第18話

「はっはっはっは!いーね!早く殺しにこいよ俺を!ほら!ほらあ!」

ジハイドはケインの攻撃をいなしながら挑発する。

「クソ…!何回重力かけても鈍くなりやしねえ!」

「誰か殺してくれよ!魔装銃持ってヘッドショットだよ!」

クレアはその言葉にに応えるように、銃の引き金を引き、魔弾を彼のジハイドの額に命中させる。

「おっほお…!良いじゃねえの…!いー感じに死ねそうだったぜえ…?お陰でちょっと血が出たよ…」

ジハイドは、額から垂れる血を口に含んでほくそ笑んだ。

「はあー…クソ…」

突如ため息をついて脱力し出すケインに、ジハイドは期待が打ち砕かれたような表情を浮かべる。

「…あっそ。アンタもそーかい。俺を満足に死なせちゃあくれねえって訳だ。所詮はあんたも自分の命に凡庸に縋り付くクソ野郎って訳だ。…もー良いや、お前に殺されてやんね。…でも安心しろよ?死ぬのは案外悪いもんじゃねえのさ。人はいつか死ぬもんだ。そしてそいつは一度しかねえ。自分の人生で一度しかねえ体験だ。そしてそれは全員に備わってる。誰もが平等に人生に一度の体験を味わえる!だが俺は何度でも死ねちまう。最高に不幸だよ…だから俺を完全に殺して欲しかったんだが…なあ!」

ジハイドは自身の爪をケインに振り上げる。が、その直後、彼の手首が上に打ち上がり、道路へと転げ落ちた。

「…!はっはぁー!最高ぉだよお前!今の一瞬で俺の魔力のブレを見切ったなあ?!…これだから天才って奴は堪らね…」

「もうお前は…喋るな!」

ジハイドの口をケインは掴むと、そのまま車から飛び降り、地面へ彼の頭を打ち付ける。

「クレア、頼んだ。」

「…了解ィ!」

クレアの耳に彼の声は殆ど聞こえなかったが、不思議と意味を感じ取る事はできた。

「良いねえ…タイマンって訳だ。…良いぜえ?!俺もてめえを殺す気でやるよ!」

ジハイドは自身の右腕に魔力を集中させると、地面を削りながらケインへと振り上げた。

ケインは彼の爪が自身の首元へ届く直前、自身の魔能力を発動させる。その途端、ジハイドの腕は急激に重みを増す。

「…まさか!」

彼はケインの思惑を察するが、それに気づいた頃には、既に彼の体は上下に裂かれて地面に転がっていた。

「くっそ…そう言うわけか…重力が効かねえって発言はブラフ…テメエは細かい破片に重力を集中させてやがったか…道理で弱すぎると思ったよ…。」

「細かい破片に重力を使っても突き刺さるだけで使い物にならねえからな。…お前の纏ってる魔力に大量に埋め込んで魔力を集中させる瞬間に重力を増幅させただけだ。」

「だけどなあ…悪役ってもんは第二形態を持ってるもんだぜ?」

ニヤついた表情を浮かべたジハイドは、自身の分裂した体を接着させ、高らかに笑い出す。

「ひゃははははははは!奴はまだ2段階の変身を残しているっつってね!」

「マジかよオイ…でもやるしかねえか…」

「行くぜ?楽しませてくれよ!」

ジハイドが魔力を解放しようとしたその瞬間、強大な魔力を感じ取り、彼の動きが止まる。

「待て…まさか…シャーロットがいるのか?」

「……」

ケインは答えない。

「マジですかー…くっそ…あまりにたのしーもんで魔力感知忘れてたわ…こりゃあダメだな。」

「……死ぬのが好きなんじゃねえのか?」

「死に方くらい選ばせろよ!じゃあテメエは生きるだけならなんでも良いってのか?俺には理想の死に方ってもんがあんの!一攫千金して良い女抱いてそんですんげー強いやつに殺されんの!第二希望がお前みたいなやつとバッチバチにやり合って殺される事で、第三希望がなんでもねえやつに殺される事だ!シャーロットに殺されちまったら俺の第一希望がオジャンだ!…ってな訳でサイナラ!」

ジハイドは姿を消した。

「なんなんだよ…あいつは…」

ケインはへたり込んだ。

ーーーーーーー

「……!」

ビルの屋上で待機していたシャーロットは、何かに気づき、無線機でレドに連絡を入れる。

「ちょうどよかった。まずいことになりました。」

「分かっている。……魔族だろ?向こうからいきなり出てきやがった。…どうなってる?さっきまで全く感知できなかったぞ。」

「無知性魔族の群れが……50、60?」

「90って当たりだな。…どうする?魔族が来るまで20分だ。それも長く見積もってな。」

「避難のアラートは…鳴らないんですかね?」

「無理だろうな。いきなりすぎるし、鳴るまでに5分はかかるだろう。」

「……分かりました。では早速魔族のところに向かって下さい。」

「おいおい、俺の魔能力じゃ当たり吹き飛ばして巻き込むぞ?

