第9話 入院生活、一ヶ月延長!
「島田さんのなにを信じていいか分からない」
「……そ、それは。……そっか、分かった。証明すればいいんだね」
「……え?」
なぜか島田さんは背を向けた。
帰るらしいが、どこか様子がおかしい。
決心したような表情というか、ちょっと怖いな。
しかし、なにを“証明”する気なのだろうか?
もう今の状態で信頼を取り戻すとか無理な気がする。
それに、俺の気持ちはもう……。
そう思っていると、島田さんは走って行った。
「……良かったの?」
ちょっと気まずそうに柑菜が聞いてきた。
「ああ……柑菜の方が大切だからね」
「ありがとう」
嬉しそうに抱きついてくる柑菜。
これでいいんだ。これで。
◆
入院生活はまだまだ続く。
いつものように、のびのびしていると久しぶりに医院長がやってきた。
「気分どうかな、岩谷くん」
「ありがとうございます。だいぶよくなりました」
「そうか。このままなら退院だね」
「それなんですけど、延長って……」
恐らく、柑菜も交渉してくれているはず。
どうなるか分からないけど、一か八かだ。
「あぁ、柑菜から聞かされているよ。二人の時間が欲しいんだね」
「そうなんです。それに俺、まだ学校には戻りたくありません……」
「でもいいのかい。成績に響くと思うけど」
「それは安心してください。柑菜に教えてもらっていますから」
「なるほど、専属の先生がいるわけだ」
妙に嬉しそうに医院長は笑う。
なんだろう、普通そこは大切な娘とは居させたくない! みたいな感じになるかと思ったけど、意外と寛容らしい。
「で……どうでしょうか」
「仕方ないね。柑菜からも頼まれているし、なにより、私自身も岩谷くんのことがまだ心配でね」
「そ、そうなんですか?」
「聞いたよ。君は不幸体質があると」
「はい……昔からそうなんです。でも、柑菜といると不思議と幸せで」
入院してからは、ほとんど不幸はない。
むしろ幸せばかりで、本当に良いのかと思ってしまうほどだ。
でも、おかげで毎日が最高に楽しい。
「なるほど、その不幸体質とやら……少し興味がある」
「医者で治せるものなんです?」
「病気ではないと思うから治せないだろうけど、でも、柑菜といて緩和されているのなら、なにかあるのかもね」
「医院長、ぜひ解明をお願いします」
「興味本位でよければね」
「それでいいので」
「分かった。とりあえず、入院は延長しよう」
「マジですか!」
「ああ。ただし、伸ばせて一ヶ月が限界だろう」
「十分すぎです!」
もう一ヶ月いられるとか、なんてありがたい!
普通、医療費だって取られてもおかしくない。
だけど、柑菜が気を利かせてくれて、医療費もタダだ。
これでまだ一緒にいられるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます