第11話 無理難題

 アークさんが絶対に戦うなって注意するほどのオリジンさん。どんな人なんだろう。物凄く怖かったら私、泣いちゃうかも。

「なんで喧嘩売ったらいけねぇんだよ。俺一回戦ってみてぇよ」

「駄目だ。今のお前なら二秒ともたないぞ」

 嘘でしょ? ネオが戦っても二秒しかもたないの? これが序列の上位者なんだ。強すぎる。

「アーク。俺ならどのくらい戦える?」

「珍しいね。レグルスが張り合ってくるなんて。ネオに感化でもされた?」

「ただ今の自分が、どのくらいの域なのか気になっただけだ。あのガキと一緒にはしないでくれ」

「そうだね。今のレグルスが戦ったら八秒はもつと思うよ」

 レグルスはどこか悔しそうにしていたが、すぐに立ち直りケロっとしていた。引きずらずに、すぐ切り替えることがレグルスの強さなのかもしれない。

「まぁ、ガキには勝ったからいっか」

「んだと、クソ猫! これからもっと強くなるんだよ!」

「ま、このギルドで良い勝負をするのは、マスターとノアら辺かな。もしかしたら、ノアなら勝てるかもしれないけど」

「ノアさんってそんなに強いんだ……」

 聞こえるか聞こえない程の小声で呟いた声が、アークの耳はしっかり捉えていた。

「もしかして、ノアのことそんなに知らない?」

「は、はい……」

「話してなかったの?」

「いや、最低限は話してる。あまり話過ぎるとノアに負担をかけると思ってな。だが、そろそろ話そうかと思ってた頃だ」

 すると、バーの奥の階段から物音がした。ギシギシと木が緩んでいて今にも崩れそうな感じだ。

「だ……め」

 そこには、ボサボサした長い髪で顔が隠れている人が、ほふく前進をしながらこちらに近づいてくる。

「ノア!」

「お願い…はな……さないで。もう……あんな目は……見たくない!」

 今にも消えてしまいそうな声。痩せ細っている体。栄養が足りていないことがよく分かる。

「レグルス、ノアを部屋まで連れて行ってやってくれ」

「分かりました」

 レグルスはノアを抱えて部屋に向かった。ノアを抱えたときレグルスは、ノアのあまりの軽さに驚いていた。

「ノアには、あぁ言われたが大切なことだから話しておく。アークもそれで良いか?」

「あぁ、問題ない。ノアにも前を向いて進んでもらいたいからな」

 それから、私だけノアさんがどうして今のような状態になったのか教えてもらった。数年前までは、このギルドの主戦力だったこと。何故ノアさんの固有魔法のことをネオ達は知らないのか。そして、どれほどの実力の持ち主なのかを知った。知った私は、口から言葉が出てこなかった。


 ノアさんの話を聞いた後、重い空気を変える為にアークさんが気を利かして、これからどう活動するかなどは、夜話し合うことになった。

「あぁー腹減ったなぁー。晩メシなにかなー。エレナは今日の晩メシなんだと思う?」

「んーなにかなー。カレーとかかなー」

「おぉー! カレー良いな!」

 私とネオはそんな話をしながらバーに向かった。すでにバーには、クラウン、アーク、レグルス、リカ、アラクが集合していた。

「全員揃ったな。今日は僕がご飯を作った。おかわりもあるから沢山食べてくれ」

「マジか! 副マスターのメシとか超久しぶりじゃねぇか!」

 それぞれ座っている場所に料理が置いてあった。エレナの予想していたカレーは無かったが、とても美味しそうなビーフシチューなどアップルパイがあった。みんなは、それぞれ食べ始めた。

「さてと、食べながらでも良いから聞いてほしい。これからのことについてだ」

 今では、マスターよりマスターぽいことをアークがしている。

「まず、序列の各国配置だが、これが正式に決まるのは一年後だ。もしかすると、ここにいるみんなも、色んな国に配置される可能性がある。だから、それまでに各自のレベルアップをしたいと思っている」

「なんのために?」

 普段なら最後まで話を聞いてから、質問をするレグルスが話の途中で質問をしてきた。

「他国や評議会が、このギルドに逆らえないようにする為に。そうすればこのギルドのみんながバラバラになることが無くなる」

 レグルスはアークの答えに同意したのか、深く頷いた。

「だからみんなにはS級クエストを受けてもらう」

 S級クエスト。それは最高難易度のクエストを意味する。過去には序列の称号を持つ者でも、死亡した例があるほどの難易度。クエスト内容は様々で、魔獣討伐、希少素材の採取などで、S級のほとんが討伐内容である。

