第15話 危険な病室内

 急いで理奈を追いかける。

 けれど、今日は病院内は混雑していて人混みがある。

 くそっ……見失った!


 病室へ向かっているはずだ。


 柑菜に万が一があったら……困る!


 なんとか人の間を抜けて、廊下へ。

 走るとマズいので、小走りで向かう。


 ……よし、見えてきた。


 急いで病室に突撃すると――!



「なんだ、バレちゃったんだ」



 俺のベッドに腰掛ける理奈さんの姿があった。足を組み、男を床に座らせていた。



「君は、島田 理奈さん……なんだね」

「そうだよ、岩谷くん。よく気づいた? おバカさん」



 鋭い目つきで視線を送ってくる理奈さん。俺のことを完全に馬鹿にしているな。……そうだな、今まで俺を騙していたんだからな。

 さぞかし愉快だったろうよ。


 けどな、もう騙されないぞ。


 幸いにも、柑菜の姿はない。

 よかった、もし鉢合わせていたのなら戦争が勃発していたかもしれない。


 それだけは避けられて良かった。


 だが、まだ安心はできない。


 理奈さんの目的がまるで分からないからだ。

 俺をまた煽りにきたのか……それとも。



「なにしに来た」

「なにしにって、そんなの分かってるでしょ。岩谷くんとお姉をハメるためだよ」


「なに……?」


「この前、あの看護師の女がうざくってさ~。仕返しに来たんだよね」

「おまえ!」



 俺が吼えると理奈は、床に正座する男を足蹴りした。



「ほら、クソブタ! 岩谷くんをボコッちゃいなさいよ!」

「……わ、分かった。だから蹴るな」

「わたしに口答えしてんじゃないわよ、クソブタが!」



 ガラリと性格が変わる理奈さん。そうか、これが彼女の正体。本性なんだ。

 男はノロリと立ち上がり、俺の方へ向かってくる。



「悪いな、岩谷。俺は理奈の忠実なる下僕しもべ。そういう契約なんだ」

「そうかよ。だから暴力で解決する気か!」

「ああ、悪いな。これでも俺は柔道を習っている」


「こっちは腕立て、腹筋、背筋を一日百回はやってる。あと空手の通信教育だ」


「そうか、その程度か!」



 病室内だというのに、男は俺につかみかかってきた。

 なんてマナーの悪い。


 だが、攻撃された以上は防御はしないと!


 腕をクロスさせ、俺は男の攻撃をガード。

 見事に防ぎ切った。



「どうだ……!」

「上手く防御したからって調子に乗るな、岩谷!」



 今度はタックルしてくる。寝技にもってくる気か……! ここで落とされるわけにはいかない。俺は後退していく。


 廊下へ出てしまえば、コイツでもさすがに暴行はできまい。



「人がいるぞ!!」

「……くっ、しまった!!」



 男は焦って体勢を立て直す。

 だが、もう遅かった。


 バランスを崩した男は、そのままコケて俺の方へ向かってくる。俺は緊急回避。

 男は壁に激突した。



『ドゴォ!!』



 物凄い音がしてヤツは倒れて、伸びていた。

 自滅したか。


 白目をむいて倒れてる。たいしたことなかったな。

 ここが病院で良かったな。


 俺は病室へ戻った。


 理奈さんが不服そうに足を組んでいた。



「――チッ。使えない雑魚ね」

「理奈さん、その姿を姉の鈴さんに帰すんだ! 俺はもう君に興味がない」


「こっちだってお断りよ。お姉を不幸に叩き落としてやろうと思っていたんだけどね。残念、上手くいかないものね!」



 そんなに姉を恨んでいるのか。

 なぜだ。なぜそこまで憎しみを抱く?


 次にどう行動するか考えていると、柑菜さんと理早が戻ってきた。二人してどこかへ行っていたんだな。



「ただいま~」

「戻ったよ、お兄ちゃん。って、なにこれー!?」



 まずい。

 これをどう説明しようか。



「柑菜、理早……こっちへ来るな!」



「け、けど……え! 島田さんが二人!?」

「わ、ドッペルゲンガー!?」



 二人とも目を白黒させた。

 そりゃ、事情が分からない柑奈と理早からすれば大事だわな。いや、すでに大事件だ。……さて、どうする。

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