困ったときに鍵となるのは人とのつながり

 オンザロックしたヨットの青年と私の交信を聞いて、ブレークしてくれた方は、つい先ほど交信したばかりの無線家でした。


 家族連れでドライブの最中、アマチュア無線を楽しんでいたようです。今は信じられない環境だと思いますが、家族サービス中にも無線機から流れる音声をラジオのように聞いていた人がいたのです。


 私たちは、その方のご厚意にすがることにしました。つまり、青年のヨットが座礁したことをマリーナへ電話していただいたのです。マリーナの電話番号は青年から聞き出して、それをクルマのブレーク局に伝えるというやり方です。たまたまその日、出会った3人の連携プレーは実にスムーズでした。後から思い出しても感動するぐらいに。


 救助連絡が取れたことを確認し、ブレーク局に感謝して、再びヨットの青年との会話に戻りました。非常通信の宣言こそしていませんでしたが、ヨットの状況が見えるわけでもありませんし、遭難している青年を励ますでもないですけど、元気づけなければいけないという奇妙な責任感を私は感じていました。


私:「救助を待つ間、ヨットのスペックについて教えてください。どうぞ」


 船舶の知識はないものの、富士山のふもとにある湖で親戚の小型ヨットに何度か乗せてもらった経験があり、その爽快な疾走感は記憶にありました。


青年:「私の船はなになに製で……」

 滑らかに滔々と説明を始めた青年。ああ、私が無謀でした。専門用語を羅列されてもまったく理解できません。


私:「ご紹介ありがとうございます。家に帰ったら調べてみます。どうぞ」

 それ以外に言うセリフがありません。だって分からないんだもの。

青年:「そうだ! 今度、ヨットにご招待しますよ。どうぞ」


 望外のお誘いでした。普通なら喜ぶべきところだと思うのですが、個人的に困った事情があったのです。


 その事情とは……。

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