ファンタジアストーリー

パレット

第1話 落ちてきた者

 ここは、魔法が存在する世界『ファンタジア』。この世界には数多くの種族が存在する。ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ヴァンパイア、鬼、魔族。他にも数多く存在し、希少な種族もいる。そして、多くの種族が手を取り助け合う『ギルド』が設立された。

 ギルドとは、依頼者から依頼を受け、依頼された任務を遂行するのが主な仕事だ。そんな数多くのギルドの中でも、森の中にあるバーを拠点とし最強最悪と、呼ばれるギルドがある。そして、そのギルドに所属する十三人が、この世界に歴史を作り、ファンタジアに新たな風を吹き起こす。そのギルドの名は

悪戯な牙シェルムファング』!!


 花びらを乗せ夜風が吹き、月明りが国を照らし街は輝いている。そんな中ポツンとした酒屋で、丈夫な身体を持つ男達が興味深い話をしている。

「なあ、聞いたか? 例のギルドの話」

「あぁ、聞いた聞いた。また島を地図から消したんだろ?」

「ほんとあそこのギルドは、めちゃくちゃだよな。地図から島を消すって一体何を

やったら、そうなるのやら」

「でも、消されたのが島で良かったよ。王都が消されていたらたまったもんじゃ

ないからな」

「たまには、問題を起こさないでもらいたいな」

 この男達が話してることは、これから話す物語の少し先のお話。


 ここは、大陸の南西に位置するフォレグラン王国。ここには、駆け出しの冒険者や商人が集まり多くの人が暮らしている。自然も感じられて、豊かな国でもある。

 そんな中、朝早くから大きな屋敷の中をバタバタと、走り回っている音が屋敷に響き渡っている場所があった。

「お父様、おはようございます! 今日なんの日か分かりますか!?」

 このウキウキしながらお父様に話しかけているのは私、エレナ・スカイハート。王国を支える三本柱『スカイハート』家の長女として生まれた。位は公爵で、幼い頃から英才教育を受けてきた。自分では気にしていないが、周りの人からは高嶺の花とも言われる。正直なところ嬉しい。

「もちろんだ。今日はエレナの16歳の誕生日だ。夜は豪華な食事を準備しておくよ」

「やった! あの……お父様。前に約束していた魔物討伐に連れて行ってもらえませんか?」

「そうだな。十六歳になったら連れて行く約束だったからな。スカイハート家の仕事をしっかり見ておくんだぞ」

「はい!お父様!」

「それでは、動きやすい服に着替えてきます! ドレスだと動きにくかったり、汚れてしまうので」

 そう、私たちスカイハート家は王から王都周辺の管理・魔物討伐を任せられている。次期当主として、しっかり実戦経験を積まなければならない。でも、体力も剣の扱いもまだまだ初心者だ。

 屋敷の前には、鎧を着た兵士が綺麗に並んでいる。全員がこれからの戦いに備え、神経を研ぎ澄ましていた。

 そこに、動きやすい服をエレナが着て出てきた。

「ところでお父様。今日は兵士の数がいつもより多いみたいだけど、どんな魔物を討伐するんですか?」

「今日はギルド協会から依頼された『グリーンゴブリン』を狩りに行く。ヤツらは単体ではそんなに強くないが、群れを成しているとCランクの冒険者だろうとられてしまう。E級の魔物だからといって決して油断するんじゃないぞ」

「分かりました!」


 王都を出発して一時間が経ち目的地である『魔物の森』についた。大きな木々が陽の光を遮るかのように、空高く伸びている。湿り気もあるせいか、とても薄気味悪い。エレナは、ここに来るのは初めてだが良い印象は持たなかった。

