第2話 覚悟と新たなる旅立ち
「やっと……やっと王都に着いた!」
「いや一時間歩いただけだから」
無事私たちは王都に帰ってくることができました。キラーゴブリンは本当にネオが倒してくれたらしく、森の中には150個を超える魔石が落ちていたと兵士の人から報告があり、それを回収して帰ってきました。お父様は「倒したのはネオ君なんだから全て持って行きなさい」って言ったけど、ネオは「いらない」の一点張りで受けとりませんでいした。
「そうだ。私たちを助けてくれたんだから、屋敷に寄って行ってよ」
「そうだな、エレナの言うとおりだ。ネオ君私たちの屋敷に寄って行きなさい」
「いや、僕は用事が……」
「いいからいいから」
「いや、僕本当に用事がー!」
私の屋敷は、王都の入り口門を入って北の方に10分近く歩いたら着く。王都の城と比べれば質素な物だが、かなり大きな屋敷だ。
「お母様、ただいま戻りました」
「あら、おかえり。依頼は数日かかるんじゃなかったの?」
この人は私の母、ハーモニ・スカイハート。このとおり、ものすごい美人だ。そして、なにがとは言わないがデカい。私も、まぁまぁの方だと思うが、そっくりそのまま遺伝してほしかったと母を見るたび思う。
「そうだったんだけど、この人が助けてくれたの」
「は、はじめまして。ネオって言います……」
「ネオ君ボロボロだけど大丈夫?それに、服もいたる所に血の跡が」
ヤッベ、無理矢理引っ張って来たからネオ君の服ボロボロだ……
「だ、大丈夫です……お構いなく」
「じゃあ部屋で待ってて。お茶持って行くから」
「はーい」
私の部屋に年が近い人が入るなんて、初めてだなー。これまでは、披露宴とかでしか同い年の子とは話したことないからなぁ。なんだか恥ずかし!
「はい、ここが私の部屋よ」
「めっちゃ綺麗だな。それに、なんかふわふわ感がある」
「ありがと」
「はーい、お茶持ってきたわよー」
お母様が持ってきてくれたハーブティーは落ち着く良い匂いがする。クッキーじゃなくてケーキを持ってきたのがお母様っぽい。
「ところで、なんでお母様も座ってるの?」
「いいじゃない。エレナが初めて家に友達を呼んだんだから。それに男の子!詳しく話を聞かないと」
私はお母様のこういうところが正直苦手だ。上手くお母さんのノリに乗れないのが難点だ。
「そういえば、王都に用があるって言ってたけどなんの用があって来たの?」
「依頼で来たんだ」
「依頼?」
「そうだよ」
「依頼を受けたってことは冒険者なのよね? 冒険者は一人でやってるの? それともギルドに所属してるの? 所属してるとしたらどこ? 『
「ごめんね。この娘冒険者やギルドオタクなの」
「ギルドに所属してるよ。そんなに有名なギルドじゃないけど」
「そうなんだ。あんなに強いから有名な所に所属してると思ってた」
「ははは……」
ハ―モニは、ネオとエレナの顔をチラチラと確認しながら頃が良いところで立ち上がった。
「ごめんなさい。ちょっとお手洗い行ってくるわね」
「はーい」
そう言ってお母様は、私の部屋から出て行った。出ていく前に、口パクで「頑張って」と言われた気がした。一体何を頑張れと言うのか……
そして、二人しか居ない部屋に少しの間沈黙が流れた。その沈黙の中、ネオが口を開いた。
「まぁ予定と違うけど、まぁいっか。僕の受けた依頼内容はね、君の暗殺なんだ。」
「え?」
ネオ君が私を殺しに来たってことだよね? なんで?
