第21話 ギャルから素敵な贈り物

 カバンに荷物を積めていく。

 俺は別にミニマリストではないのだが、極端に荷物が少なかった。


 スマホに財布、着替えや歯ブラシ、タオルとか……教科書数冊と。


 あとは謎のゴム……と。



 ん……?



 なんだこの四角いモノは。

 つまんで見ると、それはココにあってはマズイものだった。


 まてまて!


 俺はコレを買った覚えもなければ、カバンに仕込んだ覚えもない!


 いったい、誰が……。


 病室内をキョロキョロと見渡すと、廊下の方で柑菜がこちらを見ていた。顔を赤くして、なにか期待しているような眼差し。


 ちょ、まさか!



「お、おい……柑菜」

「な、なんのことかなぁ……」



 明らかに動揺している。

 やっぱり、この不思議ゴムは柑菜が仕込んだものか!

 てか、なんで持っているんだよ。



「見つかったらマズいだろうが!」

「はじめて買ったから緊張しちゃった。ちなみに通販だよ」



 通販かよ!

 いつの間に買っていたんだ。

 そんな素振りまったくなかったのに。


「こ、これ……使う機会あるかな……」

「あるよ。わたしに使えばいいじゃん……」


「そんなストレートに!」


「…………い、いつかね」

「あ、ああ……いつかな」



 これ、確約!?

 それはそれで嬉しいけど、マジか。

 今日という日に感謝を――!


 いつか使うことを信じて、俺は不思議ゴムをカバンの中へ封印。

 直後、医院長が現れ、俺に声を掛けてきた。



「失礼するよ、岩谷くん」

「――!? い、医院長ォ!」

「どうしたんだい? 慌てて」

「いや、その……。柑菜と話をしていただけです! 本当です! 信じてください!」


「なんか怪しいね。まさか、もう結婚の話をしているんじゃないだろうね!?」


「ち、違いますって」



 柑菜からスぺシャルなゴムを渡されたとは……口が裂けても言えないな。知れたら、医院長はきっと激怒して俺を解剖しかねん。


 それだけは避けねば。



「分かった。いいだろう。それよりも、少し早いが退院おめでとう」

「ありがとうございます。でも、まだ二日ありますけどね」

「無事に治ったんだ。良かったよ」

「はい。不幸体質も少し改善された気がします」

「ああ、それなんだけど……今後も君を研究したい」

「俺、研究対象っすか」

「バイト代は弾むよ」

「ありがとうございます!!」


 お金が貰えるのなら、受ける方がいい。

 少しでも生活をよくするため、特に両親の為にもお金が必要だ。


 未だに父親も母親も入院生活。

 会えない状況が続いている。


 ならば、せめて支援だけでもしてやりたい。



「じゃ、また来るよ」

「はい、分かりました」



 医院長は爽やかな笑顔で去っていく。

 柑菜がこっちにやってきて、ベッドに腰掛けた。



「良かったね、海里くん」

「柑菜もありがと」

「ううん、わたしは何もしてないよ」


 ぎゅっと手を握ってくれる柑菜。

 身をこちらに預けてくる。

 良い匂いがして俺は、頭がぼうっとした。

 柑菜はいつだって寄り添ってくれる。


 こうしているだけで幸せすぎる。



「ところで、鈴さんはどうかな」

「う~ん、まだ容体に変化はないね。パパ曰く、しばらくは意識を取り戻さないかもって」

「そうか……」



 もし目を覚ましたら、俺は改めて謝りたい。

 今は帰ってくることを祈ろう。



 そういえば、理早の姿が見当たらないな。どこへ行ったんだ……?

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