第5話 忌み子と訪問

「ねぇ、ネオはいつもどこで特訓してるの?」

「いつもバーの隣にある大きな木のしたで特訓してるぜ」

 ネオとエレナが行きついた先には、丘の上にとても大きな木が一本立っていた。まるで、私たちが来るのを待ってたかのように。

「すごい……。本当に大きな木だね。私たちが来るのを待ってたみたい……」

「これは、マスターの魔力でできてるんだ」

「え、マスターの魔力で?」

「あぁ、この木は俺たちのギルドホームを隠す為の結界なんだ。この結界を破るのは、多分序列の上位五人でも破れないと思う」

 序列の上位五人ってそんなに凄いんだ……。そんな人達に壊されない結界を作ったクラウンさんも凄すぎる。

「序列の人でも破れないって凄いね」

「あぁ、マスターが俺らを守るために命を懸けて作ってくれたからな」

 マスターが命を懸けて作った結界……? どういうことだろ。

「さて、特訓始めるか!」

「そうだ、始める前に固有魔法について教えてよ!」

「お前本当になにも知らないんだな……」

「べ、別にいいじゃない! 最近までずっと屋敷にいたんだから!」

 ネオは少し呆れた顔をしつつも固有魔法について教えてくれた。

「固有魔法ってのは生まれつき身体に刻まれてる魔法のことだ。例えば俺なら、頭の中で考えたことが実行される魔法【ラプラスの悪魔】これが俺の固有魔法だ。つまり、魔力を火・水・風・光・闇の属性に変化させずに使える魔法のことだ」

「ということは、私の固有魔法は治癒ってことか……。てかなんで、ネオには固有魔法に二つ名みたいなのが付いてるの?」

 ネオはちょっと上から目線でニヤリながら話の続きを始めた。

「固有魔法の二つ名は、ふと頭に出てくるんだ。ギルドのみんなも夢で、ふと出てきたりしてるらしいぞ」

「へー。なんか不思議。でも、神秘的で二つ名カッコいいね!」

「だろー!? ハッハッハッ!」

 ほんとネオって子供っぽいな……。でも、そういうところ可愛いな。てか、ネオって結構頭良いのかな……魔法のこと詳しかったし。

「ネオ先生! 質問です!」

「なんだいエレナ君!」

「固有魔法が使えれば、魔力をわざわざ属性に変化させなくて済むんじゃないですか? なのになんで属性魔法があるんですか?」

 この質問にネオは、少し悲しんだ顔をした。その顔を見たエレナは、地雷を踏んでしまったのかと思い焦った。

「ご、ごめん! 嫌なこと聞いちゃった?」

「いや、良いんだ。いつかは話さないといけないからな……。固有魔法ってのは生まれたときから刻まれてる魔法って言っただろ?」

「う、うん……」

「この固有魔法は、生まれる人全員に刻まれてるわけじゃないんだ。固有魔法が刻まれずに生まれる子がいる。その生まれた子達は、周りの人から忌み子として扱われる。そんな子供達を救うために、昔偉かった魔法使いが魔力を属性に変化させて使えるよう考えたんだ」

「そうだったんだ……知らなかった」

「俺らのギルドにもいるんだ……小さかったときに忌み子として扱われて育ってきたヤツが……」

 私たちのギルドにも固有魔法が無い人が……。でも、ここのギルドに入ってるってことは序列に入ってるってこと!?

「その人ってどんな人なの?」

 ネオはさっきまで暗かった表情が、打って変わって一気に表情が明るくなった。

「んー、一言で言うと胸オバケ」

「胸オバケ……?」

「あぁ、あいつ服の中にスイカ入れてんのかって思うぐらい胸がデカいんだよ」

「バカやろー! そういうこと聞いてんじゃないわよ! 性格とか聞いてんのよ!」

「あぁ、そっちか! あいつは優しいヤツだ! そしてめっちゃ強い。ここのギルドに入ってるメンバーのほとんどが、あいつから剣や戦闘を学んでるんだぜ。まぁ俺らの剣の師匠だな」

