第7話 開戦と序列三位

「よし、作戦通りに決行は今から一時間後の正午だ」

「はい! マスター!」

 ネオが元気良く手を上げる。しっかり腕をピンと伸ばしていて綺麗な挙手だ。

「どうしたネオ君」

「作戦ってなんですかー?」

 クラウンは呆れた顔でネオを凝視している。その場にいたエレナ、レグルス、アラク、リカも呆れた顔でネオを見ていた。エレナは顔バレしない為にフードを被っていた。

「ネオ、次は無いからな」

「す、すみません……」

「耳の穴かっぽじって聞けよ。作戦は、四つのグループに行動して実行する。まず、ネオとエレナチームは警備の制圧だ。全ての場の制圧じゃなくて城に入る門の所だけでいい。そこから、私たち四人が潜入する。そして、私とアラクが目標物の回収。レグルスとリカが城の中の警備の制圧だ」

 あれ? 今聞き返すと、変だな。最初は王国騎士団を倒す作戦って言ってたけど、制圧することになってる。何かあったのかな。

「あの、マスター。制圧で良いんですか?」

「そうだ、制圧でいい」

「この作戦は王国騎士団を倒す作戦じゃなかったんですか?」

「あーどうせ、ヒック……副マスターが騎士団を潰すことになったんでしょ? ヒック……だから、私たちが騎士団を倒す必要が無くなったから、目標物の回収に専念するってことね。ヒック」

 お昼前から、片手に酒瓶を持ちながらエレナの質問にリカが答えた。顔は赤くなっていて、すっかりお酒がまわっていた。

「おい、リカ! 酒を飲むな!」

 流石マスター!やるときはしっかりやる人なんだ。やっぱカッコいいな。私もあんな風になりたい!

「私も我慢してんだよ!」

「いや、飲みたいんかい! 我慢しろよ!」

 レグルスの良いツッコミが決まった。エレナは尊敬した自分を後悔していた。

「ところで、その副マスターはどこにいるんですか?」

「あぁ、あいつは戦いの直前まで来ないよ」

「え、なんでですか?」

「それは僕が説明しよう」

 アラクが上手く中立に入り、説明を始める。

「副マスターは立場上表に出ることが難しいんだ。だから、決められた時間しか表に出ることが出来ないんだ」

 アラクは分かりやすく丁寧に話した。アラクの説明は上手で、学校の先生になればいいのにとエレナは思った。

「て、ことは位の高い人なんですか?」

「まあ、そういうこと」

「よし、それじゃあ今から城の近くまで移動するぞ」

 悪戯な牙シェルムファングの人達が道を歩くと、周りにいる人たちが自然と道を開けてくれる。見た目の個性が強いからだろうか。

 な、なんかスゴイ見られてる! めっちゃ恥ずかしんだけど! なんで、みんなはそんなに堂々と歩いてられるの!?

「道を開けろー!『シーハート』家のお通りだ!」

「『シーハート』家ってことは、王国を支える三本柱の一つか」

 クラウンたちは道の端に寄り、跪く。エレナが周りを見渡すと住民も皆跪いていた。エレナも周りに合わせて跪いた。

 エレナがどんな人なのか目視しようと顔を上げると、そこには美少女が立っていた。見て分かるサラサラな白髪に、長いまつ毛。シルクのような綺麗な肌。どれをとっても一級品だとエレナは感じた。

