第10話 四人の新たな序列
~魔都~
フォレグラン王国から遠く離れた海上に位置する国、魔都。空は暗く、昼間なのに夜を感じさせる。そこには、二人の人物が街を歩き回っていた。
「ちょっと、大将~。待ってくださいよー! もう二時間も歩きっぱなしですよ~」
「何を言ってるんだ! 折角休暇をもらったんだ。この休暇を買い物に費やさないでどうする!? それに貴様は、こんなので疲れるとは訓練が足りないな。帰ったら貴様の練習メニューは倍だ」
「そ、そんな~」
大将と言われている女の人の数歩後ろを、部下と思えるひ弱そうな男が付いて来ていた。両手に大荷物を持ち、前にも見えないほど多くの荷物を持っていた。
「弱音を吐くな。戦場では命取りになるぞ」
「もう、腕が……取れそう……」
「ん?」
急に大将の足が止まった。空を見上げ辺りを見わたしている。何かを探している。
「おい、コルン」
「な、なんですか?」
「今すぐ、荷物を置いてこの近くにいる人を避難させろ」
「え?」
「早く行け。行かないと練習メニューは5倍だ」
「すぐに行動させて頂きます!」
コルンは慌てて飛び出して行った。慌て過ぎたのか、出っ張った窪みに足を引っかけてしまい盛大に転んだが、すぐさま立ち上がり走り去って行った。
「さて、折角の私の休暇に攻撃を仕掛けてくるのは、どこのどいつだ?」
そんな愚痴ばかり言っていると、何かが空から物凄い速さでこちらに向かってきた。
「来たか」
向かってきていたのは槍だった。その槍は大将に速さを落とすことなく突っ込んできた。槍と大将が接触し、大きな爆風が巻き起こった。しかし、大将は何事も無かったかのように、その槍を一歩も動かず素手で受け止めた。
「これは、グングニルか? ということは、アークからか。手紙も付てるな」
大将はグングニルに付いていた手紙を読み始めた。それを読むにつれ何故か、顔色が明るくなっている。
「ヤッター! 仕事が休みになるー! それに……アークからの手紙。嬉しすぎる! あーもう本当に可愛い! 結婚したいー!」
さっきまでの怖い雰囲気が一転して、明るい緩んだ雰囲気になった。そこに、コルンが戻ってきた。
「大将~! さっき物凄い音しましたけど、何があったんですか!?」
コルンが走ってやってくると、さっきまでの緩んでいた顔からまた一転して、怖い雰囲気に戻った。
「何かはあったが問題ない。住民の避難ご苦労だった」
「は、はい! ありがとうございます!」
「それと、予定を変更する。今すぐ、スノーランドに戻るぞ」
「えぇー! 魔都に来てまだ二日ですよ!? 休暇はまだ三日ありますよ!?」
「悪いな。これは、アークからの頼みでもあるんだ」
「じょ、序列三位のあのアークですか!?」
「そうだ。アークからの頼みだから仕方がない」
アークからのお願い! 可愛いアークからのお願い! これは素直に言うことを聞かないと、嫌われちゃうかもしれない! あぁ~、会いたいなぁ~。だ、駄目だ。こんなことを考えてたら、顔がニヤけてしまう。ちゃんと上の者の立場として凛々しくしておかなければ。
「大将……今ニヤけてましたか?」
「ニヤけてない……」
~フォレグラン王国~
崩れた城の瓦礫の中から、レグルスとハルコンは何事も無かったかのように出てきた。
「なあ、ハルコン取引しないか?」
これ以上戦闘を続けてもお互い得することは無い。だから、ここで互いに得することを取引の内容に出して穏便に済ます。
「どんな内容? 内容次第だけど……」
「ここで、お前を死んだことにする代わりにこれ以上の争うのをやめよう。お前は評議側でこの国の味方じゃないんだろ? それに、私の前で正体を現したってことは、お前の任務は終わったんだろ? 勝手に王国騎士団の団長が消えたともなれば国は騒然となり、後々面倒になるだろ? 良い取引だと思わないか?」
