第8話 ジョーカーが欲するもの
外が静かになったな。アークがもう片付けたのか? マスターとして私があの場に残るべきだったが、私の対戦相手は決まっているからな。
「そろそろ着くはずだと思うが……ここか」
クラウンの目の前には大きな門が建っていた。クラウンの指先が門に触れた瞬間、勝手に門が開いた。
「どうやら歓迎されてるらしいな。嬉しいことだ」
クラウンは門の中に入る。入った先から、陽の光が差し込む。そこには、青々とした花草が生えており、川も流れ、鳥や蝶が飛び回っていた。
「城の中にこんな場所があるとは」
「やあ、待ってたよ。姉さん」
「ハルコン……」
~同刻・城内廊下~
右に進んだアラクとリカの前に分かれ道が出てきた。二人とも全力で走っているが、息は乱れてすらない。
「リカ分かれ道だ。僕は右に行く」
「じゃあ、私は左に行きます」
「途中で酒を見つけても飲むなよ」
「私をマスターと一緒にしないでくださいよ。それじゃあそっちも気を付けてくださいね」
アラクは右の道、リカは左の道に進み、真ん中の道には誰も行かず別行動が始まった。
リカは戦闘向きじゃないが、基本的な戦闘スキルは持っている。いつもは中央ら辺で、結界を張ったりしているから、こんなに前線に出ることに緊張してると、思ったが余計な心配だったな。それより、なんか変だ。この光景さっき見た気がする。
「やっぱり……ここはついさっきリカと分かれた場所だ」
「あれ、アラク?」
この声はリカ? ん、アラクって呼び捨てにした? いつも僕には敬語で話してるリカが?
そう思いつつリカの声がした方を振り向く。そこには、酒瓶を片手に持ちフラフラと歩いているリカの姿があった。
「酒飲むなー!」
「は、しまった。こっそり持ってきてたのがバレてしまった……」
「それより、多分僕たちここの廊下に閉じ込められてるよ」
「うん! 知ってる~。でも、これ結界じゃないから破れないかも~無理かも~」
どういうことだ? てっきり結界の影響で同じ所をループしてると思ってたけど違うのか? じゃあ、騎士団の固有魔法でループさせてるのか? こんな芸当が出来るのは団長クラスか。
「リカ、この魔法を使ってる人がどこにいるか分かる?」
「ん~、ちょっと待ってね~。『【結界魔法】・サ~マルアイ~』」
リカを中心に中規模の結界が張られた。この世の物とは思えないほど綺麗だ。しかし、酔っているせいか上手く呂律が回っていない。
「あ、いた~」
「どこにいた?」
「この廊下の突き当りのところ~」
突き当り? この廊下の突き当りということは、僕とリカの進まなかった道か。
「ちょっとここで待ってて。様子を見てくる」
こういうときに、全力で力を使えたら良いんだけど城の外の人や建物にも、影響を与えるから使えないんだよな。戦うの室内じゃなくて屋外が良かったな……
「そろそろ突き当り……え!? リカ!? なんでここにいるの? どうやって先回りしたの!?」
「え~? リカ~ここから一歩も動いてないけど~」
真っすぐ行っても元居た場所に戻ってきてしまう。これは、まんまと相手の罠にハマっちゃったのかな。
「リカ、この廊下壊したらどうなる?」
「んー多分どうもなんない~。元の空間に戻れると~思うよ~」
「じゃあ、壊すしかなさそうだな。時間も限られてるし」
ふふふ、あんた達が何を考えてるか、わたくしには全てお見通しよ。なぜならいつも……一人オセロで戦略を絞り出してるんだからね! だから、あんた達がこの空間を壊そうとするのも計算の内よ。でも、この空間を壊すことは不可能よ!
「この後やることが残ってるんだ。こんな所で道草を食べてる暇はない。『【
辺りが暗くなり、アラクの影から黒い鎧を着た騎士が出てきた。その騎士は関節がアラクの指と糸で繋がっていて、アラクが指を動かせば
「さあ、急いで壊そう」
アラクは指先に繋がれている糸を素早く滑らかに動かす。その動きに合わせて
「う、嘘でしょ! このままだと本当にこの空間が壊される! ここで、戦闘の終盤まで閉じ込めてようと思っていたのに、足止めにもならないじゃない! この空間を作るのにどれだけ魔力を消費したと思ってるのよ!」
さっきまで、高みの見物をして余裕をかましていた女が、狩る側から狩られる側に逆転した。
「あ~もうすぐ壊れそ~」
こ、壊される……! わたくしの作った空間が!
