第12話 素顔と二本の魔剣

 アークのとんでもない発言に、エレナ達は驚きを隠せていない。魔物ではなく人を相手にするのだから、驚くのも無理はない。なにより、S級クエストに裏ギルドの制圧など滅多にない。大抵このような裏ギルドの制圧は、評議会の手に負えなくなった場合序列上位者のみが、受けることの出来る特殊クエストだ。

「ねぇ、ネオ。一人で裏ギルド一つ制圧出来るものなの?」

「いやムリムリ」

「いいかエレナ。俺が今から言うことちゃんと覚えとけよ」

 レグルスが急に入ってきて、エレナに珍しくアドバイスをしようとする。エレナはそれに少し驚いた表情を見せる。

「裏ギルドってのは、ただの犯罪集団の集まりって訳じゃねえ。裏社会にどれだけ貢献しているかで、裏ギルドに登録されるか決まる。主な貢献は、暗殺、裏取引とりひき、人身売買などだ。こういうことにあまり関与していない犯罪ギルドは、裏ギルドとは呼ばれず、『グレーギルド』って呼ばれている。評議会や序列が手を出せるのは、裏ギルドだけだ。もし、グレーギルドに手を出せば手を出した方のギルドが、裏ギルドに登録されちまうから覚えとけ」

 裏ギルドに登録されるのにも決まり事があるんだ。私も裏社会とは関わらないようにしないと。まあ、関わることなんてないと思うけど気を付けておかないと。

「ま、その話は置いといてS級クエストの説明をするよ。まずはネオ達の班だ。『水災の女王蜘蛛じょろうぐも』は、この国のブルークレーターと呼ばれる湖にいる。依頼者は、その近くの村の村長だ。詳しいことは村長に聞いてくれ」

「普通依頼内容を提示するのが一般的なのに、内容を公開してないってことは何か理由があるのか?」

「ま~今考えたって~分からないんだから~考えるだけムダだと~思うよ~」

「それもそうだな」

 珍しく会話に入ってきたリカは、相変わらずお酒を飲んでいる。既に三樽くらいは飲んでいる。それだけ飲んで泥酔してないのだから、物凄い肝臓を思っているのだろう。

「次はアラクだ。内容は禁書の封印と言ったが、正確には禁書ではない」

「え、どういうこと?」

「アラクが封印する禁書の正体は、魔剣だ」

「魔剣!? 俺そっちが良い!」

「駄目だ。魔剣を自分の物にしようとしてるだろネオ」

 図星だったのか急に、口笛を吹きだす。口笛が苦手なのか空気を吐く音しか聞こえてこない。年上であるネオに注意してるアークの二人のが面白く、それを楽しみながらリカはお酒を飲んでいる。

「もしかして、その魔剣って『幽闇剣ゆうあんけん ウカ』か?」

「流石マスター。ウカは魔剣の中で一番恐れられてる魔剣だ。この魔剣は、契約を無しに鞘から剣を抜こうとすると、強制的に呪いにかけられて死ぬ。これまで、ウカと契約した人は二人しかいない。一人はこの魔剣を作った人で、二人目は、今から百年前に存在した冒険者だ」

「へー。でも、なんで魔剣なのに禁書なんだ? 意味わかんねぇー」

 ネオの疑問に、周りにいたエレナが確かにとお互いに頷く。エレナも自分なりに何故禁書なのか考えてみる。

「ウカは、魔剣と魔術書二つの力を持っている。だから、剣の形にも本の形にもなれる。そして、あの魔剣は契約者無しで自分の意思だけで、魔法を使ったり動いたりできる。だから、序列一桁のアラクに頼んだ」

 それだけ、序列一桁代の人は凄いんだ……そして、アークさんはそれよりも凄い序列の別次元にいるって言われているトップ5に入ってる人……頭上がんないよ。

「おっけー、任せてー」

 アラクは、仕事以外のときは口調がチャラっぽくなる。どちらかと言うと、仕事するときのしっかりしてる時よりも、こっちのチャラっぽい方が素のように感じる。

「それじゃあ、今日はゆっくり寝て明日からのS級クエストに備えるように」

「明日!?」

 声が一斉に重なる。少しのズレもなくこんなにも完璧に声が重なったのは、神業に近そうな技術だ。

「そうだよ? じゃないと数ヶ月でS級クエスト四つは達成出来ないよ」

「四つ!?」

 またしても、声が一斉に重なる。こう何度も完璧に声が重なると神業ではないのかと思ってしまう。

「一つのS級クエストでも、一か月以上かかるのに四つもかよ……」

「下手すりゃ、重労働で誰かぶっ倒れるぞ」

「ということは、私は数ヶ月ホームで一人なのか……カジノにでも行ったり、可愛い女の子探して口説き回るか……」

 なんか今しれっと、マスターがとんでもない発言したけど聞こえなかったことにしよう。最近ツッコムのに疲れてきた……

「じゃっ、今日はゆっくり休んで明日に備えてくれ。僕は、そろそろ王都に戻るよ。また、明日の早朝に来るよ」

「あの、マスター。アークさんってお面外すことってあるんですか? ご飯も一人だけ食べてなかったので……」

「ハハハ、アーク! お前エレナに顔見せたか? 怪しがられてるぞ」

「あ、見せてなかった。ごめん、ちょっと待ってね」

 アークはお面の結び目を解きお面を取る。エレナに緊張が走り、心臓の鼓動が早くなる。アークがお面を取ると、どこかで見たことのある顔が現れた。

「こっちの顔で会うのは二回目かな? 僕は、フォレグラン王国を支える三本柱が

一つシーハート家三男 トワ・シーハート」

「えぇー! アークさんがシーハート家の三男!? ウソー!」

 驚きの声をあげながら、目を大きく開いている。エレナのあまりに大きい声に、耳のいい獣人のレグルスは、泡を吹いて倒れてしまった。

「じゃ、じゃあ、この前の任務のときみなさんは気付いてたんですか? アークさんがいたって」

「うん」

「あぁ」

「もち~」

「もちろん」

 知らなかったの私だけかい! だから、みんな私がアークさんのことを女の子って言ったとき爆笑してたのか。許せない!

「まあ、これからもよろしくね。あと、僕に『さん』は付けなくていいよ。普通にアークって呼んで。僕もエレナって呼ぶから」

「うん! 分かったアーク!」

 なんだか、アークと距離が縮まったような気がする。期待に応えられるように頑張んないと。その為にも、明日からのS級クエスト足引っ張らないようにしないと。そして、リカさんに認めてもらわないと。


~フォレグラン王国 国境付近~

 剣を杖代わりにして、長距離を歩いてきたと思えるローブが着た人が息を切らしながら、少しずつ歩いている。左右に揺れ、今にも倒れてしまいそうな感じだ。

「やっと……フォレグランまで……着いた。ごめんねーやっとフォレグランに着いたよ。あぁ、もうそんなに怒んないでよ。私方向音痴なんだからしょうがないでしょ? 悪口ばっか言ってたら私みたいな可愛い女の子悲しませるよ」

 周りにはローブを着た人以外誰もいない。

「もう、怒ってないって。方向音痴って言われたくらいじゃ怒んないよ。そんな、褒めたら魔剣の恥じゃない? ほんと。名前は暗いのになんでそんなに、性格は子供っぽくて明るいんだか」

 彼女は悪戯な牙シェルムファングに所属する一人。そして、この世界に四本しか存在しない魔剣の一つを所有している。

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