第13話
依頼が終わった日の夜、どこかしめついた空気がそこには漂っていた。
「……なあ、レド。お前」
「帰ります。」
ケインの言葉を振り切り、レドは事務所の玄関の扉を開く。レドは自宅に帰ろうと電車に乗った彼は、椅子に座って上を見ながらただ呆然と言葉を再生していた。
『人殺し』
その言葉がただただ脳裏に響き渡る。その通りだ。否定などできない。間違っちゃいない。どこまで取り繕い、自身を拒み、懺悔しようと、僕は人殺しだ。それだけは歪めては行けないんだ。
「……何してんだろ。」
自然とそんな言葉が漏れていた。魔能力持ちの一般人に教育させる制度は一年の筈だ。それなのに引き伸ばしてやってしまった。それそのものが間違いだったんだ。もし一年でそれを終えて、一般で職についていたら、何かしら変わっていたのかもしれない。……いや、きっと同じだ。同じ事だ。僕はロクな人間ではないのだから。そうであったとしても、きっと何処かで大罪を犯し、社会から除外され、そしてまた人殺しと呼ばれていただろう。何故なら僕はおおよそ人と呼べる要素など持ち合わせてはいないのだから。レドはそう自身を罵倒しながら帰り道を歩いていた。そろそろ着く頃だ、とふと顔を上げた。その時彼の目に映っていたのは、彼の自宅が燃える姿だった。
消えてしまう。消えてしまう消えてしまう。そう何度も脳内で連呼しながら、レドはそこへと走る。駆けつけた消防員を振り切り、崩れる寸前の自身の部屋へと入った。高熱を纏うドアノブなど、もはや彼には無いも等しかった。彼は自身の棚のあった方向を見る。だがそこにあったのは、ただ燃え盛る木材のみだった。消えてしまう。消えてしまう。再び彼は連呼した。棚の中にある母の肩身を、既に炭となった木材の中から探す。だがそこにはやはり燃え盛る炭しかなかった。既に自身が大火傷を負っているのは分かっていた。だがあれだけは、あれだけはとレドは掻き出す動作をやめはしなかった。だがそこにあったのは、黒く染まった長方形のみだった。母の唯一の写真でさえも燃えてしまったのだ。
「ああ…ああああああああああああああああああ!」
彼は体が燃えていくのを感じながら、深い絶望へと堕ちていった。
「あれ…レドの家か…?!」
不安になり、彼をつけてきていたケインは、燃え盛るマンションを見て驚愕していた。救急車の方へと彼の視線は移る。まさか。いやそんな馬鹿な。ケインは群衆を押し退け、その真実を確認した。そこに居たのは、体中が赤黒く染まったレドの姿だった。
「……!」
もはや言葉さえ出なかった。
「
「ダメです…ほとんど効果がないです。心拍数が低下している…。これでは…」
救急隊員はそう言い放つ。ケインはそれに絶望する他なかった。
「……大丈夫。これならね。」
突如、1人の白衣を着た女性がレドの前に立った。
「…クレア?」
「何か嫌な予感を感じたのは私も同じでね。…ホイ!」
クレアは注射針を彼の静脈へと差した。
「即効性の
レドの弱々しかった心拍が戻り、呼吸が安定した。
「貴方は…天級魔導師のクレア・アインベルツ…!」
「皮膚も完全ではないが治せると思うよ、いい相手がいる。電話借りるね。……あー…うん。取り敢えず来てくれ。じゃあここの病院に運ぶ感じで…」
「ええ?!そんな…」
「後遺症がこのままじゃ出るんだよ!貴重な回復魔導師がそうホイホイとすぐ出てこれる訳がない!実際ここまで焦ってるってことはどこの病院にも居ないんだろう?そんな状況で腕の効く回復魔導士が協力してくれる!それの何が不服なんだい!命令か?!それとも秩序か?!くだらないね!倫理を語る前に命を語り給え!」
「あーもう!分かりました!」
救急院はハンドルを握り、指定された病院へとハンドルを切ろうとする。
「あ、君も付き添いだ。」
クレアは、群衆の中に紛れるケインをの手を引く。
ーーーーーーーー
救急車が停車したのは、一軒家のこじんまりとした家だった。
「ここが…?どう見ても病院には見えないんですが…」
「やあやあ済まないねえ!」
扉を開けて出てきたのは、寝癖や髭の整えの一つもされていない、メガネをかけた中年男性だった。
「あんなあ…俺だって暇じゃねえの!」
「アルコール臭を漂わせながらよく言えるねえ君も。」
「…で?患者は?…あーあーあー…随分とやられちまって…こりゃ30%は燃えてんな。…定着型込みの3層で行くか。…
彼はレドの腹部へと手をかざし、魔力を放出する。すると、目まぐるしい速さで彼の傷が癒えていく。
「…ふう。金は払えよ。」
「…君に金を貸してたの忘れた?」
「ウッ…!」
男は気まずそうな表情でクレアを見る。
「彼は…何者なんです?」
救急隊員の問いかけに、クレアは答える。
「ああ…彼はフリー魔導士唯一の神級魔導士、ベイル.スタンフォード。…言ったろ?腕利きだって。」
「神級…?!神級って言ったら世界で26人しか居ない魔導師の最高位の…!」
「…ケイン氏。彼のフォローは頼んだよ。」
「ああ…分かってる。」
眠り続けるレドを、ケインは一身に見ながらそう言った。
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