第6話 中学時代の事件 Side:清水

【清水 柑菜 視点・中学時代】


「清水……お前は地味で大人しいよな」


 放課後になって担任の吉川先生に呼び止められた。

 また……なんだ。

 わたしは気弱で、頼まれたら断れないタイプ。

 話を聞くしかなかった。


「なんでしょう……」

「先生の言うことを聞けるよな……?」

「その…………はい」


 先生はわたしの頭とか体、足を撫でるように触れてきた。

 ……気持ち悪い。

 でも耐えるしかなかった。

 進路相談に乗らないとか、成績に響くだとか脅されているから……。


 必死に耐えていると、先生は鼻息を荒くしてわたしのスカートの中に手を忍ばせてこようとする。


「いいよな……?」

「や、やめてください……!」


 わたしは思わず離れる。

 吉川先生は目を吊り上げ、ムッとした表情で迫ってくる。……怖い。


「おい、清水。お前、この俺に逆らうっていうのか」

「……でも。先生……わたしは生徒で……」


「だまれっ!!」


 頬を叩かれた。

 痛くて痛くてたまらなかった。

 涙が出た。


「…………せ、せんせい」

「これ以上は言わせるな、清水。いいから黙ってヤらせろや」


「…………はい」


 震えが止まらなかった。

 怖くて従うしかなかった。


「じゃあ、まずは土下座しろ」

「え…………」

「全裸土下座だよ。やったら許してやる」

「そ、そんな……」

「早くしろ。それとスマホで撮影する」

「……でも」

「あ……? また殴られたいのか?」


 ……わたしは素直にうなずいた。

 ブラウスのボタンを外していく。

 なんでこんなことに……。


 けれど、ここで反抗すれば先生はきっと怒り狂って乱暴をしてくる。


 もうこうするしかないんだ……。

 はじめては好きな人にあげたかった。


 恐怖に怯えながら、わたしはボタンを外していく。



 誰か……誰もいいから……助けて。



 こんな放課後の誰もいない時間では……絶望的。それでも、わたしは願った。



 そんな時だった。



 教室の扉が急に開いて、複数の先生たちが突撃するように入ってきた。



「吉川先生、なにやってんだ!!」「おまえ、生徒に手を出しているのか!!」「性犯罪の現場だ」「まさか吉川先生がこんなことを……」「岩谷の言ったことは本当だったのかよ」「信じられないが、これはもうダメだ」



 え……今、岩谷くんって。


 聞き覚えのある苗字。記憶を呼び起こしている最中、やってきた先生たちが吉川先生を取り押さえた。



「くそおおおおおおおおおお!! やめろ!!」

「暴れるな、吉川先生! アンタは生徒に手を出した犯罪者だ!!」


「……ぐっ! 岩谷が呼んだのか……」



 廊下には岩谷くんの姿があった。

 やっぱり呼んで来てくれたんだ。

 誰も助けてくれないと思ったけれど、彼だけは気づいてくれた。


 嬉しくて涙があふれ出た。



 お礼を言おうと思ったけど、岩谷くんは手だけ振って去っていく。



 偶然でもなんでも嬉しかった。

 ただただお礼を言いたい。



 その後、吉川先生は逮捕・起訴された。

 学校に顔を出すことはなくなり、わたしは脅されることもなくなった。


 岩谷くんにお礼を言おうとしても、彼は“不幸”によって、しばらく学校に来れなくなってしまった。……そういえば、岩谷くんは運が悪いと有名だ。


 いつかお礼とこの気持ちを伝えたい。


 あなたこそ救いのヒーローであると。


 好きだという気持ちを――。

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