「これは、チームでクエストを受けてもらう」

「ちょっと待ったー!」

 アーク以外の全員が声を揃えて、待ったをかけた。アークはポカンと立っていた。

「え、どうしたの?」

「いやいやいや、どうしたの? じゃねぇよ! S級だぞ!?」

「え、うん。そうだよ? たかがS級だよ?」

 それを聞いたみんなは、「たかが」と言ったアークにツッコミを入れたかったが、全員ツッコミをいれるほど気力はなかった。

「じゃあ、チームで行動する?」

「いや、そういう事じゃねぇよ……」

 それから、S級クエストを受けるためのチーム分けが始まった。最初は、くじ引きやあみだくじで、決めようとしたが、それだと戦力が偏ってしまう可能性があったため、話し合いで決めることになった。

「じゃあ、一つ目のチームはネオ、レグルス、リカ、エレナで良いかな」

「あぁ、問題ねぇ! 安心しろエレナ。俺が必ず守ってやる」

「う、うん!」

 ネオならどんなことがあっても、私を守ってくれそうな気がした。約束を守ってくれる。てか、もうみんなS級クエスト受ける気満々なんだね。

「君たち四人には『水災すいさい女王蜘蛛じょろうぐも』を討伐クエストを受けてもらう」

「なんだそいつ? 初めて聞く魔物だ」

「俺も聞いたことがないな」

「あたしも~」

 え、序列の三人でも聞いたことのない魔物? もしかして、新しく発見された新種のモンスター!?

「違うよ。それは『水災の女王蜘蛛』は名前じゃない。異名だよ。つまり、異名を持つモンスターということは、S級の魔物以上の力を持っていて単騎で、都市の二つや三つは落とせる」

 そ、そんな魔物と私戦うのー!? 絶対私足手まといになるし、死にかけるじゃん! 嫌だー!

「おもしれ! 俺が絶対ぶっ潰してやる」

「ガキには無理だよ」

「私もそう思う~」

 ネオ、レグルス、リカは余裕を出している。これから、S級クエストに行くのだが緊張しているようには見えない。緊張よりも集中しているようにも見える。

「一応アドバイスはしておくよ」

 お面をしていて、アークの顔は見えないがこのときのアークは、少し楽しみながら微笑んでいるような感じがした。

「人を疑うな。周りを疑うな。己を疑え」

「え、それがアドバイスですか?」

「うん、アドバイスとかヒントと言うより、ほとんど答えかな」

 なんで、魔物を倒すのにこんなアドバイスがいるんだろ。普通だったら戦闘のときのアドバイスじゃないの?

「で、マスターの私はどんなクエストなんだ?」

「え、マスターもクエスト受けるの?」

「え、受けないの?」

「だって、十分強いし。この前の件で自分を死んだことにしたから、マスターがクエスト受けたら、評議会になんて言われるか分かんないよ」

 クラウンは明らかにショボンとしていた。少し可哀想に思えてくる。

「だから、マスターはホームでお留守番ということで……」

 クラウンはさらに落ち込んでしまった。ほっとけば立ち直ると思い、みんなはクラウンを放置した。クラウンは明らかに孤立してしまった。

「で、アラクは一人でS級クエストを受けてもらう」

「りょーかーい」

「クエスト内容は『禁書の封印』をお願いしたい。西の孤島に封印されている。このクエストは、他のギルドと協力して挑むことになってる。だから、ちゃんと仲良くするんだよ。可愛い女の子を見つけてもナンパするなよ」

 アークさんの圧がこっちにも伝わってくる。アラクさんの圧怖すぎて、アラクさん足震えてる。なんかアークさんの恐怖を見た気がする……

「で、アークはどうするんだ?」

「僕は、裏ギルドの解体作業かな」

「は?」

 みんな息ぴったりで綺麗に揃った。


~死獣の氷山~

 どこ見ても氷山で大吹雪が吹いている。足場も雪しかなく、花や草さえない。その中をフードを深く被った人が、ひたすら歩いている。

「おかしい……なんでこの雪の場所から抜け出せないんだ。もう数日歩き続けてるのに……。早く……レグルスの作るオムライス食べたいのに。推しのネオにも会いたい……。早くここから出てたい!」


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