「なんで? って思うよね。君は今この国から追われる立場にある」
「え? なにを言って……」
「君はある人と契約したんだよ。そして、その契約相手は君の中で眠ってる。まぁ、君が赤ちゃんのときに契約したらしいから、覚えてないと思うけど。国はその力が欲しんだ。
「ちょっと待ってよ! 意味分かんないよ。急に暗殺とか。それに国が決めた事なら、お父様は何か知っているはずでしょ?」
「うん、もちろん知ってるよ。なんなら、この話題を出したのは君のお父さんだからね」
「え……」
「この情報は極一部の人しかしらない。信じられないなら直接聞いてみたらいい。君のお母さんも知ってると思うから」
私は、歩きの作法を無視して部屋から飛び出した。これまでにないくらい心臓の鼓動が早かった。
そんなはずない、そんなはずない。あの優しいお父様が? 私をそんな風にする人じゃない。お母様だって、私のことを大切に育ててくれてた。きっと全部嘘だ。
「お父様!」
「おぉーエレナどうした? ネオ君はもう帰ったのか?」
「私を兵器利用しようとしたの?違うよね?全部嘘だよね?」
「何を言ってるんだ?」
「や、やっぱりネオ君が嘘ついて」
「本当の事に決まってるだろ」
「え……」
このお父様の答えに私は絶望した。これまでの楽しかった思い出。これから作ろうとした思い出。全て闇に捨てられた。どうでもよくなった。
「まったく困った娘だ。ここまで育ててやったんだ。ちゃんと私たちに貢献しろ。これで名声と金が沢山手に入る」
本当に……ネオ君の言うとおりだった。お父様は、私を道具として見てたんだ。私を人として見てなかったんだ。これまでの優しさも全部、私を道具として使う為にやってきたことだったんだ。
「な、言っただろ」
「ネ……オ君?」
このときの私の顔は大粒の涙や鼻水を垂れ流しで、とても人に見せられるような顔じゃなかった。
「まさか君かね? エレナに話したのは」
「そうです」
「余計なことをしてくれたな。君にはここで死んでもらおう」
「え、それは困るなぁー。やっと王都に着いたばかりなのに」
「ほざけっ!」
お父様がネオに切りかかりネオも刀で防ぐ。刀身がぶつかり合う。ぶつかり合う音が屋敷全体に響き渡る。
「お父様……ネオ君」
「なんだ?貴様の剣。ただの剣じゃないな」
「これは黒刀だよ。これ作ってもらうのに結構時間かかったんだよ」
「知るかぁ!」
刀身がぶつかり合うたびに、屋敷のメイドや執事が集まってくる。気が付けばメイドや執事に囲まれていた。
「何事!?」
「エレナ様が連れて来たお客様とウィング様が戦ってるらしい」
「当主様が!?」
「誰か王国兵を連れてこい!急げ急げ」
その間も剣のぶつかり合う音は止まない。止むどころか、さらに激しくなっていく。
「ギャラリーが増えてきましたね」
「ギャラリーが気になるのか?」
「いえ。それより、剣使えたんですね。兵の人に指示を出してるだけだと思ってました」
「これでも、武闘祭で優勝した経験があるからな。貴様のような何も知らないガキなんかに負けるはずがない」
「それはスゴイですね。僕も武闘祭出てみたいなー」
なんなんだこのガキ。さっきから私の攻撃を受け流すだけで攻めてこない。もしかして、ビビってるのか?やっぱガキだな。
「はい、油断したね」
「は?」
ウィングの体に一瞬にして体中に切り傷ができた。着ていた服もボロボロになり、剣の刀身も刃こぼれしていた。
「ば、馬鹿な……一瞬で」
こいつただの冒険者じゃなかったのか!?
「ウィング様!王国騎士団を呼んできました」
「は、ははは……これで貴様は終わったな。」
「王国騎士団!?そんなのネオ君でも……」
すると、屋敷の入り口から鎧を着た体の大きい男が入ってきた。
「そこのガキ。次は俺様が相手をしよう。この王国騎士団警護隊副団長・アイヤン様がな!」
「そんな!副団長がネオ君の相手?こんなのか、勝てるわけが……」
「諦めるなら今のうちだぞ!ハッハッハッ」
周りにいたメイドや執事達は王国騎士団の方へと寄って行く。誰も、ネオやエレナを庇おうとしない。
そんな中でも、ネオはアイヤンの目から視線を逸らさない。
「ん?貴様どこかで見たことあるな。名乗ってみろ」
「ネオ……」
「!? 貴様まさか、ネオ・ミカエルか!?」
「それがどうした?」
アイヤンの額からは汗が垂れてきていた。何かに驚いているようで、怖がっているようにも見えた。
ネオ・ミカエル?それが、ネオ君のフルネーム?なんで私には下の名前を教えてくれなかったんだろう。
「兵の半分はここにいるメイド達を連れて今すぐ城に戻れ。残りの半分はこの屋敷を囲うように陣を取れ。あと、誰か一人団長を連れてこい。団長クラスの者なら誰でも構わん。行け」
「はっ!」
アイヤンの後ろにいた兵が戻って行く……どうして? 屋敷を囲おうとしてる?
