第20話 妹と義理の妹

「理早……その」

「ん、どうしたの」


「いや~、その“ぎゅ~”と抱きついてくる感じ……懐かしいなって」


「顔を埋めて抱きつくの?」

「そう、それだよ。昔、妹もやってた」


 あまりに懐かしくて、涙が出そうになった。

 理早がそっくりで驚くばかりだ。


「……岬ちゃんだよね」

「え……」


岩谷いわたに みさきちゃん」


 まさかの名前が出てきて、俺は頭が真っ白になった。

 理早がなんで俺の妹の名前を知っているんだ……?


 いや、そもそも違和感があった。


 彼女は俺に会うために病院へ来ていたのだ。


 ……そうか、そうだったんだ。


 井中という名前にどこか覚えがあったんだ。彼女は一度だけ家に来たことがあった。


 そして、我が妹・岬と遊んでいた。


 だから微かに覚えがあったんだ……!



「理早、岬と友達だったんだな……」

「……はい。私は岬ちゃんと……とても仲が良かったんです。でも、彼女は――」



 涙を堪えて理早は、うつむく。

 そうか、ずっと辛かったんだ。


 理早は兄である俺に会うために……。


 そんなことも知らずに俺は……馬鹿だった。



「気づけなくてすまなかった」

「なんで謝るんですか」

「理早、君はそれで俺の妹って提案を……」

「別に代わりになりたいだとか、そういうことじゃないんです。岬ちゃんが言っていたんです。もし、なにかあったらお兄ちゃんをお願いねって」


 …………岬、そんなことを。

 そうだったんだ。

 いい友達に恵まれていたんだな、岬。



「ありがとう」

「いえいえ。私自身がお兄ちゃんに興味があったんです」

「俺なんか……不幸の権化だぞ」

「そんなことありません。お兄ちゃんは、私を救ってくれた。それだけで十分です」



 また優しく抱きしめてくれた。

 俺は救われた気がした。

 ずっと妹のことが気掛かりだったからだ。

 きっと妹は幸せだった。



「これからも一緒にいて欲しい」

「もちろんです! しかも、私の家族はおじいちゃんだけ。なので結構自由に動けるんですよ~」



 どうやら、理早も理早で複雑な家庭があるらしいようだな。

 両親不在とは……あんまり突っ込んだ質問は出来ないが。



「なるほど」

「両親は幼い頃に蒸発したそうです」

「んなっ!」


「いやー、子供の頃のことで覚えていないんで」

「ハッキリと言うね……理早」


「実は私、隠し事は苦手なタイプで」



 てへっと笑う理早。

 確かに、真っ直ぐというかウソも下手な感じだしな。



「そうか。おじいさんは大丈夫か?」

「ええ。バリバリの経営者なので、私はほとんど自由なんです」

「それでずっと俺たちに付き合えたのか」

「そんなところです!」


 これからも、理早は俺を支えてくれると言った。

 俺自身も理早を本当の妹のように迎えることにした。


 岬のことをこんなにも思ってくれた人がいたなんて、感激した。


 新居になっても関係を続けていきたい――。

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