第6話 ついに作戦決行?

「つ、疲れたー!」

「なにこんなんで、へばってんだよ!剣の素振り300本とランニング20キロ。あと全体的に筋トレしただけだろ」

「わ、わたし……戦闘メインじゃないんだけど」

 エレナは激しく息切れしているが、ネオはこれが日常なのか汗一つかかず涼しい顔をしている。

「体力作りは大切だぞ。自分の魔力量を上げるにはまず、器が大きくないといけないから、そのために強い体を作る必要があるんだ」

「な、なるほど……」

「エレナの固有魔法は回復系統の魔法だから、魔力を上げといて損は無いと思うぜ。魔力量が増えると、多くの人を回復できたり、大きな怪我も治せるようになるからな」

 多くの人を助けることができる……! このギルドのみんなは強くて、私が足手まといになってたけど、この魔法があればみんなの役に立てる! あ、でも序列に選ばれてる人たちだから、怪我なんてしなそうだな……

「うん! 私頑張る!」

「おう! その意気だ!」

 ん? そういえば私、ネオにその場の勢いで付いて来たけど、ここのギルド名ってなに? 私以外は全員序列だったら、有名なギルドだと思うんだけど。聞いてみようかな。

「ねえ、ネオ。ここのギルドってなんて」

 エレナがネオに聞こうとした途端、クラウンが急にやってきた。

「ここに王国騎士団は来なかったか?」

「いえ、来てないですけど……」

「いや、来てないけど。まずここには入って来れないでしょ」

 結界の核であるこの木も、なにか魔法をかけられた形跡も無ければ、結界が破られた形跡も無い。こいうことはやはり、精神に干渉する系の魔法か。

「そうか。なら良いんだ……。それより、レグルスがそろそろ晩御飯だから、早く帰ってこいって言ってたぞ」

「うぉー! メシだメシー!」

「そんなに慌てたら転ぶわよー!」

「いてっ!」

「ほーら、慌てるから」

 さっき顔には出てなかったけどマスターすごく焦ってた。何か良くないことがあったのかな。

「エレナ。戦うとなればお前も、このギルドの状況。そして、ギルドの全メンバーについて知ってもらう必要がある。その話を聞いた後で、戦場に出るか決めろ。この話は夕食のときにな」

 このギルドの状況……。なんだかとても重い内容な気がする。


~夜・ギルドホーム~

「うひょー! 美味そう! いただきまーす!」

 バーのカウンターにフワフワ卵が乗ったオムライスが綺麗に並んでいる。触ったら溶けてしまうくらいフワフワな卵だ。そして、一人一人オムライスにかけられているソースが違った。ネオはケチャップ。エレナはクリームソース。クラウンはデミグラスソース、レグルスはホワイトソースだ。レグルスの皿の隣には五個目のオムライスがあり、そのオムライスの上にはコーンソースがかけられていた。

「おい、てめぇネオ! もっとゆっくり食え!」

「うわぁ! めちゃくちゃ美味しそう! 頂きます!」

「流石、うちのギルドの料理担当だ! さて、エレナ食べながら話そうか」

「は、はい!」

「まず、このギルドのことだけど。ここのギルドの主な役割は、他のギルドが達成出来なかった依頼を片付けることだ。でも、達成されなかった全ての依頼を片付けるわけじゃない。魔法評議員が選抜した依頼だけを片付ける。ほとんどが討伐依頼だけどね」

 なるほど。ここにいる人たちが強い理由がなんとなく分かってきた気がする。討伐依頼が多い分、他のギルドより戦闘経験が豊富で頭数個分抜き出てる感じなんのか。

「討伐専門のギルドに近い感じなんですね」

「そうだ。次はこのギルドに所属してるメンバーについてだ。ここにはエレちゃんを入れなければ十二人のメンバーが居るっていったよね?」

「は、はい……」

「でも、今実際に活動してるのは七人しかいないの」

「え!? なんでですか?」

「詳しいことは本人の口から聞いてもらわないといけないけど、その五人にはみんな理由があるの……」

「あの、その五人は今でも序列に選ばれてるんですか?」

「二人は選ばれてるわ。残りの三人は辞退したけど」

 辞退……。最強の称号を辞退する理由……私には分からないな。私だったら喜び散らかすのにな。

「この状況から今このギルドは戦力不足って言っても過言じゃないわ。だから、エレナには強くなってもらわないといけない。戦う為に強くなるんじゃなくて、生きる為に強くね」

「生きる為に強く……」

「だから、明日から私と特訓をしてもらうわ」

「頑張ります!」

 マスターが強くなる為に鍛えてくれるんだ。一生懸命やらないと!

