第14話 勘違い

「証拠を持ってきた」



 島田さんはそう言いながらも、俺の手を握ってきた。

 どこかへ連れ出すつもりらしい。



「ま、まってくれ。ここじゃダメなのか?」

「外へ行けば分かる」

「外? なんで外なのさ」

「いいから」



 強制連行され、俺は戸惑った。

 仕方ない、島田さんの証拠とやらを見せてもらおう。

 それで誤解が解けても今の関係は変わらないと思うけどなぁ……。


 渋々外へ向かう。


 島田さんは途中で足を止めた。



「どこに証拠があるんだ?」

「すぐ分かる」

「ん~?」


 物陰に隠れ、様子を伺う。

 まるで誰かを待っているかのように。


 いったい、誰を待っているんだ?


 すると、二人の人物が現れ……俺は驚いた。


 ま、まて……。


 なぜそこに“島田”さんがいるんだ……!?



 は?



 今ここにいるのも島田さんだ。

 そっくりさん?


「どう、分かったでしょ」

「あの男と一緒にいる島田さんは……いったい……」

「そっくりでしょ」

「だから誰なんだ」

「双子の妹よ」


「い、妹!?」



 そ、そうか……双子の妹だったんだ。

 だから、ソックリで……。



「そ。たまに入れ替わっていたの」

「なんだって!?」

「妹の名前は、理奈りな。モデルをやってるの。かなり人気よ」

「モデルか……」


「そ。息抜きがしたいっていうから、わたしの姿を貸したの。理奈は、もともと黒髪でとても大人しい子だった。でも、わたしの姿を貸してから……態度が急変してしまった。複数の男と関係を持ち、やりたい放題」


「マジかよ。それが本当なら……いや本当なんだろうけど、ヤバすぎないか」


「だからね、わたしは岩谷くんと仲良くなって……本気で好きになったから、付き合おうかなって思ってた。でも、理奈は違った」



 つまり、あの時……教室で茂木くんとシていたのは、妹の理奈の方だったというわけか。前に病院を訪れてきたのも理奈の方。


 今目の前にいるのも理奈というわけか。



「俺を毛嫌いしていたわけか」

「理奈は、岩谷くんをイジメ倒してやるって言っていた。わたしは何度も止めようとしたけど、後手に回ってばかりだった……」



 どうやら、理奈の方が頭の回転も速く、行動も先をいっているらしい。それで、島田さん――いや、まぎらわしいので鈴さん、だな。

 彼女は俺に真実を告げられず、俺は勝手に事故って、勝手に入院して……今に至るわけだ。



 勘違い・・・……だったのか。



 でも、でも……。

 そんな、それだったら俺は……なんの為に。



「ごめん……俺はなんてことを」

「信じてくれればいいの。わたし、岩谷くんを病院から連れ出したかった」


「どういうこと?」


「ずっと心配だったし、もっといろいろ話もしたかった。……だって、好きだから……」


 耳まで真っ赤にする鈴さん。

 そんな風にストレートに告白されるだなんて、思いもしなかった。


 初恋相手なだけに、俺は……頭がどうかなりそうだった。


 どうしよう……。

 どうすればいいんだ……。



「わ、分かった。気持ちは分かった。とりあえず、あの妹さん……理奈さんを止めた方がいいよな」

「そうだね。多分、次はもっとヒドイことになると思うから」


「……! となると、柑菜が危ない!」

「柑菜? 誰?」



 そっか、鈴さんは会ったことないんだ。

 今まで会っていたのは妹の理奈の方。



「いろいろあって世話してもらっているんだ」

「へ、へえ……いきなり恋のライバル出現かな……」

「そ、そうかもね。とにかく病室へ急ごう」



 幸先が思いやられるが、今は理奈を止めねば!

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