第19話

「オラァ!よし25体目!」

「魔族と戦い慣れてる奴は違いますよホント!」

「言うて7回目だっつーの!」

「十分だわボケ!」

ケインとハンゾウは、会話し合いながら魔族を殺していく。

「はあ…はあ…半分くらい減ったか?つーか残りの二方向はどうすんだよ?」

「ああ…そりゃ所長がもうやってるだろう。巻き込まれる奴が居なきゃあの人は無敵だからな。」

巨大な爆発音が突如空気を揺らす。

「ほら…今ので全部削れたろうさ。」

「うんそうだね?ついでにあんたも削れちまいな!」

後ろから突如聞こえた、明らかに人ではない声に咄嗟にケインは身構える。爬虫類のような風貌の魔族は、両手に鋸状の刃物を出現させ、ケインに挟み込むようにぶつける。ケインの刀と激しい金属音を立て、ケインは後ろへと弾き飛ばされる。

「…へえ…防ぐねえ。やっぱりあんた割と強いのね。」

『外見から判断しづらいが女の魔族か…だが今のはなんだ?!こいつとやってここまで火花たつ時点で相当に強度が高い…』

「マジかよ…!知性魔族か…?!…ここで死ぬのかよ俺は…」

絶望した表情を浮かべるハンゾウをみた魔族は、口を横に開き、高らかに笑い出した。

「あっははははははは!死ぬってさ!死ぬってさ!そうだねえ…そりゃまあアンタは死ぬだろうさ…でも今決めた。殺すのはここじゃない。もっと拷問してからにするわ。…アタシの好みだわその表情…強がりかませ犬みたいなその表情…いやんなるほど愛着湧いちゃう…」

「拷問癖かよクソッタレ…!」

ハンゾウは縮小化させたクナイを巨大化させて魔族に投げる。

「待て!まだ…」

「へえ…攻撃のカンジはあの人とちょっと似てるね…。でもね…アタシの完っっっっっっ全下位互換だわ。」

ハンゾウが投げたクナイは空中で砕け散る。そして空中に無数に発生した歪な形の槍に、彼は全身を貫かれる。ケインは咄嗟に後ろに下がると、槍を刀で弾き、魔族の方へと跳ね返す。槍は魔族の前で砕けた。

「ああああああああ!がっっっっ…!お……おご…」

「急所外したからさあ…死なないでよ?」

「クソっ…本命は俺だろ…?」

「せーかーい!やっぱさあ…仲間殺されると辛いよ…?ねえそうでしょ?」

「拷問好きの癖に仲間思いかよ…」

「拷問好きにだって仲間思いはいるよ!っつーかそもそも…テメエら如きの命と釣り合わねえんだわ。」

そう言い放つと同時に、魔族は一瞬で距離を詰める。咄嗟に反応したケインは、後づさると同時に刀を彼女に振り上げる。

「良い刀だけど…あんたの使い方がクソだね。」

振り上げた刀は彼女の体に届く事なく、あっさりと砕けちった。

「はーい終わり終わり。あんたのお得意の重力も効きやしないよ。さっさと死にな!」

魔族はケインに勝ち誇ったようにそう言い放ち、足を強くケインの元へと踏み込もうとする。

『ああ…畜生…この痛みはなんだ…?こんな痛みは…一体いつぶりだ?』

ハンゾウは1人思い出していた。

親は知らない。故郷の名も知らない。ただ産まれた時から自分は忍者だった。寝食を共にしたものもそうだった。訓練で毒を毎日飲まされ、殺し合わされ、眠れぬ日々が続く。自分だけが、いつまでも死ぬのが怖かった。死への恐怖を捨てた皆が死以上の恐怖だった。故に逃げ出した。友と共に逃げ出した。必死で逃げて、必死で逃げて、身体中が弾丸に打たれ、悶えるほどの痛みであっても逃げ続けた。そして気づいた頃には追手はおらず、そして共に逃げてきた友人もいなかった。ああ、死んだんだ。死んだんだ。可哀想に。ふと、他人事でそう思ってしまった。ああ、自分は結局初めからあちら側だったのだ。いや、どちら側にもなれない人間だったのだ。そう知った彼は絶望した。いつの時期だったか、何者かになりたかった時期があった。しかしそれが何かなど、彼はとうに忘れてしまっていた。

