一つの真実

 老婦人に化けたアリア姫を、ケサムはとても丁寧に扱ってくれた。

 ふわふわの美味しい紅茶ラテを出してくれた。

「美味しいわ」

「それわよかった」

 ケサムは目を深く閉じ、微笑んだ。その表情は何かをアリア姫に期待している目だった。

 アリア姫はその顔を見ると申し訳ない気持ちになり、目を伏せた。

 すると、ケサムも気持ちを察し、同じように目を伏せた。

「す、すいません」

 アリア姫は絞り出すような声でいった。懸命にしわがれた声音を気を付けてだしながら。

「じ、じつは。アリシアは母方の親戚なだけで、今日はこの国に来る用事がありまして、立ち寄っただけなんです」

「そっ‥‥‥そうでしたか」

 ケサムは、そんなわけないだろと、言いたげだったのをぐっと堪えた。

 老人に化けたマグマを挟んで長く思い10分間の沈黙が出来る。

「それでえ、アナタはアリシアさんとどういうご関係で?」

「わたしは、アリシアの夫です」

 なにをいまさらと言うように、ケサムはマグマを睨みつけた。 

 アリア姫に対してより、幾分扱いが雑だ。

「い、いつ頃、ご結婚なさってたんですか?」

 アリア姫がぎこちなく聞くと、ケサムは悲しそうな顔をしてから話し出した。

「十八年前です。彼女は王宮に仕えていて、王様のお気に入りのお皿を割ってしまい、追い出されて、実家に戻っても家族の恥になるし、行くところがないとわたしに言っていました」

「そ、そうでしたか」

「その前も、なんどか街で会っていたんです。彼女が王宮を追い出されたのをきっかけに一緒に住むようになって、そしてプロポーズしました。彼女は何故か行方をくらませてしまい。それで結婚生活は一年ほどでしたが、とても幸せでしたし、今でも彼女を思っています」

 ケサムがアリア姫の後ろの壁を見ていることに気が付いた。

 その壁には、牛乳をボールでかき回す女性が描かれていた。

 アリア姫は驚いた。その絵の中の女性が紛れもなく自分の母親の顔をしていて、そしてアリア姫が見たこともない顔で幸せそうにしていたからだ。

 マグマも同じように壁を見上げ、そしてアリア姫のことが心底心配になった。

「妻よ、もう時間だ行こう」

 マグマはしわがれた声を出し、強引にアリア姫の腕を掴んで引き上げた。

 半分放心状態のアリア姫はぼんやりしたまま、マグマに外まで連れていかれた。

「待ってください!いったいアナタたちはどこの商人なんですか?」

 ケサムが叫ぶ前に、マグマはアリアを抱いたまま、ケサムのラクダに乗っていた。

「聞かない方が良いさ!」

 マグマはにやりと笑って、親指で首の前に一本戦を引いた。

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