「マスター、このオムライス持って行ってくるわ」

「あぁ、分かった」

「あのオムライス誰の分なんですか?」

 マスターはタバコに火をつけて、一服吸ってた。カッコいいお姉さんみたいで、私の好みにドストライクだ。でもそのお姉さんは、どこか悲しい表情をしている。

「あれは、ノアの分だよ」

 確かノアさんって、マスターとアラクさんが言ってた胸オバケの人? ネオや他のメンバーの人の剣の師匠の人だよね? マスターとアラクさんの会話を盗み聞きしてたのは黙っておこう。ちなみに、耳が良いのは私の自慢だ。

「今ホームにいるんですか?」

「あぁ、ずっといるよ」

 マスターの表情を見る限り何か理由がありそう。何か役に立てないかな。


~同刻・バー二階~

 コンコンコンと古びた扉を三回軽くノックする。とても軽い音で辺りに響く。

「ノア、俺だ。入るぞ」

 部屋から返事は返ってこなかった。レグルスは、そっと部屋の扉を開けると、そこには月光に照らされながら、蝶と戯れていたノアの姿があった。

「また、蝶と遊んでたのか?」

「遊んでたんじゃない。お話。お話してた」

「そっか。これ、晩ご飯だ。ノアの好きなコーンソースにしといたから。てか、髪伸びたな。綺麗な金髪がボサボサだ。目にもかかって空色の目が見えなくなってるぞ」

 ノアはフフッと軽く笑い、レグルスが持ってきたオムライスに手を伸ばす。

「じゃあ、俺は下に戻るな。一時間後に皿取りに来る」

「新しい子来たの?」

「あぁ、どこぞやのお嬢様らしい」

「そうなんだ。仲良くしてあげてね。優しくするんだよ」

 レグルスは気難しいそうに頭を掻きながら、適当な返事を返した。どこか照れくさそうに、しているようにも見える。

「なぁ、たまにはみんなに顔出したらどうだ?」

「私が顔を出したら、みんなの空気が重くなっちゃうよ。それに私は、もう誰も傷つけたくないから」

「そっか……分かった。じゃあ、またあとでな」

 レグルスは優しく扉を閉め、みんなのいるバーに戻って行く。


~一階・バー~

 エレナはクラウンに聞きたいことがあるが、中々聞き出せずにモジモジしている。でも、ここで聞かなかったら後悔するのではないかと思い、意を決してクラウンに尋ねる。

「あの、聞くか迷ったんですけど、前にノアさん何かあったんですか?」

「そうだね。これからは同じ食卓でご飯を食べる仲だからね。話すよ。ノアは元々孤児院育ちなんだ。裕福とは言えない暮らしだったらしいんだけど、毎日楽しく友達と過ごしてたって聞いてる。でも、ある日孤児院に新しいシスターが来て、これまでの生活が反転したんだ。そのシスターは容姿端麗なノアを嫌っていた。エルフの血が混じってるんだから、顔立ちは整ってて仕方ないよな」

「それで、ノアさんはどうなったんですか?」

「数年間、そのシスターに暴力を振るわれ続けた。体は痣だらけで、血は垂れ流し。まともにご飯も食べさせてもらえなかったらしい。そんなことが三年続いた」

「三年も!? だ、誰も助けなかったんですか? 周りの友達や前からいたシスターは?」

「周りの子達は、『手を貸せば同じ目に合わせる』って脅されてて、前からいたシスターは、病で倒れて亡くなったと聞いた」

  親に裏切られて、きっとこの世界で一番不幸な者だって思ったけど……こんなの……ノアさんの苦しみに比べたら、私の不幸って小さすぎる……。

「でも、三年経ったある日。ノアの固有魔法が才能を開花させたんだ。ノアの固有魔法は希少だった。この固有魔法のおかげでノアの人生は大きく変わった。でも、今はその魔法に悩ませられてる。飢えてるんだ」

「飢え……てる?」

 あれ? ノアさんって固有魔法を持ってないって、ネオが言ってなかったっけ。あれ? 話が嚙み合ってない? ということは、ネオかクラウンさんが私に嘘をついてるってこと? 何のために?

「ま、ノアの話はこのくらいにして、今をもっと楽しもう! あー! ネオ、それ私のスパゲッティ!」

「食わなそうだったから、食べていいかと」

「今日という今日は絶対許さん!」

「おめぇら、さっきからギャーギャーうるせぇ!」

 これからも、こんな明るい毎日が続いたら良いな。いつか、十二人全員揃ってご飯食べてみたいな。



報告書

日付 6月2日

死者 王国騎士団団長・二名死亡

   悪戯な牙シェルムファング・一名死亡

被害 王都の街半壊。王都の住民・十三名死亡

   重症者、軽症者・多数


 以上のことから、悪戯な牙シェルムファングに所属する者全員を罪人とし指名手配する。捕まえ次第、死刑を実行する。



~作戦決行日~

「さあ、お前ら。我らギルドの一勝負と行こうか!」

「その前にメシ食わねぇ?」

「せっかく良い雰囲気で行こうと思ってたのに!」

「ネオのバカ!」

 クラウンの拳がネオの頭の骨を砕いた音がした。このときエレナは、クラウンに思ったことを口走らないよう心に決心した。

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