そこから10年、20年と経ち、暗殺家業に明け暮れても、結局何一つ得られなかった。自分がこの仕事なのはただ殺す能力があっただけ。他人に造られた道を進んでいるだけだ。じゃあ俺は…俺は…なんなんだ?……なんだ、単純じゃないか。

魔族の背中に、突如として巨大な槍が突き刺さる。

「テメエ…!」

「へへ…てめえの使ったそれ…利用させてもらったぜ…上位互換さんよ…」

そうか…俺は…そうだったな。誰かを助けて人のためになりたかったんだ。忍者が何かも知らぬ頃にそう思ったんだ。

魔族がふらついた一瞬の隙を見て、ケインは砕けた刀を魔族の首元に突き刺した。

「ぐう…!っそ!」

「…っらあ!」

青色の血液が辺りに飛び散る。魔族は咄嗟に後ろに下がり、ケインから距離を取る。

「はあ…はあ…ケイン…俺ぁ死ぬ…あいつの魔能力は…盾だ。それも巨大で透明な。最初のは魔力感知発動させてたから形状が見えた。」

「分かったよ…ありがとう。もう休め。」

「…役に立てたか?」

「ああ、大いに。」

「そうかい…」

ハンゾウはそれ以上動かなかった。

「はっ!死んだか!ダメだねえホント。腑ぶちってやったり爪ベリベリしただけで死ぬんだからさー…人間ってロクな…」

魔族が話を終えるより先に、ケインは地面を強く蹴り、折れた刀の先を魔族の首元に向ける。が、やはりその刃は彼女の盾に塞がれる。

「モンじゃないよねえ?だって学習ってモンがねえもんなあ?!」

魔族は空中に再び空中に無数の刃を出現させる。

「…学習?んな必要ハナからねーよボケ」

ケインは両手の刀の刃同士をぶつける。刃は跡形もなく砕け散った。

「…?!なんだこいつ…いきなり…」

魔族が目を見開いた瞬間、大きく伸びた刀が魔族の体を貫いていた。

「が…!な…?!」

「ハンゾウの巨大化がお前に通じた時少し疑問に思ったんだよ。なぜこの攻撃が防げなかったのかってな。あの刃を俺が弾いた時はあっさり盾で防げたのに巨大化程度の変化で防げるわけがない。だから俺は賭けたんだよ。お前の盾は瞬間的な変化に弱いってな。」

「くそっ…!まさかこの刀…お前の魔力で形を変えられるのか…!」

「使い方がなってないねえ…俺が隠してるって可能性を考慮してない時点で偉そうに指摘する権利なんぞお前にはねえよ」

「…っそ!」

魔族は空中に浮かぶ槍を一斉に放ち、同時に後ろへと下がる。

「もう見飽きたよその攻撃は。」

ケインは魔族に刺さった刀を自身の手元へと引き寄せると、刀の刀身を変え、2つに分裂させ、襲いくる槍全てを弾きつつ、彼女へと前進する。

「…!もうアレに対応したのか?!…まずい!こいつ想像以上に……想像以上に馬鹿だねえ!」

魔族は槍の形状を変化させる。形状の変化した槍は挙動を変えてカインに襲いかかる。

「さあさあ混乱しろよ!全部に対応出来るか?!出来ねーよなあ?!」

四方八方からの槍は、ケインの全身へ突き刺さったかに見えた。が、それらは空中で静止し、地面へと崩れ落ちた。

「…お前の体に刃を突き刺した時、ついでに俺の魔力をこの場所に付与しておいた。俺が立ってるのはさっきお前が俺の刀に刺された場所だ。…反重力の壁が今ここに作られている。もうお前の攻撃は通じんよ。…まあこれは攻撃してくる対象に魔力付与しなきゃ発動できんからあまり使い勝手は良くないんだが…ご自慢の防御力故にお前が油断してたおかげで簡単に条件達成できたよ。」