「これから森に入る。王都には我々の帰りを待つ者がいる。油断をしないよう心してかかれ」

 さすがお父様。兵士の士気を上げるのが上手い。私も次期当主として見習わなくちゃ。

 そしてエレナ達は薄気味悪い魔物の森の中に入って行った。


「討伐目標を見つけたらすぐ報告してくれ。そいつの後をついて行き、ヤツらの巣を見つけ出す」

「はっ!」

 お父様が兵士の皆さんに指示を出して、何をするのか明確にしてる。勉強になることが沢山ある。連れて来てもらって良かった。

 すると、先行していた兵士の一人が走ってこちらに戻ってきた。

「報告です。ここから数十メートル先にグリーンゴブリンを先行部隊が魔法で感知いたしました」

「数は?」

「二匹です。しかしそのゴブリンは魔力の流れが不自然との事です」

「……分かった。皆の者は『身体強化』の魔法をかけ私に付いて来てくれ」

 なんだか嫌な予感がする。私の体がこれ以上先には進むなって言ってる気がする。

「エレナ、私の後ろに付いていなさい」

「は、はい」

 ううん、大丈夫。ここにいる兵士の人達は優秀な人達なんだし、お父様もいるんだから。心配することは何も無いわ。次期当主なんだから、ビビってたら駄目よね。

『バキッ バキバキバキ』

 ん? なに? この音。なんか聞いたことないような音が聞こえる。

「皆、木の後ろに隠れろ。魔物は目と鼻の先だ」

 みんなには聞こえてないの?何かが砕けるような音がする……。前だ……前から、

この音が鳴ってるんだ。一体何が鳴って……

私はこのとき、音がする方を見たことを後悔する。見てはいけないものを見てしまった。それは、私の人生のトラウマになるかのような光景だった。

「キャッキャッキャー」

 音の正体は骨だった。ゴブリンが人を食べていた。多分食べられているのは探索部隊の人達だ。鎧にスカイハート家の家紋が刻まれていたから。

 私はなにも考えられなくなってしまった。頭の中が真っ白になって体が動かない。そんな動けない私をゴブリンは見つけだした。ゴブリンは一歩一歩近づいてくる。

「エレナ!早く逃げなさい」

 お父様の声が耳に入る。でも、言われたことを行動に移せない。「もう駄目だ」と思うと目から大粒の涙が流れ体が震える。これが死に対する恐怖なんだとエレナは初めて感じた。

「キャッキャッキャー」

 ゴブリンは私の顔を見て笑うかのように甲高かんだかい声を上げた。とてもキモちの悪い顔だ。見たくない顔だ。そんな見たくない顔が段々とエレナに近づいてくる。

 そして、ゴブリンは手に持っていたなたを大きく振りかざした。

 お父様が焦った表情で私に大きく手を伸ばす。でも、その手は私に届かない。私は覚悟して空を見上げ目を瞑った。

「お父様……十六年という短い人生でしたけど」

「うわぁぁぁぁぁぁー落ちるー!」

「とても楽しかったです! お父様!」

「そこの人! どいてー!」

「え?」

見上げていた空の方へまぶたを開くと、人が手足をバタつかせながら私の方へ落ちて来た。

「キャー! 空から人がー!」

 ゴーンと額と額がぶつかりあう重い音が森に響き渡った。大晦日に鳴らす除夜の鐘のようだ。

 

「痛ったーい! おでこの骨割れたかと思った。たんこぶ出来てたらどうしよ……。そ、それよりさっき落ちてきた人は?」

 私は辺りを見渡した。すると、目の前に大の字をした形が地面をえぐっていた。私を襲おうとしていたゴブリンは居なくなっていた。多分落ちてきた人の巻き添えをくらって……。もう一匹のゴブリンも居なくなっていた。