「すごい……あんな可愛い美少女がこの世にいたなんて! あんなに可愛いのに、目は夜空が表されているかのよう! 私……生きてて良かった」

 エレナが熱く語っていると、隣からクスクスと笑いを堪える声がした。エレナは隣を見ると、マスター達五人が必死に笑いを堪えている姿が目に入った。

「くくく……いてー、腹いてぇー」

「死ぬ! 死ぬ! 笑い死ぬ! くくく……」

「な、なんでそんなに笑ってるんですか?」

「エレナ、あれは少女じゃなくて少年だぞ」

「えー!? あんなに女の子らしいのに?」

「あぁ、れっきとした男だ」

「あんなに髪綺麗で、肌白いのに男!? 確かに言われてみれば、服は男物だし、目はなんかカッコいいような気がしてきた」

 そして、なによりあの中性的な顔立ち最高! 女の人っぽい顔してるのに、本当は男というギャップ! あぁ、最高だ……

「あの、なんであの子右目をずっと閉じてるんですか?」

「あぁ、詳しいことは分からないが、病気で失明したとか言われている」

 病気で失明? だったら眼帯とかするんじゃないの? なんか変なの。

「よし、そろそろ行くぞ。ここで道草を食っている暇は無いからな」

 エレナがぽわぽわとしているうちに、シーハート家の人達は、悪戯な牙シェルムファングの前をとっくに通り過ぎていた。そして、エレナ達も目的地の城に歩みを進めた。

「それにしても、城まで遠いなー。あと何分くらいで着くんだ?」

「てめぇは、ちょっとは黙って歩けねぇのかよ! ガキかよ」

「んだとテメェ? んのか」

 エレナはギルドに入ってから、ネオとレグルスの喧嘩をもう何回見たのか、分からなくなってきていた。

「はいはい、喧嘩はそこまで。そろそろ城に着くよ」

「もう、止めないでよマスター。酒のつまみになるかと思ったのにーヒック……」

 これから王国騎士団と戦うのに、マイペースなみんなを見て緊張していたのがバカのようにエレナは思えてきた。

「止まれ」

 マスターの一言で全員の動きがピタッと止まった。賑やかな話声も止まった。

「変だ」

「え、変って、何か変なことがあったんですか?」

「さっき、シーハート家に出会って城の近くまで歩いてきたが、今は人が一人も居ない」

 エレナ達が辺りを見渡す。確かに人の姿がない。あるのは悪戯な牙シェルムファングのメンバーの姿だけ。

「待っていたぞ。悪戯な牙シェルムファングよ」

 エレナ達の目の前には、眼鏡をかけたいかにも真面目そうな人が立っていた。身体もしっかりと鍛えられている。

「私は、王国騎士団・防衛団団長。アルフィーだ。お前らには、ここで大人しくしてもらう」

「大人しくだぁー? 大人しくするわけねぇだろバァーカ!」

 レグルスの裏の部分と言ってもいいところが口調に出てきている。しかし、アルフィーは軽い挑発には乗ってこない。

「君たちは今、私の結界の中にいる。この結界は城を囲むようにしてある。だから、脱出は不可能だ」

「リカ、結界は破れそうか?」

「んー、破れないことは無いと思いますけどー、破るとなったら私は、作戦に参加出来なくなると思いますー」

 迷うな~作戦からリカを外して結界を破ることに専念してもらうか、作戦通り城の警備を制圧してもらうか。城の警備にはきっと、団長クラスが多くいる。ここで序列の戦力を失うのはマズい。しかし、そうすると脱出が出来なくなる。どうしよ。

「じゃあ、僕が相手をしよう」

 その場にいた全員が声のした方を振り向く。そこには黒の狐の面を被った子供が立っていた。

「狐!? 子供!?」

「え、もしかして……来るの早くない?」

「貴様、何者だ? どうやってこの結界に入ってきた」

「『開け』って言ったら開いた」

「は?」

 なにを言ってるんだこのガキは。この結界に穴を開けるにはそれなりの時間がかかるはずだぞ。ハルコン団長でも10分はかかるんだぞ。それを一瞬で?

「自己紹介がまだだったな。俺は悪戯な牙シェルムファング副マスター。アークだ」

「なに!?」

「この人が副マスター!?」

 こいつが、序列三位アーク? 面を被っていて分からないが間違いなく子供だ。アークの名を勝手に借りて、私を騙そうとしてるのか?

「そうか。ならば、結界魔法・棘の監獄スパイクプリズン! 捕まえるまでだ!」

 アークを中心に棘の鉄格子が囲う。どこにも逃げ場はない。一歩動けば棘が刺さってしまいそうだ。

「『壊れろ』」

 その一言で、アークを囲っていた棘の鉄格子が何も無かったかのように、一瞬で消えた。

「バ、バカな!」

 私が作った結界だぞ!? ハルコン団長でも苦戦する結界だぞ!? それをこんな子供が!?

