5話
2話 過去が姿をもって現れた。
「ヤッホー、真也久しぶり」
彼女、佐藤 千春は平塚 真也の幼馴染であり、初恋であり、失恋の相手であり、過去である。
過去とは、彼が彼女との事を過去に置いてきており、二度と会わないし会う事すらないだろうと思っていたことで思い込んでいた事だった。
そう、二度と会うことなどありえないと、そう思っていたのに。
「なんで、居るんだ」
再度口から出た言葉は、真也にとって否応なく現実を自分自沈に突き付けるモノであったが、自然と口は動き、事実を突きつけた。
「真也に会いたくて。不肖、佐藤 千春戻ってまいりましたぁ」
「・・・・」
「アレ、驚かない? え、あ、ちょっとぉ!」
困惑する千春を一瞥し、睨むでもなく、かといって、感動するでもなく、まるで蝋人形にでもなったかのような、一切の感情を捨て去った表情になったかと思うと、カバンだけを手に取ると、真也は教室を後にした。
あまりの出来事に、教師ふくめ、何が起きたのか理解できず、唖然とする中、ただ一人、千春だけが、困惑しつつも。
「そりゃ・・・そうか」
と、一言誰にも聞こえないか細い声でつぶやいたのだった。
何をやっているんだ俺は。
教室を、本当に自然な動作で貴重日だけが入っているカバンを手に取り、抜け出しはしたが、特にいく当てなどなく出てきてしまったため、どうしようかと思っていると、前方より白衣に身を包み、口には飴を加えた女性が、セミロングの髪を揺らしながら進んでくる。
「おつかっした~」
適当にスルーして通り過ぎ、このまま帰宅してしまおう、そう思って、とりあえず教師の横を不信感の無い様に通り過ぎたはずだっただが。
「おいこら、平塚」
「痛て・・」
横を通り過ぎる間際、彼女は真也の頭に左手を乗ってけて、その動きを止め、左手に名いっぱいの力を込めた。
「ホームルームからそのまま授業1限目のはずだよなぁお前のクラス」
「い、嫌だなぁ、静流さん。移動教室イタタタ」
「見え透いた嘘つくなよぉ。昨日の友香ちゃんのことも聞きたいし、このまま連行だ。おら来い!」
半ば引きずらる様に確保された真也は、まるで逆らうことができずに捕まると、図書室へと連行された。
紅 静流 3~歳独身、身長172センチ女性にしては大きく、また出るところのでている美人系司書なのだが、司書などやってるのに武闘派という事で、数々の問題児を構成させたりしていたのが原因で、今やこの学校の秩序そのものである。
この人がなぜ真也の事を知っているのかと言えば、過去に変な誤解から、真也が悪い事をしたという話で目を付けられたのだが、幸い静流は自分の見聞きしたことしか信用しないたちだったため、すぐに別の犯人が静流の手で捕まり、おとがめなしだったのだが、それ以来、真也は静流とは極力かかわらんようにしていた。
「どうだ、昨日はキスまでなら許すぞと、張り紙しておいたんだが。良い雰囲気になったか?」
援護射撃かなんかのつもりだったのだろうか、満面の笑みで図書室の司書室につくなり、椅子に真也を座らせ、お茶を出した途端にコレである。
「静流さんナンノコトカナァ?」
「人がせっかく色々助けてやってんのに。まぁ良いわ、どうせ幼馴染から逃げてきたんでしょ」
「は、なんで」
「昨日放課後に職員室で、大変な才女が、わざわざこの学園に来るらしいが、どうやら要望があるらしく、お前のいるクラスに席を用意しろと、校長と交渉したとかで、職員室ではちょっとした騒ぎになってな。
一様、生徒指導の身として呼ばれて、少し話はしたんだが・・・」
「もういいです。充分わかったので」
どうやら静流さんは、俺と千春の関係を邪推しているのだと感じ、真也は深いため息をついた。
何故、せっかくやっと忘れかけていた記憶、さらには、失恋から、次の恋にもしかしたらと淡い期待を少しはいだかなかったといえば嘘になる、そんな出来事が自分に起きた直後に、今最も会いたくない人物がふらりと表れてしまった。
「なるほど。面倒くさそうな話みたいだな」
「すんません」
「お前はアレか、1年前の時もそうだったが、私の世話にならん時が済まんのか?」
「いえ、全力であなたとは関わりたくないです」
素直に率直な意見を述べた真也だったが、ほっぺたを抓られた。
痛みに身もだえつつ、すぐに話してくれた静流に違和感を覚え彼女を見ると、真剣な表情でこちらを見ていた。
「友香ちゃんの事は、遊びにはしないな」
「それ以前に、お互いの事を知らないので、まずは友達からという話になったんですが」
この説明何度目だ?
そう思いながら、投げやりに問い掛けに答えると、静流は前髪を掻き上げ、唸った後、ふぅと安堵の息を吐いたように見えた。
「真面目ちゃんだからなぁお互い。まぁ変な事にならない・・・・するなよ」
「保証が、できなくなりました」
おいおい勘弁してくれぇ、と静流が悪態をつく。
静流もうすうすは感じていたのだろう、真也目的で女性、しかも並外れた才女が遠路はるばる来るわけがない。
明らかに恋愛がらみであると。
「あー、地雷っぽいから聞いて良いのか怪しいと思っているのだが。話がややこしくなる前に聞いておくぞ。佐藤 千春はお前の何?」
まぁそうなるわなぁ、と真也は思いながらも、この人ならば変に口外などしないだろうし、もしかした良い知恵を貸してくれるかもしれない。
淡い期待半分、自分に対しても、戒めと、前に進むための決意を固めるため、なんとなく話すべきなのかもと思い口を開きかけ。
「ちょい待ち。先に茶菓子とお茶、入れるわ。どうせ話長いんだろ?」
「俺はあんたがちょと怖いわ」
「気の利く綺麗なお姉さんって言い直してみぃ?」
「キノキクキレイナオネエサマ」
「クソガキめ」
なんやかんやと悪態をつきつつも、静流は面倒見が良いのか、それとも真也が一方的に信頼を寄せているのか、軽口をたたきながら、静流は席を立ち、お茶の準備をする。
そんな背中に、見えないだろうし、本人は嫌がるかもしれないが、深く一礼をしつつ、真也はどこから話せばよい物かと、思考を過去の自分へと巡らせていった。
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