確かに姉さんの言うとおりだ。これ以上争っても互いに得することは何も無い。それに、ここで死んだことにしてくれるなら、こちらとしてもありがたい。
「良いよ。取引しよう」
「契約成立だ。さてと、今からギルドのみんなを探しますかね」
クラウンは「やれやれ」と顔に出しつつハルコンを背に歩き出した。互いに利益のあることは、積極的に行動するこの二人はやはりどこか似ている。
「そうだ姉さん。取引のお礼に良いこと教えてあげる」
「ん? なんだー?」
クラウンはいつの間にか棒付きのキャンディを口に咥えていた。しっかり、キャンディが包まれていたゴミはポケットに入れていた。案外常識人なのかもしれない。
「三日後。三日後の新聞を見てみて。そこ書いてある『とある一文』で世界の均衡が大きく変わると思うよ。じゃっ、楽しみにしててねー。バイバーイ」
「そんな新聞の一文で世界が変わってたまるか。そんなんで変わるんだったら、前隣の国滅ぼしかけたり、喧嘩で世界地図変えたことの方が世界の均衡を変えるっーの!」
~三日後~
「おいクソガキ! ピーマン残すなって言っただろ!」
「残してないですー。好きな物は最後に食べる派なんですー。これだからバカ猫は……」
「皿の端に追いやって見つからないようにしてたら、残してるのと同じだろ! 食え!」
王国騎士団との戦いが終わって三日が経ちました。みんな無事に怪我なくギルドホームに帰ってこれました。王都にいた人たちも、誰一人怪我することなくこれまでと同じ生活を迎えています。
ちなみに、アークさんが壊した城は、見る影も無く平地になってしまいました。ちなみに、王様や大臣、兵のみなさんは隣国の会議に行っていたようで、ややこしいことにはならず、穏便に片付きました。ちなみに、序列四位のオリジンさんの件はハルコン団長が勝手に行っていたことで、王様達は何も知らず『
そして、マスターは自分自身と元ハルコン団長、一緒に姿を消したマリーを死亡したことにして、お互いが少しでも自由に動けるよう手を回していました。マリーさんはハルコンさんの部下だったらしいです。
「エレナ! お前もなんか言ってくれ! このままじゃ俺、ピーマン食べることになっちまう! 助けてー!」
「それは、あんたの自業自得でしょ……」
こんな風に私たちにも、いつもと変わらない日常が戻ってきました。
「マスター。新聞来ました」
アラクが新聞を優しくクラウンに渡す。アラクは元気が全く無い。自分が罠にかかったって知ってから、ずっとこんな感じで過ごしている。自分の役割をこなせなくて落ち込んでいる。
「あぁ……ありがとう。ア、アラク? そ、そんなに落ち込まなくて大丈夫だぞ?」
「あ……はい。ありがと……ございます。ちょっと……部屋で……寝てきます」
「あぁ、おやすみ。バカ猫、あいつ大丈夫だと思うか?」
「んーまぁ、大丈夫じゃないっすか? あと、バカ猫って言わないでください。
「殴ったらお前、私の手料理食わせるぞ」
「そ、それだけは……」
マスターの手料理ってそんなにヤバいの? そういう人の料理って案外美味しいって聞くから、一回は食べてみたい気持ちがある……。
「さてと……
クラウンが新聞のページを一枚一枚書いてあることを、見逃さないよう丁寧にめくる。2、3ページめくったところでクラウンの動きがピタリと止まった。目はそのページに釘付けになっている。
「ハハ……やってくれたな。これは世界の均衡が崩れるっていう次元の話じゃないぞ……」
クラウンが見ていたページにはこう書かれていた。
『各国に序列を一人所属させると決定』
「これはー……ヤバいな」
各国に一人序列を配置させるってことは、五位以上も関係なく所属させるってことか。今この国にいる序列は九人。正直言って、一つの国にこんな大人数いるのは異常。よくここまで評議員に注意されなかったな。我ながら驚きを隠せないな。だが、注意されなかったということは、この国の戦力があまりにも不足しているってことなのか?