「ここは僕に任せて。みんなは城に行きな。それと、これからよろしくねエレナ」

「は、はい!」

 私のこと知ってる!? ちょっとビックリしすぎて声裏返っちゃった。恥ずかしい。

「クラウン、城の中に団長がいたら教えてくれ。飛んで行くから」

「お前が言うとガチにしか聞こえないからやめてくれ。よし、ついて来い!」

 マスターはアーク以外のメンバーを連れて城へと向かった。

 し、しまった! 私としたことが、結界を破られたショックで意識が飛んでしまっていた! こいつだけは絶対に通さない!

「ねえ、君は僕を楽しませてくれる?」


 アークを置いてエレナ達は先に進み続けている。全員がアークを信用している。だから、誰一人として後ろを振り向かなかった。

「門の制圧はきっとアークがやってくれる。だから、ネオとエレナも私たちと一緒に付いて来い」

「はい!」

「りょーかい」

 最高のタイミングでアークが来た。きっと魔法で可能性の高い未来を見て早めに来てくれたな。だが、戦闘狂のあいつが城に居る団長の相手をせず、あの場に残ったってことは、あそこで何か起きるのか?考えたくないけど、オリジンがもうこの国にいる可能性があるな。早めに行動した方が良さそうだな。

「よし、作戦を変更する。ネオとエレナはペアで例の物を探せ。例の物が何かはネオが知っている。後から教えてもらえ。ネオとエレナ以外は一人行動だ。やることはネオ達と一緒だ。戦闘は個人の判断に任せる。もし危険だと感じたら、大きな声でアークを呼べ。あいつならきっと飛んでやってくる。さぁ、散れ!」

 ここにきて、クラウンがマスターぽいことを言ってることに、エレナは少し驚いた。ギルドホームでのマスターとはまるで別人だ。

「相手に負けて泣くんじゃねぇぞネオ」

「泣くわけなぇだろ! お前こそ返り討ちくらって泣くんじゃねぇぞバカ猫!」

「こらこら、ここで喧嘩すんなー」

 やっぱり、アラクさん面倒見良いな。きっと女の人だったら、なんでも受け入れてくれる聖母になりそう。

「よし、エレナ! 俺たちは左に行くぞ! じゃあな、バカ猫!」

「クソが! 待てこの泣き虫野郎!」

「ちょ、ちょっと早よ! 私を置いて行かないでよー!」

  レグルスも左に行ったか。あいつは頭に血が上ると、すぐ言われたことを無視するな。帰ったら一発殴るか。アラクとリカには右に行ってもらうか。どうせ、私の行先はしかなさそうだからな。

「私は、真っ直ぐ行く。アラクとリカは右に行け。別れ道があったらそこから、個人で動け」

「了解」

「りょーかい」


~同刻・城門前~

 門前には、身体中傷だらけで、服もボロボロになっているアルフィーが倒れていた。倒れているアルフィーの前には、圧倒的強者の風格をかもし出しているアークが立っている。その風格からは、強者とは違う恐怖も感じる。

「な、なんだこの強さは……」

「あれ、もう終わりなの? 僕まだ遊び足りないんだけど」

 さっきまで、大人のような口調や凛としたたたずまいをしていたが、今は子供らしさがある。

「こ、これが序列三位の力……全く歯が立たない。化物だな」

「アルフィー殿! 待たせたでごわすー! 手助けするでごわすよー!」

 体の大きい男が城の方から走って来た。その男は片手に鍋を持ちながら、こちらに近寄ってくる。

「ドンド!?」

「アルフィー殿の助けにきたでごわす! 吾輩は、王国騎士団・突撃隊団長ドンドでごわす!」

「お前、覚えてるぞ。序列候補に名があったヤツだな」

「そうでごわす! さあ、どっからでもかかってくるでごわす! 全部食べてやるでごわす!」

 アークとドンドの対格差は、正に小人と巨人の背比べだ。だが、風格は圧倒的にアークの方が上だ。

「じゃあ、『うさぎ座降臨』」

 すると、昼間だった空が一部だけ夜になりうさぎ座が現れた。光が差し紫色の半透明の兎が現れた。うさぎの体のラインは星と星で繋がっている。星座そのものが具現化したような感じだ。

「蹴り飛ばせ」

 降臨したうさぎは高く飛びドンドに蹴りかかった。ドンドはその蹴りに耐えられず後ろに倒れた。

「え? もしかして物理が弱点だったの?……王国騎士団と戦うって聞いたから、楽しみにしてたのに弱すぎる! 早く強いヤツ出て来いよー!!」

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