第4話 帰還と序列四位

 部屋の窓から差し込む温かい光がエレナの顔を明るく照らして、小鳥のさえずりが自然の目覚まし時計になっている。

「ん、んー。もう朝か」

 もしかして、初めて来たところで爆睡しちゃった!? なんかスゴイ恥ずかしい!

「そうだ私、荷物とか持って来なかったから服の替えとかが無いんだ。あとで、マスターに相談してみよ」

 部屋の扉を開けると、昨夜では気付かなかったことに気づく。

「あれ、こんなにここの家大きかったかな。外で見たときより明らかに大きい。魔法を使って家の中を大きくしたのかな。それより……ほこりまみれじゃん! きったな! 絶対月単位じゃなくて年単位で掃除してない」

 とりあえず、掃除は後からするとして今は下のバーまで行こ。床の建付けも悪く、一歩歩くたびにギシギシと木のきしむ音が聞こえる。

「お、おはようございまーす」

「お、やっと起きたかエレナ」

「あ、ネオ!おはよう! ネオって案外朝起きるの早いんだね」

 まだ、朝の五時くらいなのにネオめっちゃ元気だ。元気の塊で出来てるのかな。

「まあな、今日はあいつが帰ってくるからな! 楽しみで早起きしたんだ」

「あいつ? もしかしてここのギルドメンバーの人?」

「あぁ、めっちゃ強いぜ! なんたって序列一桁だからな」

 あぁ……もう分けわかんない。所属してる私が言えることじゃないけど、なんなのこのギルド。

「ネオは序列何位なの?」

「俺は最近入ったばかりで最下位の二十位だ」

「そうなんだ。ネオ強いのにね」

「あぁ? 何言ってんだお前。ネオはこのギルドで一番弱いぜ」

「えぇー! あんなに強いのに!?」

 てか、いつからレグルスさんはそこに? てかなんで上半身裸なの? たくさん汗かいてるからトレーニングの帰りなのかな。

「そいつは頭で考えたことを実行できる強い魔法だが、使い方が悪りぃ」

 そうかな……剣を使って戦うスタイルにネオ君の魔法を加えた使い方相性バッチリだと思うんだけどな。

「こんなクソガキにアドバイスをするのは癪だが教えてやるよ。ネオの魔法と一番相性のスタイルは、『魔術師』だ」

「魔術師!?」

 てっきりもっと、戦闘向きのスタイルかと思ったけど魔術師?

「理由は二つある。一つ目は魔力量だ。こいつは魔力量は桁外れに多い。魔力は、火・水・風・光・闇の属性に変化して使うことができる。そんな膨大な魔力があるのに使わないのは勿体ねぇ。二つ目はネオの固有魔法との相性だ」

「固有魔法?」

「こいつの、頭の中で考えたことを実行できる魔法のことだ。この魔法は本当に強すぎる。最初は、自分で考えてることが実行されるなら、魔法を使う必要はねぇ。って思わなかったか? 確かに、『三秒以内に自分で出来る行動を実行する』だけの魔法なら無価値の魔法だ。だが、この魔法の本当の強さは、魔法を使うことで確実な実行が出来るって点だ。例えば、普通に剣を使って攻撃すれば避けられる可能性がある。が、魔法を使えばその攻撃は必中する」

 じゃあ、『三秒以内に自分で出来る行動を実行する』を使う理由は、攻撃を確実に当てる為? そっか、だから広範囲に攻撃できる魔術師をレグルスさんは進めたんだ。

「が、これは『ネオの』スタイルに合ってねぇ」

「そっか。ネオの固有魔法と相性は良いけど、ネオの体には剣術が染みついてるのか」

「お、よく分かったな」

「へへへ……」

 レグルスさんに褒められちゃった! なんか、お兄ちゃんみたい。

「は、話してる内容が難しすぎて、なに言ってるか全然分かんねぇー」

「お前の話だよ!」

 エレナとレグルスが全く同じことを言う。その姿は仲のいい兄妹のようだ。

「まぁ、自分に一番合うスタイルを探せば良いんだ。それまでは色んな戦闘スタイルに手を出すことだな」

 ネオにアドバイスを残してレグルスはハウスの中に入っていった。

「てか、俺あいつ帰ってくんの待ってたのになんで、あの猫からアドバイスもらってるんだ?」

「あはは……」

「良いじゃん! たまにはレグちゃんとも仲良くしてあげなよー」

 え? ネオと私の後ろから声がしたような……気のせい?

