第22話 退院と新生活のはじまり

 入院最終日となった。

 これで病院ともお別れだ。


 俺は身の回りの整理を行い、病室の掃除もした。ずいぶんとお世話になったし、これくらいはしないと。


 理早も手伝ってくれた。

 この前、一瞬姿が見えなくて心配したが、どうやら最後に体に異常がないか診てもらっていたようだ。問題はなく、退院してよいと医院長からお墨付きをもらった。


 これで、みんな揃って柑菜の家へ移住できるわけだ。



「海里くん、準備はいい?」

「ああ、俺も理早もカバンに荷物を詰めた。病室も綺麗になった」



 理早もちょうど荷物をまとめ終わっていた。



「私も完了した! 出発する~?」

「そうだな、理早」



 最後にもう一度だけ病室内を見まわした。

 思えば二ヶ月以上、お世話になった。

 ここでいろいろあった。

 結局、鈴さんは目を覚まさなかった。だが、見舞いに来る。何度も。



「よし、行こう。柑菜、理早」



 二人は俺の手を握ってくれる。

 挟まれるようにして歩きだす。



 ついに俺たちは病院を後にした――。



 ◆



 病院を去り、久しぶりに外へ出た。

 車が行き交う道路。

 街の喧騒。見知らぬ人々。


 天気があまりに良く、空気も澄んでいる。……まぶしい。こんなに、まぶしかったっけ。


 少し頭がクラクラする。

 頼むから不幸なことだけは起きないで欲しい。


 そう願いながらも、道を行く。



「ところで海里くん」

「なんだい、柑菜」

「お昼ごはんどうしよっか」

「あ~、そういえば、もうそんな時間だったな」



 ちょうどお昼に出たので、昼食を食べている暇がなかった。

 ならば、はじめて外食へ行くのもいいだろう。

 俺はずっと病院のマズい飯を食ってきた。

 うんざりしていたし、ようやく味の濃いものにありつけるわけだ。



「お兄ちゃん、ファミレスとかどう~?」



 理早がそう提案した。

 それが無難なんだ。

 俺の資金的にも。



「そうしよう。確かこの近くにファミレスがあったろ」

「うん」



 プランが決まったところで、まずは腹ごしらえだ。

 十分ほど歩き、見知ったファミレスへ向かった。

 学生にも優しい料金設定のファミレスだ。


 出入口で向かうと、なにやら張り紙がされていた。



「へ?」



 俺はつい、変な声が出てしまった。


 その張り紙の内容に驚いたからだ。



【当店は閉店しました】



 マジかよ!!



「うそー。ここ人気だったのに」



 柑菜も意外そうにしていた。

 人気のはずの店が潰れているとはなぁ……。この二ヶ月の間になにがあったんだよ。



 仕方なく、近くの牛丼チェーン店へ向かうことに。


 早くて安いと言えば牛丼屋。



「すまんな、理早」

「ううん、いいよいいよ。どこでも! ていうか、お店が潰れているとは思わなかったよ……」


 理早すらも想定外だったようだ。


 再び歩き、今度こそ牛丼屋へ。


 おし、到着。


 牛丼屋は問題なく営業しているようだ。


 さっそく中へ入ろうとするが……。



『――――キィイィィィィィィィッッ!!!!!!!』



 とんでもない音がして、車が突っ込んできた。



 ちょ、まて!!


 この光景はどこかで……!



 俺は思わず、柑菜と理早をかばう。


 なんとか回避すると、車は牛丼屋へ突っ込んでいった。



 とんでもない爆発音がして、ガラスが崩壊。

 あたり一面、爆撃を受けたかのように壁が崩落していた。


 車に乗っている老人は呆然としていた。


 あれはよくある、アクセルとブレーキを踏み間違えた……ってところだろう。まぁ、以前と同じだな。



「って、これじゃあお昼ごはん食べれないじゃん!」

「海里くん、それよりも警察と救急車!」


「そ、そうだな……」



 まったく、轢かれなかっただけいいが――やはり、不幸体質はあんまり改善されていないようだ。チクショウ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る