パキーンとガラスのような割れる音がした。さっきまでと辺りの光景は変わらないが、雰囲気が明らかに違う。元の空間に戻ってきた。
「あれ、簡単に壊れた? そんなに強くない空間だったのかな」
「お、おのれ、
アラクとリカの前には、長い紫髪のいかにも独裁令嬢ぽい人が、した唇を噛みしめながら立っていた。
「ねえねえ、そんなに怒ったら血圧上がるよ。おばさん」
「な、なんですってー!? まだ三十代前半よ! そろそろ結婚をしないといけないって、焦ってたけどまだ若いのよ!」
いや、きっともう焦っている時点で手遅れなのでは……とアラクとリカは頭の片隅に思った。
「もう、絶対に生きて返さないわ! わたくしは城の警備担当、マリー・ゴールドよ! 団は持ってないけど、一応団長になっているわ」
やっぱり、団長クラス。自分が序列だからと言って決して油断してはいけない相手。でも、今この場にはリカもいる。
「リカ、早く終わらせる為に力を貸してくれる?」
「いいよ~」
アラクとリカが
「お話は終わったかしら?終わったんだったら、さっさと消えてもらうわ!【空間魔法】 『
アラクの左腕に黒い
「『バリア』」
リカが咄嗟に張ったバリアのお陰でアラクの腕は捩れずに済んだ。腕の部分だけの空間が捩れているかのようだ。
「ありがとう。助かったよリカ」
「どういたしまして~」
なに今の。わたくしの
「させないよ」
間一髪のところで、
「邪魔すんじゃないわよ! 今あんたに構ってる暇はないの! そこを
「リカは僕らの大切な仲間だ。仲間に手出し出来ると思うなよ。ここは僕に任せて、リカは先に進んでて」
「わかった~! がんばって~」
いつになったら、あの酒癖は治るんだろ……成人してからまだ半年しか経ってないのに……ここまで酒癖が悪いとマスターみたいになってしまいそうで、怖いな。ちゃんと言い聞かせておかないとな。
「あ! ちょっと待て! お前は私が」
「行かせないよ。
「このクソガキィー……」
~城内・中庭の間~
クラウンが周りを見渡しながら、ハルコンに少しずつ近づく。周りから見ると普通に歩いているように見えるが、クラウンに隙は無い。
「まさか、城内にこんな所があったとはな」
「まぁね。さ、姉さんも座りなよ。今紅茶入れたところだからさ」
芝生の上に、いかにも高そうなパラソルとイス、テーブルが並んでいる。テーブルの上にはティーポットやお菓子があり、貴族のお茶会のようだ。
「この紅茶の茶葉は、スノーランドから取り入れた高級茶葉なんだよ。味わって飲んでね」
「スノーランドか……。そういえば、うちのギルドから一人今依頼で行ってたな。忘れてた」
「かわいそー」
「で、お前は私になんの用があるんだ? わざわざ私がここに来るように、殺気をむき出しにして」
ハルコンの顔が急に真剣になる。一切の隙もない。逃げたら殺されてしまいそうな迫力だ。
「この争い。負けてくれない?」
「……断る。何故そんなことを言ったのか分からないが、負けるわけにはいかないからな」
なんだ? この違和感。なんでそんなことを聞いてきたんだ? てっきり、例の物について話すかと思っていたのだが……もしかして、向こうの事か?
「まあ、断るよね。知ってたけど。でも、姉さんこの争い負けるよ?」
「お前ら側にオリジンがついたからか?」
「らしいね。僕もさっき知ったところだよ。でも、僕が拒否した」
「王たちの決定を?」
「あぁ。でも、断ったのには理由があるよ? 一つ目は、『勢力』。この国が序列四位の力を得ると、他の国から反感を買うだけだからね。争いになりかねない。そして、二つ目。これが一番の理由だ。僕は、序列四位オリジンより、
やっぱりそうきたか……これは長期戦になりそうだな。私の考えがどこまで合ってるか、答え合わせでもするか。
「何故、私が欲しんだ?」
「僕と姉さんは、この世界に二人しか残ってないジョーカー族だからだよ。希少なジョーカー族、それだけでも凄いのに姉さんは、序列七位! 序列一桁の最強のジョーカー! 姉さんを取らなかったら損しちゃうよ」
さて、どうするかな。ここで戦って勝てる保証は正直言ってない。あいつは序列じゃないが、私と同じジョーカー族。戦闘スキルは高いからな。厄介なことに変わりない。戦わず逃げようとしても、多分逃げられないだろうし、あいつらの為にも時間稼ぎしないといけない。
「じゃあ、力づくで手に入れてみろよ。可愛くない弟」
「もちろん最初からそのつもりだよ」
~城内~
「ったく、この城部屋多すぎるだろ!」
「文句言わずに、例の物を探せ!」
「あ、あの例の物ってなんなんですか?」
ネオとレグルスが言ってなかったっけ? という顔をしながらエレナを見ている。
「今俺たちが探してるのは『聖剣』だ」
「聖剣?」
「この世界には、聖剣と魔剣がそれぞれ四本ずつ存在する。そのうちの聖剣一本が、ここの城のどこかにある」
「なんだ、ネオのバカでも知ってたのか」
「うるせー! バカ猫!」
「でも、なんで聖剣がいるんですか?」
「ここにある聖剣は、他の聖剣や魔剣とはちょっと違うんだ。ここにある聖剣の名は、『
なんか、花の女王ってカッコいいな。序列の人がもらう異名みたいだな。私もいつか序列に選ばれて、異名貰ったりして!?
「で、その聖剣を取りに来た理由は、その聖剣の持ち主がマスターだからだ」
「だから、マスターだけ武器を持たずに手ぶらだったんですか?」
「そうだ。聖剣や魔剣には意思があるからな。前にマスターが他の武器を使ったら嫉妬して聖剣が
え、なんかその聖剣って、嫉妬深い彼女みたいな感じ? もしかして、マスター彼氏が出来なさすぎて無機物相手に妄想を繰り広げてる?
「ま、取り返したら聖剣を触らせてもらってみろ。俺の言ってることが分かるぞ」
「俺はあの聖剣に触るのは二度とごめんだね!」
「まあ、バカに触ってほしくなかったんだろ」
「んだと、テメェ? ちょっと表出ろよ、クソ猫!」
「うるせぇクソガキ! ……止まれお前ら。どうやらお迎えが来たみたいだぞ」
レグルスの目線の先には、見るからに子供のような人が立っていた。白い肌に、黄色い逆立ってる髪。頭に嵐が来たかのようだ。
「お前が序列三位のヤツか!? 早く
「ガキが一人から二人に増えちまったじゃねぇか」
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