「おぉ! やっと帰ってきた! 久しぶりだなアラク!」

「久しぶり、ネオ」

 この人がネオが朝からずっと待ってた人?……いや身長高くて手足長!そして髪黒!? 赤と黄色のメッシュカッコよ! 髪長い系イケメンじゃん! 惚れそ。

「あぁーもう疲れてるんだからくっつくなよー」

「別にこんくらい良いだろー!」

「はぁ……。君がマスターの言ってたエレナちゃんだね。僕はアラクって名前だけど、自由に呼んでいいからね」

「は、はい!」

 性格も優しくて良い人だ。アラクさんはなんだか人気者の従兄弟って感じがする。

「じゃあ、僕はこれからマスターにクエストの報告に行ってくるから」

「えぇー、勝負してくんないのー?」

「あとで、相手してあげるよ」

「言ったからな! 絶対だぞー!」

「はーい」

 アラクさんもネオの面倒見たり、依頼に行ったりして大変だなー。

「ねえ、ネオ。アラクさんってどんな魔法使うの?」

「アラクは火の魔法と固有魔法の『傀儡かいらい』って魔法を使って戦うぞ」

「『傀儡』ってどんな魔法なの?」

「人形を操る魔法だ。手先で等身大以上の戦闘用人形を操りながら自分も戦うスタイルだ。正直、人形を操りながら武術で攻めてくるからズルいって思ってる」

 す、素直だ……。そんなに強いんだアラクさんって。まあ、序列入ってるから強いに決まってるか。強いのかなって思った私がバカだった。

「アラクに勝負してもらう前に、体動かしてくるわ!」

 序列に入ってる人ってどんな風に、体動かすのかな……よし!

「待ってネオ!私もついて行くー!」


 錆びついていて中々開かない扉を無理矢理こじ開けて、アラクがギルドホームに入ってきた。扉は、今にも取れそうなくらいにボロボロだ。取れてないことが奇跡のようにも思える。

「今戻ったよマスター」

「おう、おかえり。思ったより遅かったな。道草でも食っていたのか?」

「まあね。美味しいケーキ屋を見つけたりしてたら遅くなっちゃった」

「ふん、だから俺はお前が嫌いなんだ」

「なんだ居たのレグちゃん。おかえりのチューは?」

「んなことするかボケ! あとそんな風に呼ぶなカス!」

 アラクとレグルスは犬猿の仲だ。喧嘩をしかけるのは毎度レグルスで、毎回惨敗している。その光景は、周りからすると日常の一部でもある。

「で、なにか収穫はあった?」

 アラクが真剣な眼差しでクラウンを見る。その眼を見て、レグルスもただ事ではないと察する。空気が変わる。

「王国騎士団が序列四位・オリジンを勧誘した」

 レグルスとクラウンが驚いた表情で、アラクの話に噛みつく。その噛みつき方は、獰猛どうもうな獣そのものだ。

「ちょっと待てよ! 序列のヤツを勧誘するのは良い。他の国でも行われてるからな。だが、序列五位以上を勧誘するのは話がちげぇぞ」

「序列五位以上に選ばれている奴らは、我々とは次元が違うからな」

「だから、その情報が確実なものか知りたくて帰ってくるのが遅れちゃった」

「で、その情報は確かなの?」

 このクラウンからの質問でアラクの顔がさらに真剣さが増す。その真剣さで、クラウンはおおよその察しはついていた。

「……確定した情報だと思う」

「思う?確かな情報じゃねぇのかよ」

「僕なりに詳しく調べたんだけど、この話は王族とそれに使える三大貴族にしか知らされていないんだ」

「なに? 王国騎士団はこのことを知らないのか?」

「あぁ、王国騎士団はこのことを誰も知らなかった。団長にさえも知らされてはないようだった」

「てめぇは、どうやって確認したんだよ」

「傀儡の糸を通して記憶を拝見させて……」

「便利な魔法だな」

 レグルスはどこかアラクの強い魔法に嫉妬しているのか、拗ねているように見える。その拗ねている姿を見て、アラクは嬉しそうに微笑んだ。

「それよりこの件をどうするか、案を練らないといけないな」

「そこで提案なんですけどマスター。王城にあるアレを取りに行くついでに王国騎士団を片付けませんか?」

「相手は王国騎士団の団長たちもいる。ヤツらの実力は序列にこそは入ってないが、序列候補に名が上がっているヤツもいる。現状、ホームに戻ってきてるのは十人中五人だ。せめてあと二人はいないとキツいぞ」

「そう言うと思って、副マスターに声かけときました!」

 クラウンとレグルスは呆れた顔をして、大きなため息をついた。二人の内心は「これだからアラクは……」と思っている。

「で、あいつは何て返事したの?」

「戦闘時は仮面着けて戦うから大丈夫って言ってました」

「最悪オリジンがいたら、あいつに任せるか。出来れば団長全員任せたいど……」

「じゃあ、決まりだな」

「作戦はこれから私が考える。決行日は早くて二週間後だ。それまでに各自準備をしといてくれ」

 ここから、エレナが加入して初めての大きな争いが始まる。


~死獣の氷山~

「そろそろ帰ろうかなー。依頼のSSS級モンスター150体の討伐終わったし。帰ってお風呂はいろー! あと、久しぶりにネオに会いたいなー!」

 雪の上には激しく争った跡が残っていた。討伐されたモンスターの残骸があちこちに落ちていて地獄のような風景がそこにはあった。綺麗な白い花はモンスターの血を吸って、雪と共に赤く染まっていた。

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