「えぇー! スゴすぎ!」

 いや、序列が序列の人に剣を教えるって、どんな状況よ……

「よし! 俺も負けてられねぇ! まずは体力作りだ! 走るぞーエレナもついて来い!」

「えぇー走るのー! 私運動苦手なんだけどー!」

 ネオが尊敬してる剣の師匠に私も会ってみたいな。なんだか、仲良くできる気がする。

「良いねぇー青春だ」

「そういうお前も、まだ若いだろ。あの二人に交じってくればいいじゃないかアラク」

 アラクとクラウンが大きな木から少し離れた所から、ネオとエレナの様子を親のような立場で見ていた。

「俺は、あいつらと同じ世代じゃないんですよ。これからの時代を創って行くのは、ネオとエレナ、副マスターに萌えロリ、そしてあの胸オバケたちの代の『新魔世代』ですよ」

「おい、胸が大きいのは仕方ないだろ。エルフなんだから。それにノアっていうちゃんとした名前あるんだから」

「まぁ、半分は鬼の血ですけどね。じゃあ俺はこれから、ちょっと王都に行ってきますよ。情報が必要ですから」

「あぁ、頼んだよ」

 まったく、あいつは仲間の為ならなんでもするな。普通アラクネの種族の者はネチネチしていて陰湿な者が多いのに、お前は真逆だなアラク。

「さてと、私もバーに戻って飲むか!」


~王都・騎士団円卓の間~

「先日、ネオ・ミカエルと思われる人物が僕の隊の副団長と接触した」

「え!なになに!? 戦いの話!? 聞かせて! 聞かせて!」

「戦いの話じゃない。ただの報告だ」

「なーんだつまんないの。戦いの話じゃないんだったら寝よ」

「貴様! 何故寝ようとする! 団長会議の最中だぞ! これだからバカは……」

 一つのとても大きな円卓を中心に十二人の騎士団団長が座っている。一人は寝ており、そしてもう一人は優雅に紅茶を注ぎ、さらにもう一人は一人オセロをしている。このように自由にしているのが八人いる。まともに会議をしてるのは四人だけだ。

「アルフィー、そんなに大きな声を出すな。今回の会議は急遽僕が開いたものだ。全員来てくれただけでありがたいよ」

「それにしても、ハルコン団長。何故今になって悪戯な牙シェルムファングが動き出したんでしょうか。これまでは、裏で暗躍するギルドだったのに数ヶ月前から島を消し飛ばしたりなど、大きな動きが見られるのが怪しいですね」

「まあ、島を消し飛ばしたのは悪戯な牙シェルムファング副団長のアークだろうね。流石、序列三位だ」

「え? じょ、序列三位がこの国にいるんですか!? 序列五位以上がギルドに所属してるなんて情報初めて知りましたよ!」

「まぁ、団長で知らなかったのは君だけなんだけどね」

 アルフィーはポカンと立ち竦んでいた。考えがまとまらないのか目はどこか虚空を見ている。一時すると考えがまとまったのか驚いた表情で話し出した。

「えぇー! 私嫌われてたんですか!?」

「いや、ただこの話をしたとき君任務で城に居なかったから」

「良かったー! 嫌われて仲間外れにされたかと思いました!」

「君って、眼鏡かけてて顔もしっかり者って感じなのに、結構アホだよね」

「眼鏡かけてたら頭良いっていう偏見と同じですよそれ。嫌われますよ。それより、序列五位以上がギルドに所属してのはアークだけなんですか?」

「そうだ。他の四人は個人で活動している。まぁ、だけどね」

「もし、悪戯な牙シェルムファングが攻めてきたらマズいじゃないですか!」

「そうだね。アークがいたら絶対勝てないだろうね。でも、奴はこの前島を消し飛ばすほどの魔力を使ったんだ。簡単には回復しないさ」

「なるほど。島を消し飛ばすほどだから、魔力を補充するのに月単位かかる。それなら、攻めて来ませんね」

 ハルコンは嬉しそうに頬の口角をあげ、これから起こりそうなことを楽しんでいる。

「いや攻めてくるだろうね。それも近いうちに」

「それほんと!? 強いヤツと戦えるの!?」

「あぁ、戦えるよ。それも序列相手にね。アークはいないと思うけど」

 さっきまで寝ていた子供っぽい人が大騒ぎしている。その声は円卓の間に響き渡っている。正に子供だ。

「よっしゃー! やる気出てきたー!」

「でも、何故攻めてくると分かるんですか?」

「理由は二つある。ここの城には奴らにとって大事な物が金庫にある。それを取りに来るってのが一つ。奴らも早く回収したいだろうからね。二つ目は確かな情報じゃないから公言は控えさせてもらうよ」