「あ、あのー大丈夫ですかー」

「だ、大丈夫です……」

 落ちてきた人は大の字の穴からがい上がってきた。綺麗な黒髪が砂ぼこりで汚れていた。服はマントを被っていたから汚れていないと思う。

「こ、ここまで飛ばされるとは……」

「あの本当に大丈夫ですか?骨とか折れてないですか?」

「ん?大丈夫だよ、あのくらいから落ちたくらいじゃ怪我なんてしないから」

「そ、そうですか……」

 いや、空から落ちてきたのに怪我しなかったって、どんな体してんのよ。あ、お父様や兵士のみんなが集まってきた。みんな慌ただしく私の所に来た。

「エレナ!怪我はないか!?どこか痛くないか?」

「大丈夫よ、お父様こそ怪我ない?」

「私はいいんだ。エレナに怪我がなくて本当に良かった」

 お父様は私が無事だと聞いてとても安心していた。そんな、お父様を見ていると私も安心した。こんなに心配されたことは、中々無い。

「そうだ、あなた名前はなんて言うの?」

「僕?僕はネオ。君は?」

「私はエレナ・スカイハートよ」

「スカイハート家の次期当主の?」

「そうだけど……なんで知ってるの?」

「風の噂さで少し」

「そうなんだ……。ところであなたが落ちたときゴブリンを巻き添えにしたと思うんだけど、返り血付かなかったの?這い上がってくるとき血まみれのあなたを想像してたんだけど」

「返り血なんて付くわけないよ」

「え、なんで?」

「なんでって、ゴブリンを潰す前に倒したから」

「えっ?」

 魔物は倒すと肉体が消え心臓部に位置する魔石がドロップする。つまりこのネオって人は、私と額をぶつける前からゴブリンを倒したことになる。あの一瞬で? 体が攻撃をする態勢どころか、手足をバタつかせながら落ちてきていたのに……。しかも、落ちながらなんて……一体どうやって。もし、言ってることが本当なら、そんなの神業じゃない。

「あ、そうだ。ここから王都に行くにはどの道通ったら行ける?」

「えっと、ここから真っすぐ行くと森を出られて、少し歩くと丘の上に大きな木が立ってるから、その木から北東の方に王都があるわ」

「ごめん、全然何言ってるか分かんない」

「えぇー! 結構分かりやすかったと思ったんだけどな」

「じゃあ、王都まで付いて来てもらうことは出来る?」

「ごめんなさい。ここにいるみんなギルド協会から依頼を受けてるから、依頼を達成するまでは王都まで送れないわ」

「じゃあその依頼ってのが、終われば王都まで送ってくれるの?」

「まあ、終わったらね。でもこの依頼は数日かかるからすぐには帰れないわ」

「依頼内容は?」

「グリーンゴブリンの退治よ」

「え?この森にはここ一ヶ月グリーンゴブリンは確認されてないよ」

「な、何言ってんのよ。あなたがさっき一匹倒したじゃない」

「あれは『グリーンゴブリン』じゃないよ。あれは『キラーゴブリン』だよ」

 グリーンゴブリンじゃなくてキラーゴブリン!? B級に指定されている魔物で、知能が普通のゴブリンより高く頭が良い。さらに戦闘力も高く、A級の冒険者でも死亡したりする事例もある危険な魔物。

「な、何故グリーンゴブリンじゃないって分かるんだ」

 お父様の言うとおりだ。見た目はグリーンゴブリンとほぼ変わらないキラーゴブリン。すぐにキラーゴブリンだって分かるはずがない。

「何故って、魔力の流れですよ。偵察や探索部隊みたいなヤツはこの兵士の中には居なかったんですか?」

 そうだ。お父様に報告しに来ていた人が言ってた。魔力の流れが不自然なゴブリンが居るって。ということはこのネオって人は、戦闘だけじゃなくて探索や偵察も出来るってこと?

「まあ正確に言うと、グリーンゴブリンがキラーゴブリンに進化したんだよ」

「進化?でもグリーンゴブリンが全て進化なんてしたら、この森の魔力は枯れるんじゃない?」

「そうだね。でも最近、島が消えるほどの魔力爆発があったでしょ。きっとその残留した魔力がこの森まで風に流されてきたんだと思う」

「いやこの森にいたグリーンゴブリンが全個体進化するって、とんでもない魔力量が流れてきたのね……」

 あれ? たしか島が消えた原因って、火山の大爆発が原因じゃなかったっけ。他にも似た事があったのかな。

「それよりエレナ、もう日が暮れてきた。今日は森の入り口まで戻って野宿をしよう。死んでしまった彼らを埋めてやらないといけないしな」

「分かりましたわお父様。あなたもテント張るの手伝ってもらえますか?」

「うん、良いよ」

 テントの設営は思ったより早く終わった。その間、お父様は死んでしまった人達を一人一人に声をかけながら優しく丁寧に埋めていってた。その間、私とネオは二人で焚き火を囲って話をしていた。

