第9話 最強の10%

 ネオとエレナそして、レグルスの前に、見るからに子供のような男の子が立っていた。髪は逆立っていてヤンチャな感じもする。

「ねぇねぇ! 序列三位の人ってもしかして、猫の耳が生えてるお兄さんのこと?」

「残念ながら、俺は序列三位じゃない。もっと下だ」

「じゃあ、そっちのお兄さんかお姉さんのどっちかが三位?」

「どっちとも違げぇよ。こんなバカが三位に見えるか?」

「んー。見えない!」

「おい、コラクソガキ。頭潰すぞ」

「だろ? こんなすぐ怒るヤツが序列一桁なわけないだろ。三位様は今外に居るぜ」

「外に? じゃあ……早く害獣を懲らしめてから外に行かないとね」

「害……獣?」

 あれ? レグルスさん怒ってる? なんか静電気が溜まって髪がパチパチしだしてきた?

 ヤンチャぽい子供は身体中に電気を走り巡らせはじめた。バチバチと電気の音がする。エレナは直感で感じた。少しでもこの子供に触れてしまえば感電死してしまうと。

「はい、弱いお姉さん終わり」

 一瞬にして間合いを詰めてエレナの目の前に現れた。雷のような速さだ。とても目で追いつけるものじゃない。

「なにテメェ無視してんだ?」

 エレナの目の前には、同じように電気を放っているレグルスが立っていた。その電気は青白く透き通っているかのように綺麗だ。レグルスはエレナの目の前に居た子供の足を掴み壁に放り投げた。

「あ、おいレグルス! 今のは俺がカバーするところだろ! 邪魔すんな!」

「おめぇのカバー信用出来ねぇんだよ! 前信じて任せたときに、お前カバーせずに逃げたじゃねぇか! こっちは危うく死にかけたんだぞ!」

 いや……あの、それよりなんで雷のような速さを肉眼で追いつけて、反撃してるんですかね……これが、おかしいと思うの私だけですか?

「スゴイスゴイ! 今のどうやったの!? 気付いたら壁にぶつかってた! スゴーイ!」

「これだから、ガキは嫌いなんだ」


~城内・中庭の間~

「あれ? どうしたの姉さん。手抜かなくて良いんだよ? さっきから攻撃を受け流してるだけだよ?」

「今考えながら戦ってるんだよ」

 ここの城は、見た目の大きさに反して大きい部屋は少ないって、作戦会議のときにアラクが言ってたな。その分小さな部屋に部屋の広さを変える魔法がかけられてるってことか。部屋が広いと聖剣を探すのにも時間がかかるな。ここは一つ手を打つか。

「おーい、アーク聞こえてるか?」

「聞こえてるよ。マスターから念話が飛んでくるとは思わなかった」

「偶にはな。そっちは片付いたか?」

「今、城からどんどん出てくる兵士の相手してる。真面目そうな眼鏡は蹴り飛ばして、気絶してる」

 こっちの警備は団長たちに任せて、アークを城に入れない作戦か? でも、これは都合が良い。

「頼みがあるんだけど、この城さ壊してくれない?」

「どのくらい壊すの?」

「何も残らないくらい」

「周りの街や城にいる人たちには、リカに守ってもらうから大丈夫だと思うけど全力は出さないでね。国が飛んじゃうから」

「流石にそんなことはしないよ。多分」

「え、冗談だよな……?」

 さてと、作戦思いついたからもう手を抜かなくて大丈夫だけど、戦うの面倒だからアークが城壊すまで待つか。こいつも多少はダメージを負ってくれると良いな。それより、あいつらにも伝えとかないとな。

