第13話 三人の生活

 病室内には、両手両足複雑骨折(治りかけ)した俺。

 目の病気らしい看護師の柑菜。

 それに、後輩にして義妹となった理早。


 三人の生活がスタートした。


 女子高生に囲まれる入院生活とか、想定していなかった。


 柑菜の相手だけでもドキドキするというのに、アイドル級の理早も登場。これからどうなってしまうんだ……?


 期待と不安が渦巻く中、俺はいつも通り柑菜に世話されることに。



「はい、あ~ん」

「――ん」



 病院の飯は相変わらずマズイ。

 どうして味が薄いんだろうね。

 まるで味のないガムでも噛んでいる気分だ。

 でも、タダ飯だ。

 残さず食べさせてもらう。



「お、お兄ちゃんっていつも柑菜さんから、そんな世話してもらってるの……!?」

「恥ずかしながら、これが俺の日常だ」

「なんだか凄いね。余計に燃えてきたよ」


 どういう意味だよ、それ。


「はい、海里くん。食べて」

「ありがとう、柑菜」


 味が薄くても、柑菜から食べさせてもらえるだけで幸せ。愛という味を噛みしめていく。ん~、最高だ。


 そんな和やかな空気の中、医院長がやってきた。



「……コホン。おやおや、岩谷くん。娘とよろしくやっとるようだね。だが、入院初日の患者さんを前に……恥ずかしくないのかな」


「めちゃくちゃ恥ずかしいです……。でも、柑菜やめてくれなくて……」


 俺は一応拒否ったんだ。

 でも、柑菜押し切ってきたから無理だった。

 彼女はどうしても、俺にあ~んをしたいらしい。

 ありがたいけどね!


「邪魔しないで、パパ」

「う、うむぅ……しかしだな」

「もうパパって呼ばない」


「分かった!! 好きにしなさい!!」


 切り替え早ぇなオイ。

 医院長はパパと呼ばれたいのか、あとは任せたよと言って出て行った。なんだかな~。


 食事を終えた。



 外は日が落ち、すっかり夜。

 柑菜は、理早を連れてお風呂へ行ってしまった。

 さすがにここで体を拭くわけにはいかないか。

 それに理早は軽傷だった。

 きちんとした風呂に入りたいわけだ。


 俺はその間、プリペイド式のテレビカードを買いにいく。

 病院ってなんでテレビが有料なんだろうなぁ……。


 廊下を歩いていく。


 老人や子供とすれ違い、まだ活気のある空気に俺は安堵した。一度だけ深夜の病院を歩いた時は肝試しだったからだ。

 静寂だけの病院は、それはそれは恐ろしい。恐怖心に支配される。


 さて、テレビカードを買うか。


 お金を入れようとすると、声を掛けられた。



「――岩谷くん」



 それはまるで幽霊なみたいな声で、俺はドキッとした。



 だ、誰だ……?



「えっと……」

「ここにいたんだね、岩谷くん」


「え……島田さん……」



 そこにはかつての憧れ、島田さんが立っていた。

 証拠を持ってきたのだろうか……?

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