第19話 新たな病院生活へ

 あれから二ヶ月か。

 思えばもうそんなに経ったんだ。

 柑菜は変わらず、俺の看病を続けてくれている。もう必要ないレベルに完治しているけど、俺は甘えていた。


 というか、柑菜が甘えさせたいと自ら望んでやってくれるので、お互いにWin-Winな関係だった。


 それに。


 気持ちは同じ。

 口はしないけど、とても距離感が近くて触れ合う日々。



「すっかり歩けるようになったね、海里くん」

「ん、ああ……そうだな。柑菜の看病のおかげだよ」

「どうしたの、浮かない顔して」

「……そろそろ退院だろ? この生活も終わりかなって」

「……かもね。パパに頼んでみているけど、さすがに渋ってる」


 もう二ヶ月にもなる。

 ほとんど健康状態な俺は、もう病院にいる理由なんてないんだ。かといって、わざとケガを負うのは違う。

 ここまで柑菜が必死になって看病してくれた。


 それを無駄にするなんて……俺にはできない。



「限界かなー」

「病院にこだわる必要ないんじゃないかな」

「つっても俺、住む家もないよ。火事で焼けっちゃったし」



 両親は未だに火事で受けた大ヤケドで入院中。未だに会えていない。多分もうしばらくは無理そうだ。皮膚移植だとか高度な治療を受けている。


 だから俺の出る幕もなければ、迷惑になるだけだった。



「大丈夫。実家を使ってよ」

「実家って、柑菜の?」

「うん、といっても結局病院だけどね」

「実家が病院? ここじゃなくて?」

「ここじゃないよ~。ママの病院なんだ」


「な、なんだって……!」


「ママも医者でねー。しかも歯医者さん」



 なんと!

 柑菜の母親も医者だったんだ。すごい家系だな。


 こんな大きな病院を構えるパパがいるのに、さらに母親も歯医者とは。



「でも、歯医者って入院できるっけ」

「入院じゃなくて、家の方に住むの」

「な、なるほど。本当にいいのか?」

「いいよ。わたしが許可する」



 柑菜は俺の手を握りながら言ってくれた。

 甘い匂いにい包まれ、抱きつかれていることに気づいた。

 そこまで言ってくれるのなら、お言葉に甘えよう。


「ありがとう、柑菜」

「うん。これでまだ続けられるね」


「ああ。……ところで理早はどうしよう」


「ああ、うん。理早ちゃんも招待しようかなと思う。ちょうど歯が痛いって言っていたから」


「虫歯かな?」

「そうかもね。痛いとは言っていたけど」



 じゃあ、丁度いいわけだ。

 となると理早も一緒に移住になりそうだ。

 まあいいだろう。

 理早も大切な仲間であり、義理の妹のだから。



 退院まであと三日。



 俺は早々に荷造りを開始した。

 そんな中、理早がベッドに上がり込んできた。



「ねえ、お兄ちゃん」

「どうした、理早」

「移住、するんだよね」

「そうだな。ていうか、理早は学校とか大丈夫なのか?」

「あ~、不登校だからいいのいいの」


「だめだろ」


「そういうお兄ちゃんも不登校じゃん」

「……そ、それは……そうだけど」


「ならいいでしょ?」

「仕方ないな」

「うん、ありがと!」



 理早は大胆にも身を俺に預けてくる。

 小さな頭が俺の膝の上に乗っかってきた。

 ふわふわで良い匂いで驚く。

 こうして、じゃれ合うと本当の兄妹のようだ。


 昔を思い出すな。本当の妹を……。


 って、まてよ。

 なんだろう、この懐かしさ。


 ……?


 理早のそれはまるで妹の仕草にソックリだった。な、なぜ……。

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