「おーい聞こえてるー?」

「聞こえてまーす」

「今から、城壊すからー」

 ん? 私の聞き間違いかな? 今マスター城を壊すって言った? いやきっとこれは、私がお酒飲み過ぎて幻聴が聞こえてるだけだ。うん、きっとそうだ。そうであってくれ。

「だから、リカはこの城にいる人団長クラス以外の全員を結界バリアで守って」

「幻聴じゃなかったー! てか、私が!? アークの攻撃を!? これなんて罰ですか!?」

「まあ、いつも酒飲んでる罰ってことで」

「それ、マスターも同じですよねー!?」

「じゃ、任せた」

「あの、ババア! こき使いやがって!」

 今あいつ、マスターわたしのことババアって言ったな。帰ったら酔いが覚める勢いで脳天かち割ってやる。これは帰ってからの楽しみとして次は、ネオ達に伝えるか。アラクには多分リカが伝えてくれると思うし、いっか。

「おーい、三人共聞こえてるー?」

「え、念話!? スゴイ!」

「で、なんの用ですかマスター。今ガキが一人増えて子守が大変なんですけど」

「あ、そうなの? じゃあ手短に伝えるわ。今からこの城壊すから。はい、以上。頑張ってー」

「ヤベー! 城壊れるー! なんでー!? まだ聖剣回収してないのにー!」

「キャー!! まだ死にたくないー!」

「うるせぇ……」


 ~城・上空~

 城の上空には、アークがいつでも城を壊せるよう準備している。

「さて、なんの魔法で壊すか。久しぶりに落とすか」

 アークは詠唱を始める。空気中にある魔力が震え、アークの姿が歪んで見える。

「我、星王せいおうの半身なり。全ての星を司る者なり。万物を壊し全てを無にせ。『彗星の水雫ジュディドロップ』10パーセント!」

 アークの頭上には、途轍とてつもなく大きな魔法陣が描かれていた。幻想世界を錯覚させるものだ。

「ママー。あれなーにー?」

 街にいた子供が魔法陣を指を差し、周りに居た人たちも子供が指差している方向を見る。その光景を見た人は、足を止め立ちすくんでいた。

「落ちろ!」

 アークの声と共に、いくつかの彗星が落ちてきた。彗星はとても鮮やかな色をしている。その彗星の勢いは増していき猛烈な風が吹き、多くの彗星が城に降り注いだ。とても綺麗な彗星だったが、落ちてきた彗星を目の当たりにすると、とても綺麗とは言えないものだ。

「これで、良しっと。上手く壊せた。そうだ、オリジンに今こっちに来んなって言っとかないと、いけないんだった。『降臨 神槍しんそうグングニル』」

 グングニルは星の光に導かれ、アークの前に現れた。その槍は神々しく黄金に光り輝いている。アークはグングニルを握りどの方向に投げるか考えている。

「これにさっき書いておいた手紙を括り付けて。あれ、オリジン今どこにいるんだっけ……。そういえば、魔都に居るって噂聞いたな。じゃあ、魔都に向けて……まあ、力一杯投げてもオリジンなら止めてくれるか」

 アークはグングニルを力一杯魔都の方に向けて投げた。グングニルはとてつもない速さで魔都の方へ向かって行った。

「多分届くはず」


~城・崩壊後~

「ぷはー! びっくりしたー。エレナ生きてるかー?」

「な、なんとかね……」

「レグルスさんも無事かなー?」

「あのバカ猫のことなんて気にすんな! うるさいのが一人消えたと思って聖剣探そうぜ!」

「なにテメェ勝手に俺を、うるさい者扱いしてんだよ!次同じこと言ったら頭蓋骨が二つに割れてるからな!」

 え、なにその脅し……。気付いたら頭蓋骨が二つに割れてるとか恐怖でしかないんだけど……。それにしても、本当に城を壊すなんて。リカさんの結界バリアがなかったら、私死んでたかも。

 考え事をしていたエレナの近くの瓦礫が動いた。そこからは、さっきまで酔っていたとは思えないほど、意識がはっきりしているリカが出てきた。

「あぁーもう! なんなのあのマスター!? 急に注文オーダーが来るからビックリして酔いが覚めちゃったじゃない! なに人任せにしてるのよあのマスターは!」

 あ、あれ? リカさんってこんな性格の人だったっけ? もっとこうなんか、ぽわぽわしてるような感じだったけど、お酒飲まなかったらツンが出てくるの!?