「話は聞いてないが状況は分かった。この件は僕も仲間に入れさせてもらうよ」
そこには、この前とは違う狐の面を被ったアークが立っていた。髪型も以前とは変わっていて、ポニーテールになっている。もしこれが、男の子だったら女子の心を射抜くのは容易いだろう。
「あの屋敷から抜け出して来たの? また、前みたいに誘拐されたとかで、ギルドの人達や王国騎士団が動いて大変なことになるよ?」
「問題ない。魔法で分身体を作ってきたから、屋敷から抜け出したとバレる心配はない。話の前に、エレナはいるか?」
「ここにいます!」
えー! なんで私指名されたの!? この前初めて会ったときに、ちゃんと自己紹介しなかったから、怒ってるのかな。それとも、私ここのギルドに所属したことを認められてない!?
「以前に詳しい自己紹介が出来なかったから、改めて自己紹介をさせてもらう。僕の名前はアーク。序列三位で
もし、男だって知らず女の子だと接してたら、きっと私死んでた。でも、お面してて顔が見えないけど、男の子には見えないな。今は、男っぽい服着てるからなんとなく分かるけど、街中で見かけたりしたら、きっと女の子って思っちゃうかも。
「ところで、なんでここに来たんだ? エレナに挨拶や序列に選ばれたネオを祝いに、来た訳じゃないんだろ?」
「あぁ、さっきマスターが言ってた序列が国に配属される話をしに来た。他の序列がどの国に行くのか、何人か分かったから情報共有にきた」
「え、強いヤツと戦えるの!?」
「強いヤツと戦う前に、お前は先にピーマンと戦え」
ネオとレグルスの争いはまだ続いていた。お互いに一歩も譲らない死闘だ。
「賑やかで良いね」
「うるさいくらいだ。で、他の序列はどこの国に行くんだ?」
「僕が知ってるのは、四人だけだ。その内三人の行先は分かるが、もう一人は分からないから僕の予想になる」
「いや、今は少しでも情報がほしいからな、ありがたい。お前らもちゃんと聞いとけよ。もしかしたら、他の国と争いになったときに、戦うかもしてない相手なんだからな」
少し重みのある声のトーンを聞いた
「まず、一人目。世界一の安全国家とも言われる国『フィーリン』。そこに所属するのは序列十八位 サマ。ちなみに、僕は会ったことがないからどんなヤツかは分からない。そして、二人目。序列に選ばれた中で唯一の裏ギルドに所属する闇医者アスク。序列十五位だ。こいつは、さっきとは真逆の世界一危険な国とも言われる『ギャンダス』に所属する」
本当に、裏ギルドの人も序列に入ってるんだ。裏ギルドは、ちゃんとした手続きをしないでギルドを創設したり、裏社会の依頼を受けると裏ギルドに登録されるって、聞いたことがある。しかも、裏ギルドだけじゃなく、ギャンダスとかめちゃくちゃ危険じゃん。関わりたくないな……。
「ちなみに、これはアスクの知り合いとして言わせてもらうけど、絶対に目を合わせるな」
目を合わせたら駄目? どういう意味だろ。目合わせたら、メデューサみたいに石にされちゃったりして。医師だけに。こんなこと考えてる私の意思ヤバい?
「なんか寒くね?」
「一気に気温が下がったな……」
ネオとアラクが急にうずくまり寒そうに、お互いをさすりあっていた。さっきまでのケンカが嘘かのように、意見が一致している。
もう、絶対こんなギャグ言わないと、エレナが心に誓った。
「そして、僕の予想する三人目は、色の国とも言われている国『パレット』に所属すると思う。そこに、所属するのは序列十位レイン。予想の理由は、レインの趣味が絵を描くことだからだ」
もしかして、アークさんの予想って結構信用出来なかったりする? 流石に趣味だけで、どこの国に所属するかは決めない気がするな。
「そして、最後の一人。大目玉だ。強者が集まる国とも言われる国『スノーランド』。そこに所属するのは、序列四位オリジン。こいつは、元からスノーランドに協力気味だからな。確定で問題ないと思う。あと、こいつには絶対喧嘩を売るな。死ぬぞ」
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