第25話
教室を出て静かな廊下を保健室に向かって歩く。横目で見た彼女は無言のまま、沈んだ表情で廊下の先を見つめている。
「アオ、どうしたの?」
口から出た自分の声があまりにも掠れていてアマキは「あれ?」と苦笑する。そんなアマキを横目で見て、碧菜は「変な声」と笑った。そしてなぜか「ごめん」と謝った。
「え、なにが?」
「さっき気づくべきだったなと思って。フジの具合が悪いこと」
「……それは無理じゃない? わたしだって気づいてなかったのに」
「だからだよ」
碧菜は力なく笑った。
「フジはほんと、自分にも他人にも無関心だからなぁ。だから、わたしくらいはフジのことちゃんと見ておかなきゃって思ってたんだけど。親友がこんな体調崩してんのに気づかないなんて……」
――親友。
碧菜はときどきアマキのことをそう呼んでくれる。それはきっと彼女にとって友達とは別枠の存在なのだろう。しかしアマキには友達と親友の違いもよくわからない。
ぼんやりとする思考でその違いについて考えていると、いつの間にか保健室に到着していた。
「失礼しまーす。病人連れてきたんですけど」
中では養護教諭が机に向かって座っていた。そしてベッドに腰掛ける女子生徒が一人。
「あら大変。とりあえず、そっちのベッドに横になってくれる? 付き添いの子は利用者名を書いてくれるかな」
養護教諭に言われるがままアマキはベッドに向かう。そしてブレザーを脱いで横になりながら隣のベッドに座る女子生徒に視線を向けた。
彼女はどうやら本を読んでいるようだ。ブレザーは着ておらず、代わりにパーカーを身につけている。そしてなぜかフードを深く被っていた。
具合が悪そうには見えない。堂々とサボっているのだろうか。顔はよく見えないが、かなり小柄な体型であることは座り姿からわかった。
「二年一組の天鬼さん、ね」
「あ、はい」
アマキは教諭に視線を向けた。
「具合はどんな感じ?」
「怠いです。すごく」
「そう。じゃあ、とりあえず熱測ってみようか」
「先生、体温計ってこれ?」
「そうだけど、勝手にいじらないで?」
碧菜は養護教諭に軽く注意されて苦笑している。そのとき「アマキ……?」と呟くような声が聞こえた。
「え……?」
アマキは声が聞こえた方に顔を向ける。それは隣のベッド。そこに座っていた女子生徒がゆっくりと被っていたフードを取った。現れた顔を見てアマキは思わず微笑む。
――シロだ。
きっと熱のせいで夢でも見ているのだろう。ここに彼女がいるわけがない。しかし夢にしては彼女の姿はリアルだった。シロは心配そうな表情でベッドから降りるとアマキの顔を覗き込んでくる。
「大丈夫だよ」
ぼんやりする意識の中、アマキは呟く。そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫。ああ、そうだ。シロに渡したいものがあったのに。写真が入った封筒は鞄の中だ。取りに行かなくては。
しかし一度横になってしまったアマキの身体はすっかり眠る体勢に入ってしまったようだ。意識も睡魔によって眠りへと引っ張り込まれていく。
――せっかく会えたのに。嬉しそうな顔、見られなかったな。
そんなことを思いながらアマキは怠くも心地良い眠りの中へと意識を手放した。
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