「よかったのか? 兵を全員戻して」
「構わん。お前の相手なんざ俺様一人で十分だ」
「悪いけど、王国騎士団とは揉めるなって副団長から言われてるんだ。逃げさせてもらうよ」
「簡単に逃がすと思うなよ!」
これがあのネオ・ミカエルなのか? 騎士団の報告書などでは、破天荒な性格と聞いていたが……一般な青年ではないか。
「ねえ、エレナ。突然なんだけど、僕が所属しているギルドに来ないか?」
「え?」
「ここに残っても良いけど、エレナはここで、幸せに暮らしていける?」
そうだ……今の私は、家族に捨てられたんだ。私に優しかったお父様。いつでも優しく包んでくれたお母様。私の面倒を見てくれたメイドや執事。でも、誰も私を助けてくれなかった。道具として見てた。きっともう、あの楽しかった日々はかえってこない。それなら……私は。
「行く。私を連れて行って!」
「あぁ、連れて行く!」
「簡単に逃がすと思うなよ!。『鉄蛇』!」
アイヤンの持っていた剣が伸び蛇の形になり迫ってくる。
「キャー! キモイ!」
「お、お前! 俺様の魔法がキモイだと!? 許さんぞ!」
「てか、なんで私お姫様抱っこされてるの!?」
私今、男の人に触れられてる!? 細い腕だけど、しっかりとした腕の筋肉、そして硬い胸筋! 心臓バクバクだわ!
小鳥のさえずりや風の吹く音など色んな音が聞こえてくる。そして、眺めの良いテラス席に座って食事をしている人影が二つ。
「お待たせしました。チーズたっぷりカルボナーラとスパイシーチキンドリアでございます」
「うぉー美味そう」
「私のカルボナーラ半分あげようか?」
「え、いいのか?」
「えぇ、もちろん」
そこには、白髪の男の獣人とワインレッドの髪の女の人が優雅に食事をしていた。
「それじゃあ、いっただきまー」
「この蛇キモすぎ!」
「逃げるなー待て!」
食事をとっていた二人が顔を合わせる。
「今のって、ネオだよな?」
「えぇ。ネオだったわ」
「まぁ、あとで迎え行けばいいか。あのクソガキのことだし大丈夫だろ」
「それもそうね」
「いや、ご飯食べてないで助けろよ!」
もしかして、この二人ネオ君と同じギルドの人かな。てか、獣人の人身長高いし、目つき悪くて怖い!
「ネオよく考えてみろ」
「な、なにをだよ」
「目の前にあるスパイシーチキンドリアと仲間……どっちを優先する?」
「仲間に決まってんだろ!」
「それより、なんで王国騎士団に追われてるのよ?あんたの任務は暗殺だったわよね。……あぁ、失敗したのね」
「自問自答すんな!それより、あのデカ男がこっちに戻ってくる前にここを動こうぜ」
ネオ君がため口で話してる!?こっちが本当の性格なのかな。これまでは猫被ってたのかな。
「で、その娘は?」
「事情はギルドに帰ってから説明するから、今は手伝ってくれ」
「そっか、副団長から王国騎士団とは争うなって言われてるんだったな」
「あぁ、上からの命令は守んないといけないからな」
「じゃあ、手っ取り早く帰ろうぜ。腹が膨れて、ねみぃからよ」
「それもそうね」
私、全然会話について行けないんだけど。気が付いたら独りぼっちってことは無いわよね?てか、いつ二人は料理を食べたのよ……。
「よし、俺に掴まれ。絶対離すなよ。感電するからな」
「え? 感電!?」
その瞬間、目の前が真っ白になった。それと同時に雷鳴が響き渡った。
「よし、着いたぞ」
私はゆっくりと閉じていた目を開けた。そこには、王都とは全く違う景色が広がっていた。そして、目の前には大きなウッドハウスが建ってた。
「ようこそ。我らのギルドハウスへ」
雷鳴がした場所には副団長のアイヤンと若い青年が立っていた。
「も、申し訳ありません……ハルコン団長。取り逃がしてしまいました」
「構わないよ。それよりここに雷が落ちたんだね?」
「は、はい。しかし、何故か雷が落ちた痕跡が無く……」
「そして、落ちたところにいた人が消えた。魔力の跡が全く残ってない。こんな洗練された魔法を使えるのは、この国であのギルドだけだ。貴様らもついに動き出すのか……
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