第18話
その日の夜、普段は滅多に鳴らないアマキのスマホが着信を告げた。
「寝ようと思ったのに……」
呟きながらスマホの画面を見る。そこに表示されているのは碧菜の名前だった。無視してこのまま寝てしまおうかとも思ったが、どうせ次に会ったとき文句を言われるに決まっている。アマキは仕方なく通話をタップした。
「あ、出た。てか、出るの遅いよ。わたしからの電話はワンコールで出て」
「あんたはどこの重い彼女だよ」
アマキの言葉に碧菜は楽しそうに笑った。アマキはため息を吐いて「それで?」とベッドに座る。
「何の用? こんな時間に」
「こんな時間って、まだ十一時だよ? え、まさかもう寝ようとしてたの?」
「悪い?」
「いやいや、悪いっていうか。せっかくの夏休みなんだからもっと夜更かししなって。女子高生らしからぬ健全な生活じゃん」
「女子高生だからでしょ。早く寝るとお肌にも良い」
「マジか」
ふいに真面目な声が返ってきてアマキは思わず笑ってしまう。
「で? ほんとに何の用なわけ?」
「いや、じつは今日のことなんだけどさ。わたし、何かまずいことしたかなぁと今さらながらに思ったりしてて」
「まずいこと?」
アマキは首を傾げる。
「シロちゃん、なんかわたしのこと避けてたじゃん? 帰るときもさ……。いつもはあんな感じじゃないんでしょ?」
「ああ、まあ」
アマキは頷きながら、シロとクロが帰って行ったときのことを思い出した。クロがもう帰ると言い出したとき、シロは無言のまま荷物を片付けてそのまま店を出て行ってしまったのだ。
カウンターの前を通り抜ける一瞬だけアマキに視線を向けた気がしたが、サングラスをしていたのでよくわからなかった。
「たぶん今日は機嫌が悪かっただけだよ。別にアオのせいじゃないって」
「でもさぁ」
「アオが来る前にもクロが言ってたから。今日のシロはなんか怒ってるみたいだって」
「そうなの?」
「そうそう。だから気にしないで平気。ていうか、アオもそういうの気にするタイプだったんだね。意外だわ」
「またそういうこと言う……。まあ、いつもならそんな気にしないけどさ、シロちゃんはフジの友達じゃん? だから」
「友達、か……」
思わずアマキが呟くと、碧菜のため息が聞こえた。
「フジってさ、そういうところにこだわるよね」
「そういう? なんのこと?」
「いや、まあいいや。で、花火大会のことなんだけど」
「ああ、うん。なに、唐突だね?」
「シロちゃんって人混みが苦手なんだよね? 前もそれで体調崩してたんでしょ?」
「まあ、そうだね」
「だったら出店を回るのはほどほどにして、人が少ない場所で花火を見るっていうのがいいかな」
真面目な口調で言う碧菜をアマキはさらに意外に思う。彼女と遊ぶときはいつだって碧菜のやりたいことが優先だった。自分が楽しければ周りも楽しいはず。そういう考え方を持っていると思っていたのだが。
「まさか、シロのために計画練ってくれるの?」
「え、当然じゃん」
「なんで?」
「友達が苦手なことわかってるならそれをする必要ないでしょ?」
「……ふうん」
避けられたと感じていても碧菜にとってシロはすでに友達の一人にカウントされているらしい。彼女にとって、友達とそうではない人との境界はどこなのだろう。
「フジ?」
「ああ、ごめん。それで? 人がいない場所ってあるわけ?」
アマキの質問に碧菜は悩みながら様々な提案をしていく。結局その日、電話を終えたのは深夜をかなり過ぎた頃だった。
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