「ねえ、エレナってどんな魔法使うの?」

「急ね。私が使う魔法は『治癒魔法』よ。」

「治癒魔法か……良い魔法だね」

「ありがとう! 私の魔法を褒めてくれて。でも治癒魔法しか使えないのよね。ネオはどんな魔法使うの?」

「僕? 僕は、そんな大したことないよ。エレナの魔法の方がスゴイよ。本当に」

 ネオはどこか落ち込んだ表情をしていた。何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと、エレナは焦燥感しょうそうかんに駆られていた。


「敵襲! 敵襲だ! 」

「敵襲!? どうして今!? もしかして、あのときのゴブリンが仲間を呼んできたの?」

 まずい。兵士のみんなもここまでの道のりで、色んな事があって疲れきってる。ここは次期当主の私がなんとかしないと。

「お父様、ここは私が……」

「いや僕が行くよ」

「ネオ君!?」

「無理よ! キラーゴブリンが仲間を連れて来たってことは少なくとも100匹はいるのよ! あなた一人じゃ無理よ!」

「でもエレナは、治癒魔法しか使えないんでしょ?」

「うっ……」

「僕に任せといて。君に死なれたら困るから」

「え!?」

 ウソ!? もしかしてこれ告白? そんなネオ君って積極的だったの!? そんなストレートで言われたら私困っちゃう!

「王都への道のりの為に!」

 少しでも期待した私がバカだったわ……。

「キャキャッキャー」

 近くからゴブリンの気味悪い笑い声がした。もう、私たちの目と鼻の先にいる。エレナを襲ったゴブリンより一回り大きい。

「もうこんな所まで来たの!? でも、まだ一匹しかここに来てない。一匹ぐらいなら私でも……」

「いいから僕に任せて」

 ネオはその言葉を発すると同時に、腰に付けていた刀を構えた。ネオが構えてすぐゴブリンが叫びもがき苦しみ始めた。

「ギャー」

 叫びをあげたゴブリンは首を切られ魔石だけが残った。私には何が起きたのか全く分からなかった。

「……これが僕の魔法だよ」

「え?」

 今、私のことを一瞬睨んだような……。

「僕の魔法は、頭で考えたことが実現する魔法なんだ。例えば今僕はゴブリンの首を切るって考えた。そしたらそれが実現するんだ」

「そ、そんなの強すぎじゃない!」

「でも、なんでも出来るってわけじゃないよ。もちろん魔法を使う条件もある。この魔法は三秒以内に自分が出来る行動しか実現されない。例えば、『三秒以内に王都に着く』って頭で考えてもそれは実現しないんだ」

 今、ネオ君が倒したゴブリンとの距離は十メートルくらい離れてた。そして、ネオ君の魔法が実現したってことは、今ネオ君が立ってた場所から三秒以内でゴブリンを倒せたってことだよね? え、もしかしてネオ君ってそうとう凄い人?

「10秒で戻ってくるね」

「え?」

 あ、行っちゃった。10秒で戻って来るって、何か取りに行ったのかな……。それより今はここに居るみんなを守ることを考えないと。何か最善の策を考えないと、みんなの為に。

「ただいまー」

「おかえりどこ行ってた……」

 そこには血まみれのネオが立っていた。

「な、なにその血……」

「ゴブリンの返り血」

「もしかして今の短時間で倒してきたの!?」

「うん、一匹残らず片付けてきたよ。魔石は回収してないけど」

 なんでそんなに笑顔なのよ。カッコいいのに子供っぽい所もあって可愛いな。もっと、ネオ君のこと知ってみたいかも。

「じゃあ、王都に行こっか!」

「おう!」

「行くのは明日だけど」

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