「あ、あの~リカさん。だ、大丈夫ですか?」

「あんたねイライラする!」

「え?」

「あんた、さっきのアークの攻撃の時なにしてた? 何もしてなかったわよね。みんなに結界バリアを張るとき、みんなの位置を魔法で確認したの。そのとき、あんたは’’ただ’’立ってただけ。見てただけ。何もしてなかった。アークの攻撃を受けたときも、’’ただ’’守られてただけ。そのときのネオとレグルスの行動をあなたは見た?あの二人はあの攻撃の中、敵に立ち向かって行ってた。だから、あなたの前にさっきまで居たはずの敵が居ない。あなたはあの二人の助けになることをした? これは、魔物討伐なんかじゃない戦争なんだよ。るかられるところ場所なんだよ。うちのギルドに入ったんだったら、仲間を全力で守れ。」

 リカはエレナの胸元を力強く掴んで、真剣な眼差しでエレナに言う。

「例えそれが人を殺してでも、国が相手でもだ。それがこのギルドだ」

 私、何もしてなかった。リカさんの言うとおりだ。私はただ立って見てただけだ。何もしてない。みんな命を懸けて戦ってたのに、私はそれを見ていただけ。

「次同じことが合ったら、私はお前を殺す。仲間の為に動けない奴は私たちのギルドに要らない」

「はい……すいませんでした」

「おーい、エレナー! リカー! どこだー! あ、いた」

 ネオは、エレナとリカの重い空気を気にせず会話に入って来た。いつもどおりのネオだ。それに、エレナも救われていた。

「さっきリカと何話してたんだ?」

「んーん。なんも話してないよ」

「そっか。じゃあ、聖剣やらマスター達探そうぜ」

 きっと、リカさんと話してたことをネオに話したら、多分私を庇ってくれる。でも、ずっと守られてばっかじゃ前に進めない。私も覚悟を決めないと。


~城崩壊五分前~

「ハルコン、悪いがこの戦い勝ち逃げさせてもらう」

「僕が簡単に逃がすとでも? それに、聖剣を見つけてもないだろ」

「お前が見つからないようにしたんだろ。今ここに聖剣は無いんだろ?」

 クラウンからの質問にハルコンは腹を抱えながら大笑いをしながら答える。気味の悪い笑い方だ。

「そうだよ! ここにもう聖剣は無い! よく気付いたね。聖剣は’’あの方’’の手にある」

「’’あの方’’? お前が仕えてるのはこの王じゃないのか?」

「今の僕は、フォレグランこの王国の総団長を表向きにして動いてる。でも、本当の顔は、魔法評議会に所属してる監視者だ」

「!? ……何故評議員が私の聖剣を欲しがるんだ? そして、何故評議会が出てくる?」

「言ったはずだよ、姉さん。僕は監視者だって。監視してただけだよ。物事を進めたのは全部君らだ」

 クラウンの顔色が段々と青ざめていく。クラウンには、これから起きることが分かっているように見える。

「誰だ……誰の監視をしてた……?」

「エレナ・スカイハートォ~」

 ハルコンは嘲笑うかのように、舌を出しながら答えた。クラウンを下に見えているかのような対応だ。

「何が目的だ……」

「僕も詳しいことは聞かされてないから、分かんないんだけど。上の人達は、その子の中にいるヤツが起きるのを怖がってるって噂聞いたよ。あの子の中には何がいるの?」

 まさか、ネオの件を後回しにするとは……誤算だ。ネオよりもエレナの覚醒を恐れたのか? 現状は置いて、先のことを考えたのか。いつもの評議員らしくないな。

「それは、私も知らない」

 クラウンは嘘をついたようには見えなかったが、何か知っているようにハルコンの瞳には写った。

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