず、気が付いた時には彼の腕の中に居た。

 お互いに何をしたのかされたのかわからず、永遠にも似た時が数秒流れ。時間がたつにつれお互いの状況が把握できてきて、途端に恥ずかしくなり、慌てて離れようと、真也がしたときに、千春は、慌ててそうさせまいと、タックルする形になってしまった。

「うぉっ、痛っつぅ」

 バランスを崩し尻もちをつく形で転ぶ。

 幸い、芝のある公園だったため、さほど痛みはなく、真也はほっとして、腕の中にいる千春に目を向ける。

 彼女もまた、バランスを崩しはしたが、真也がしっかりと受け止めていてくれてたため、変に足をひねったりすることなく、彼に凭れ掛かるようにして倒れたため、痛みなどはなかった。

 互いに互いの距離は近く、少し顔を寄せてしまえばお互いにキスできてしまうような、そんな近い距離。

 互いに同期型かなり、自然と頬が淡いピンク色から赤へと変わっていくのを、互いが互いの顔で認識し、互いに意識する。

「お前、顔紅い」

「シー君こそ・・・・」

「お、俺は、い、今から大切な事を言うから。その、恥ずかしいだけだ」

「え?」

 唐突に何を言っているんだ。

 真也は、気が付いたらそう口が動いており、自分でもびっくりしながらも、心のどこかでは今言わなければ、二度と口にすることはないのかもしれない、そう思っていたら自然とそう言葉が口をついて出ていた。

「千春。好きだ」

「・・・・・」

 予想はしていたのか、互いに吐息のかかるような距離でその言葉を聞いた彼女は、微動だにせず、ただじっと、彼を見つめていた。

 どれぐらいそうしていたのだろうか、そろそろ何か言ってほしいと真也が思い始めた時、目の前の瞳から、スーと、一筋の光が伝うのが見え、え? と驚く暇もないまま、どんどんと、その瞳からあふれんばかりの雫が流れ落ち始めた。

「どうして、どうして今なのよ!」

 次の瞬間、真也の視界が右にズレ、頬には暑さと痺れが走り抜けた。

 一瞬何が起きたのか理解できず、唖然としている真也に。

「バカ。大っ嫌い!」

 真也はそのまま突き飛ばされ、今度は受け身すら取れず、後頭部を地面にたたきつけられた。

 その拍子に千春は、起き上がり、逃げる様に走り去っていってしまった。

 目の前がチカチカとし、ぶつけた後頭部がじくじくと痛み、身もだえて居たら、気が付くとそのまま気絶してしまったのだった。

「あー、長いな。で、お前は失恋したって事か?」

 話を聞くとは言ってはいたが、思いのほか真也自身も驚くぐらい説明下手で、気が付けば出来事のあらかたを会話形式で説明していた。

 我ながら容量が悪いと、自分に悪態をつく。

「ええ、少なくても俺はそう思ってます。あの後、病院で目覚めた時には千春は海外。後からおじさんたちと連絡はしましたが、本人とはそれ以来疎遠でした」

 そう、彼女はそれ以来真也への接触を一切してこなかった。

 時より、事の顛末を知っている千里さんと春奈さんが、彼女の近況などを国際電話を使ってわざわざ報告してくれていて、その中でも特に気になったのが、何かにとりつかれたように勉強を始め、高校を飛び級し、さらには大学も卒業してしまったという話を聞かされたことだった。

 何が起きているのか、不安だったお二人が、真也に相談するぐらいには鬼気迫るような状況だったと聞き及んでおり、真也は親友であり、幼馴染であり、初恋であった彼女の事を心配はしてはいたが、しょせんはフラれた男、自分には関係ないとそう言い聞かせながら、二人の話を聞いていたのは真也自身、後ろめたさ半分といった感じだった。

「で、いきなり現れたと。寄りにもよって、お前が告白された次の日に」

「や、やめてください。マジで意味わかんないんで」

 頭を抱える真也に、まぁこうなるのも無理ないかぁ、と半ば納得してしまった静流だったが。

「お前はまず、女心を知るべきかもな。いろんな意味で」

「はい?」

 はぁ、と呆れたような顔をしながら、電子タバコを取り出し、吸い始める先生を見て。この人に相談しても解決できないのでは?と、内心呆れながら、「先生室内でたばこアウトでは?」と言ったら、軽くこずかれたのは言うまでもなかった

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