第16話 正当防衛

「二人とも、彼女は双子だ! 俺の隣にいる鈴さんが本物で、あっちは理奈さんで妹の方だ!」


 簡潔に説明すると、柑菜も理早も納得した。

 とりあえず、今はこれでいい。


 二人には動かないでもらい、俺は理奈さんの方へ向き直る。



「なによ、岩谷くん」

「……帰ってくれ」

「そうね。けど、そこの女は許せない」


 柑菜を睨む理奈さん。

 そうか。この前、頬を叩かれた恨みがあるんだ。

 俺は柑菜の前に立つ。


「やめろ!」

「岩谷くん、完全に油断したわね」


「なに!?」



 気づくと、あの男が立っていた。思ったよりタフだったか。

 そして、最悪な状況に陥った。



「……きゃ!!」



 柑菜が人質に取られてしまった。



「柑菜!!」

「おっと、近づくなよ、岩谷!」



 男はフラフラになりながらも、柑菜の頬にナイフを向ける。コイツ……!

 病院でこんなことをするとか最低だ。

 そんな状況に、鈴さんが妹に抗議する。


「ちょ、ちょっと……理奈! こんなの犯罪だよ!?」

「わたしが手を下すわけじゃないもん」

「そういう問題じゃないでしょ!」


「うるさいなあ。お姉は少し眠っていていよ」



 背中から何か取り出す理奈さん。

 なにかスマホのようなものを鈴さんの首にあてた。


 バチバチっと電気のような音がした。


 あ、あれは……スタンガン!


 鈴さんは、そのまま気絶して倒れた。



「ちょ、理奈さん! なんてことを!!」

「あははは! ざまあないわ!」



 理奈さんも、あの男もやりすぎだ!

 ここは病院なんだぞ!!


 このままでは大変なことになる。いや、すでになっている。


 こうなったら……俺がなんとかしないと!


 まずは柑菜を救出する。



「理早、お前はここから逃げて通報してくれ!」

「う、うん……!」



 理早に通報を任せたが、理奈さんが走って向かってくる。



「させるか! その女も気絶させてやる!」

「お、お兄ちゃん……助けて!」



 鬼の形相で向かってくる理奈さんに対し、俺はやむを得ず彼女の腕を掴んだ。

 護身術をヨーチューブで習っておいて良かったぜ。


 スタンガンを取り上げ、遠くへ投げた。



「くっ!!」

「理奈さん、あんたは最低だ!」


「岩谷くんのクセに……おまえなんか、おまえなんか……!」


「俺はもう昔の俺じゃない。弱い俺は捨てた」



 不幸な人生を変えてくれたのが柑菜だ。命の恩人を守らなきゃ……俺は一生後悔する。だから、俺とその身の回りを不幸にしようとするのなら容赦しない。


 一瞬で理奈さんの背後に回り、首筋に手刀を入れた。



『ドゴッ!!』



 鈍い音がして、理奈さんはガクンと脱力。



「…………かッ。そ、そんな……」



 床に倒れ、白目をむいていた。

 通信教育が役に立った。



 さて、次だ。



 0.5秒という極めて短時間で、俺は男の方へ移動し、瞬間で手刀を入れた。力強く、確実に。




『バコォッ!!』



 見事に命中し、男はワケも分からず倒れた。



「ぬわッ!?!?」




 理奈も男も気絶して倒れた。

 完全沈黙だ。



「え……海里くん、すごすぎ……ない」



 放心状態の柑菜。

 俺だってこんな上手くいくとは思わなかった。



「日々の鍛錬の賜物さ」

「いや、おかしいって……」



 やがて、警察がやってきて理奈さんと男を連行していった。俺たちは事情を話し、二人から暴行を受けたと打ち明けた。

 俺の正当防衛が認められ、とりあえず何とかなった。

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