「……あああああ!」

「…長期戦は無理と見て特攻か。いや、それすら考えてないな。…馬鹿なのはどっちだよ。」

ケインは刀を一本にすると、襲い掛かる彼女に刀を向け、彼女が至近距離に来たタイミングに合わせ、刃の等身を変化させ、彼女の胸に刀を突き刺した。

「…全部の攻撃塞がれる側に立って研究しときゃまだマシだったろうな。」

ケインは刀を上に振り上げ、突き刺さった体ごと彼女の頭を両断し、そして畳み掛けるように、重力を刀に纏わせ、上から振り下ろした。魔族の体は刀に引き裂かれた直後、重力で押し潰されて青色の血液を飛び散らせ、跡形も無く潰れきった。

ーーーーーーーーーーーー

クレアは街を駆け回り、魔族の骨の攻撃を回避し続けていた。

「骨の攻撃か…いやしかしまあ…多いねえ数が!」

クレアは追跡する骨を振り切ろうと、ビルに隠れる。

「それで射線を切ったつもりか?」

魔族は背中から無数の骨の触手を再び生やすと、クレアが隠れたビルごと、射出した骨をビルに貫通させ、クレアのいる方向に浴びせる。

「やっぱりそうは行かないよねえ…っと!」

クレアは手に持った簡易魔法結界で自身の元に迫る骨を弾くと、再び後ろへと下がる。

「無駄だ…すでに魔法結界は張ってある。」

「やはり私は戦闘向きじゃあ無いね…。ケイン氏ならきっとどうにか出来ていただろうに…。まあ…仕留められるくらいの用意は出来たがね!」

クレアがそう言い放った途端、ビルが突如として形を変える。

「まさか…ビルごと…!」

「魔力消費がでかいよ全く…皆を治療する事も考えると長期戦は無理だねえこれは…」

クレアは己の身の丈3倍程の巨大な銃を4つ構えると、クレアは引き金を引いた。

「…チィ!」

魔族は骨で砲撃を受け止めようと構えるが、骨は砲撃を受けると、即座に砕け散った。魔族はクレアに背を向けると、ビルの間を移動し、追跡する砲撃を振り切る動きに切り替えた。ビルの間を砲撃は易々と抜けていく。

「この位消耗したなら…!」

魔族は背中の骨を砲撃に当てる。空中で爆発が起こり、砲撃は相殺された。が、残った3発が魔族へと襲いかかる。魔族は自身の体を骨で囲み、砲撃を防御する。

「ぐう…!」

砲撃は骨を貫き、魔族は一瞬よろめく。

「やはり遠すぎると威力は落ちるか…火力に振ろうにも射程が届かない…かと言って消耗戦もダメ…となると…」

クレアは魔族から放たれる骨の上に飛び乗ると、残った骨を砲撃で破壊し、魔族に急接近する。

「…俺の魔能力はなんだと思う?お前は使わせようと積極的に攻撃していたようだが…とっくに使われている。」

地面から突如として発射された骨は、クレアの腹部を空中で貫いた。

「が…!ああ!」

ビルの屋上までの高さまで伸びた骨から、クレアの血液が滴り落ちる。

「俺の魔能力は『骨の生成』…そして俺の固有能力は骨を生成する種の生成…。全く同じさ。予想外だっただろう?」

「ぐ…うう…!」

クレアは砲撃で自身に突き刺さる骨を砕くと、骨が突き刺さった状態のままビルの屋上へと登り、魔族の前から姿を消す。

「また逃げるか…俺との戦闘を避けたのか?…だが逃がさん。」

魔族は屋上へと飛ぶと、クレアの血痕を追い、再び下へと降りる。

「魔力を消したつもりだろうが…結局視覚の情報に争う事は出来んよ。」

魔族が近づくのを妨害する合図と言わんばかりに、曲がり角から銃撃が浴びせられる。

「やはりか…ここで終わりだ!」

魔族が骨を生やした瞬間、彼の目に映っていたのはクレアではなく、体を魔装銃に変えた女だった。

「まさか…囮…?!」

「遅いよ。」

背後に迫ったクレアは、魔族の顔面に空かさず銃撃を浴びせる。魔族の顔は半分吹き飛び、体が地面に転がる。クレアは銃口から杭を射出し、魔族の体に刺す。

「これで再生力は低下する…デボラ氏!」

「…分かってる!」

魔族への恐怖に怯えながらも、デボラは銃口を魔族に向ける。クレアはレドとの会話を思い出していた。

『…なるほど?なぜデボラ氏と私を?できれば遠近に対応できるように違うタイプのものを連れた方が良いだろうに。』

『ハンゾウさんや先輩は別の方に行ってもらいますので、クレアさんは街中での銃撃戦になると思うんですよ。…そうなってくると、デボラさんが加わればかなり楽になると思います。…あわよくばデボラさんかクレアさんの銃撃を囮にして追っ手がこちらにいると錯覚した魔族を背後から襲撃なんて事も…』

