王子アグニ

 アリア姫が、老婦人に化けたまま気絶してしまっていた頃。


 王宮では、アリア姫に化けたアスニと、隣国のドアドルの13番目の王子、アグニ王子が船や建築の話しに花を咲かせながら、王宮内の庭を歩いていた。


 「なるほど、しなる木を床下に使うのですね」

 アスニは大工の娘。大工の作業だけでなく、依頼主の要望を聞くための聞き方の姿勢も心得ている。


 アグニ王子はアスニの興味津々な話しの聞き方がとても嬉しかった。

「アリア様は、本当に話しの理解がお早いですね」

「いえ、以前から海に浮く、船の構造には、とても興味があったので」

「そうでしたか、最後までうちの国の自慢の船に乗っていただけなかったのは本当に残念です」

「‥‥‥そうですね」

 アスニは、きっとアリア姫だけでなく、自分もその船に乗ることは無いのだろうと思い、本気でがっかりした。

 その様子を見たアグニ王子が立ち止まり、アリア姫に化けたアスニのベールから覗いた目を凝視する。

 アスニは、変装がバレてしまうのと、イケメン王子が顔を近づけてきたのとで心拍数がどんどん早くなった。

「もし、良かったら本当に乗りに来ませんか?」

 こっそりアスニの耳に聞こえる声でアグニは言った。

 真っ直ぐ目と目で見つめある。

 後ろでは、侍女頭のサーサと、アグニの執事が二人の様子を三十歩くらい下がったところから見守っていた。

「どうやって?」

 アスニが尋ねると、アグニ王子はにっこり笑って、アスニの手を取って走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る