「いや、以前僕の前で魔族を爆発させたでしょ?アレの威力も相当なのは分かりますが、魔族が密集した状態ならある程度抑えられる。」

「無理だよ。あれは一定時間魔族に触れてないといけない。…どう考えても間に合わんよ。」

「ああ、…誤解させてすいません。殲滅する事が目的じゃあないんです。…住民は緊張感がない。魔族が来たと言っても本気にはしない。……まあ先日の件があるので本気にする方もある程度いるとは思いますが。とにかく『これは本当なんだ』と思わせることが重要なんです。」

「…なるほど、爆発を起こしまくれば住民も本気になるって訳だ。」

「…ええ、ハンゾウさんとケイン先輩は魔族を止めに向かいますので、シャーロットさんは援護がてらそこに…。」

「…ははは!俺が援護たあね!初めてだよ!…やってやるよ。」

「ありがとうございます。」

「一般市民守れるか?」

「んだよそりゃ。忍者を少しは信頼しろ。」

ハンゾウとケインはそう言葉を交わすと、街へと進行する魔族に向かっていった。


「……私たちが魔力防壁シールドを張る区域まであと5分ほどです。空港との距離も近い。車にも魔法結界を張って置いたから、大丈夫だと思いますよ。」

「君は…無関係の人間が巻き込まれない事柄があると思うか?」

ジャックの突然の質問に、クレアは少し考える仕草をする。

「無いですね。誰しもが関係している。でも、誰しもが関係していないとも思います。…ああ、訳が分からないでしょう?まあつまり…都合が悪いと自身は無関係を装って逃避する癖に、いざ承認欲求に駆られた途端、あたかもその事柄をしているかの如くそれらしい事をペラペラと並べてしまう人間が多いって事ですよ。…結局どっちも何もしない。何もしないでいざ直接巻き込まれたら都合良く助けを求める。それが民衆で、それが社会。…流石に主語が大きいですね。話もズレました。すみません。」

「…つまり君は、これで巻き込まれた人間は因果応報だと?」

「まあそう言う事ですね。…彼らの責任だ。…自身の罪すら自覚できていない時点でそれ相応の罰が降るべきだと思いますよ。」

「…君は興味があるか、あるいは欲求のそそられるものにしか関わらないと言っていたね。…私はどうだい?」

「私は貴方には全く興味をそそられない。退廃して自身の疲労困憊を糧に生きている抜け殻だ。そこに葛藤も理念もあったもんじゃない。」

「言葉を慎め!」

「ナック氏…だっけ?君はもう分かっているんだろう?彼がこの後何をするのか。…彼がなんなのか。」

「…うるさい!」

「…申し訳無いね…私は自身の興味に抗えない主義でね。クズと言っても差し支えない程に…」

「……イカれたやつしか居ねえのかあそこは…」

「ああそうさ!あの場所は皆ネジの外れた連中の集まりさ!自身の恐怖の為に恐怖を生み続ける者…自身の孤独のために自身のあらゆるものに怒るもの…自身の高揚のために縦横無尽に斬り続ける者…自身の全ての感情を興味と欲求のために捨てるもの…そして自身の領域のために全てを切り捨てるもの…。そんな連中しかいない。そして皆それを自覚している。自覚した上でここにいる。君は君の罪を自覚できているかい?いや、君は君を自覚できているのかい?」

「……」

「…答えるわけがないか。こんな問いになんの意味もないのだからね。…何せ愚問だと思ったからだ。愚問は誰も考えようとしない。それこそが真の愚問だ。さあ…この先だ。魔族は私たちを狙っている。もしこのまま着いて行ったら巻き込む危険性があるからね。デボラ氏がこの先にいるから其方に交代だ。」

そう言い終わると、クレアは車から降り、走り去っていく車が曲がり角で曲がるのを確認した。

「さて…随分と意外だったよ。君らが人間を巻き込まないとはね。」

「…どうせお前がそうさせないだろう。…そもそもそうしなくともここら一帯のものは死ぬ。」

「はは!無差別テロを起こす気満々って訳だ!…だがアラートのお時間だ!そもそも…本当の本当に私以外の人間を殺すつもりでいるのかい?」

「……どう言う意味だ?」

「どー言う意味だろーねえ!」

クレアは魔族へと向き直ると、銃口の照準を対象へと定めた。

街中にアラートの音が鳴り響く

『魔族災害発生!至急避難して下さい!』

「何だよ…!うるせえなあ!」

男は眠りから目覚めると、勢いよく窓を開く。そこに広がっていたのは、こちら側に進行する大量の魔族だった。突如、巨大な爆発音が男の耳に届く。

「ま、魔族…!…そ、そうだ地下に避難所が…」

「早く避難して下さい!」

避難所への誘導を行なっている巡回魔道士に、男は問いただす

「おい!どうなってるんだこれは!」

「と、兎に角避難させろと言う指示が…入ってください!」

魔道士は避難者が来ないのを確認すると地上に出て、進行する魔族を確認する。

「あれは…!魔族が倒されている…!」

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