「本当にそうなるとはね…ま、血痕の罠に関しては私のアドリブだが。」

「二度とあんたの血痕なんか持ちたくないわ!」

「はははは!血痕なんて私の魔能で鉄の一部に変えて消せるのにね!治療できても血痕は残ると思い込んだ君の負けさ。」

「く…そ…」

「しかしまああれだね…。君のお仲間さんは随分とアレだったよ。」

銃口を向けたクレアは、ニヤリと笑みを浮かべると、魔族に意気揚々と語り始める。

「…何というか…一方は自己肯定感の無さから身の丈に合わず達観し続けて墓穴を掘り、もう一方は自身の戦いたいと言うだけの意志のみで命令を無視して勝手に行動し、そしてあっさり死亡…。随分とご優秀な部下をお持ちだこと!」

「貴様ああああ!」

「…いや失敬、君のお仲間を愚弄するような事を言って。私とて同類だよ。特に後者に関してはね。…君が本当に仲間を大事に思っていたか少し気になったのさ。何せやたらと『冷静』だからね。だがこうして怒るということは大事に思っていたんだろう。……ご協力感謝する。」

「こいつ…!腐ってる…」

デボラは、クレアに恐怖にも近い視線を向ける。

「見たところ魔力が二つ消えたが…お仲間さんが死んだのかな?こりゃまた…いや失敬、これ以上の嘲笑はよそう。」

「殺す…殺す!」

「まあ待てギルゼウス。」

「「!」」

突如として背後に現れた魔族に、クレアとデボラは咄嗟に銃口を向ける。

「……やたらと冷静なのは私の方針だ。何せ冷静でいねば何事も成し遂げられん。先ほどの2人は冷静さがなかったが故に死んだ。…何せ新入りだからな。貴様の言葉は間違ってはないよ。彼らは無能だった。……だがここで死ね。」

魔族がそう言い放った次の瞬間、クレアの両手両足が一瞬の内に消え、魔族の蹴りがクレアの腹部を捉えていた。鈍い音を立ててクレアの全身の骨は折れ、そのまま壁へと吹き飛ばされた。

「さて…例のシャーロットとの距離は…」

「此方に気付いたとしても大体7分程かかるでしょう。この前見た移動速度ではあれが限界だ。」

「…分かった。では行こう。」

その場で硬直するデボラを無視し、魔族はケインとレドのいる方向を向いた。が、次の瞬間、膨大な魔力が放出されるのを感知し、魔族は後ろへ振り返った。

「成程…大体分かったよ……仕方ないねえ…実に致し方ない。ここまで強いと治療以前に治療する対象が即死だよ。…まあつまり…ここで足止めさせて貰うよ。」

クレアの右目から炎のように、凝縮した魔力が放出される。

「魔殲…?!こいつその領域に…!」

「なるほど…貴様も『ソレ』を使える訳か。」

「正直デメリットがあるからね…あまり使いたくは無かったよ!」

クレアは自身の周囲の建造物、地面を次々と変形させ、武器へと作り替えていく。

「成程…周囲の物体の無条件の再構築…。それも物質すらも無視している。切り札にするには申し分ないと言える。」

「…それはどうも。」

ーーーーーー

「さっきから放たれてるこの高密度の魔力…!まさかクレアが魔殲を…いや、それ以上に何かいる!…間に合ってくれ…!」

ケインは、強大な魔力の放たれる場所へと走る。

『もしこの間にあの人が来れば勝ち…だが相手が手段を選ばず地下に避難している人間を人質に取ったら終わり…勝てる補償はないが…とにかくクレアと俺が引き止めるしか…!』

そう思考を巡らせながら、目的地に到着したケインの目に映っていたのは、体から血を垂れ流して倒れるクレアと、それに背を向ける魔族の姿だった。

「……クレア!」

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