 ハルコン団長は私たちに何か隠しているのか? それとも、王から言わないよう口止めされているのか? どちらにせよ重要なことには変わりないな。

「分かりました」

「今日はこれで解散とする。皆今日は集まってくれてありがとう」

 解散した途端に団長たちは円卓の間から出ていく。そして、ハルコンがただ一人円卓の間に残り微笑んでいた。

「楽しみだな」


~ウッドハウス・バー~

「ハクション!」

「なんだ? マスター風邪か?」

「いや、酒を飲んでるから風邪じゃないと思うんだけどな」

「いや酒は風邪薬じゃねぇよ」

 クラウンの自然なボケに、レグルスが的確なツッコミで返すという一流の芸人のような流れだ。

「そういえば、今日の晩メシ当番俺じゃねぇかよ」

「じゃあ、私オムライスとスパゲッティ食べたい」

「あー材料あるからそうしますか。リカも食うかな」

「リカなら王都の隣町に、新しいケーキ屋が出来たって言って出かけたよ」

「じゃあ、俺とマスターとネオとエレナ……あとノアか」

 あ、でもあいつご飯食べに降りてはこないか……俺はまた、みんなとメシ食いたいんだけどな……

「作って持って行ってあげなよ。ノアも喜ぶと思うよ」

「うっす!」

 私もまた、みんなで楽しくご飯食べたいしな。もちろんエレナも入れて。

「今マスター暇っすよね? ネオとエレナ呼んできといてくれます? そろそろ晩メシなんで」

「えーわたしがー?」

 うわ……ものすごい嫌な顔してる。こんなんがここのギルドマスターで大丈夫かよ。頼りねえー。

「行かなかったら晩メシ抜きです」

「行ってきます!」

 こういうときだけ本当に切り替え早いな。いつもこのくらい切り替えが早かったら良いんだけどな。

「あ……」

「どうしたんすかマスター?」

「お客だ」

「客? こんな時間帯にですか? まだバーの開店時間じゃないっすよ」

「夜ご飯の支度中に悪いね。ちょっとお邪魔するよ」

「ハルコン……」

 何故ここにハルコンがいる? ここは私の結界の中だぞ……。どうやって入ってきた。

「あの……マスター。誰も居ないっすけど」

 レグルスには見えていないのか?ということは精神操作系の魔法か?それとも、思念体か?

「ピンポーン! 今の僕は君にしか見えてない。実体は王都の城にいるよ」

 この思念体、人の考えてることが分かるのか。これじゃあ嘘をついてもすぐバレるだけか。

「すまない。私の見間違いだった」

「昼間から酒飲むからっすよ」

 ハハハ……これに関しては何も言い返せないな……。ちょっと飲む量減らそうかな……

「で、こんなところまで、わざわざ何しに来たんだ? ただ様子見をしに来たわけじゃないんだろ?」

「エレナ・スカイハートを受け渡してほしい」

「なんだと?」

「今あの娘が居ないことで、王たちの機嫌が悪くてね。命令で『エレナ・スカイハートを回収せよ』って任務がきてね。受け渡してほしんだけど……」

「断る。エレナは私たちの仲間だ。そんな簡単に受け渡してたまるか」

「ふふ、そういうと思ったよ。奪われたくなければかかってこい! そして、お前たちにとって大切な物を取り返しに来い! 王都で待ってるよ。姉さん」

 ハルコンは挑発気味の言葉をクラウンに残し消えていった。クラウンは話に疲れたのか大きなため息をつく。

「はぁー、手のかかる弟だ……」

 そっちがその気ならやってやる。姉弟喧嘩だ。


~王都・円卓の間~

 ハルコンはクラウンとの話の後からずっと笑っている。

「さあ、始めよう姉さん! 全力の殺し合いきょうだいげんかを!」

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