第18話 深夜のベッドで

 しばらくして病室へ戻った。

 怒られるかと思ったけど、柑菜も理早も顔を赤くするだけ。

 特に抗議はなかった。


 理早は漫画に集中しているようだし、あとで謝ろう。



「柑菜……さっきはすまない」

「さっき? ああ……いいよ」

「いいのかよ」

「うん。助けて貰ったお礼で」

「ほ、ほう」


 それはそれでありがたい。

 理早もきっとそんな感じで俺を許してくれているのだろう。……命拾いしたな。



「まだまだお礼し足りないくらいだよ」

「そうなのか?」

「そうだよ。だからね……」



 柑菜はさりげなく、近づいてきて……俺の股あたりに触れてくる。……ちょ、理早がいる前でこれは過激だ。

 けど、幸いにも理早は漫画に集中している。



「……そ、その」

「海里くん、今夜……する?」

「え……」


 耳元で言われ、俺は硬直した。

 ま、まさかのお誘い!?


「ほら、ちょっと前、夜にしてあげたみたいに」


 ああ、そっちか!

 いやそれでも嬉しいけどね。

 てか、あれはやっぱり夢じゃなかったんだ……!


 まずその事実に感動した。


 あの夜……柑菜は俺の息子を慰めてくれたんだ。


「な、なぜそこまでしてくれるんだ?」

「決まってるじゃん。好きだから……」

「マジか」

「うん、マジ」


 そのストレートな気持ちに俺は感激した。

 俺も柑菜が好きだ。


「ありがとう。この入院生活のおかげで人生変わったよ。俺も柑菜が好きだよ」


 自分からも気持ちを伝えた。

 今しかないと思ったからだ。


「よかった。断られたらどうしようかと」

「そんなことはないさ」


 ここでキスをしたいくらいだ。

 でも、理早がいるからな。また今度だ。



 ――深夜になり、ゴソゴソと音がした



 柑菜が俺のベッドに潜り込んできた。やがて、姿が見えてきた。



「海里くん。約束通り来た」

「シてくれるのか」

「うん、わたしに身を委ねて」

「分かった」



 ありがたいことに、柑菜は必死に俺を癒してくれた。

 俺は何度も何度も頭が真っ白になった。


 こんな生活が続けられるのなら、俺はずっと入院していたい……。



 ◆



 だが、そんな幸せな日々も終わり迎えようとしていた。

 入院期限が迫っていた。


 さすがに延長はもう出来そうにない。


 これ以上は他の人の迷惑にもなるだろうし、無理に伸ばせるとしても料金が掛かるという。


 柑菜の権限でも厳しいかもしれないという。



「そっか、無理か」

「ごめんね、海里くん」



 楽しみ過ぎたか。

 いや、十分に楽しんだ。


 これからは、普通の暮らしに戻るしかない。


 ……いや、それとも。

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