結婚祝い

 訪れた隣国の王子は、可愛らしいベビーフェイスで、にこやかに王宮の門の内側に立っていた。

 12名の兵と、執事ひとりだけを従え、軽装だ。

 入り口正面の階段の上に立った姫のふりをしたアニスを見上げ、恭しく頭を下げる。

「隣国のドアドルの13番目のご子息様です」

 サーサがアニスの横で耳打ちした。

 アニスは初めて見る王子様(しかもイケメン)に度肝を抜かれ、言葉を失っていた。

「アリア姫様、急なご婚姻がお決まりになったと聞いて、はせ参じました。末弟のわたくしのみの急な来訪、どうぞお許しください」

 アニスはサーサに肩を肩で叩かれた。

「ああ、ああ、いえ。わたくしも、自分が遠方の片と結婚するなんて、寝耳に水だったということですわ?」

 アニスは、どう話したら良いか分からず、最後は言葉をうやむやに濁した。

「‥‥‥そうですか、それは。王族としては仕方ないとはいえ、ご不安もあるでしょう」

 アニスは王子の目を真っ直ぐ見て、ああこの人は本当に心を込めて心配してくれているのだと感じ取った。

「わたくしたちは、生まれて数回しかお会いしたことはなく、仕える国も民も別々です。ですが、立場の似た人間として、健康の幸運を切実に願っております」

 アニスは胸の奥が熱くなるのを感じた。

「それで、今回は、遠方へ経たれる前に、あるものをお持ちしました」

 王子がそういうと、ひとりの従者が箱を持って出てきて、また別の従者がその箱を開けた。

「わあ!」

 アニスは思わず、姫に化けていることを忘れて、感嘆の声を上げた。

「喜んで頂けましたか? 船の模型です。小さいころ、アリア様が船を見たことがないと言われていたのを思い出して‥‥‥」

 アニスは、王子が言い終わる前に、スカートの裾を持ち上げ、鹿のような速さで階段をかけ降り、船の模型を両手に抱いた。

 アニスは、大工の娘として、大工の仕事に誇りを持っていた。なので自分が見たことのない海の、見たことのない船の模型に釘付けになった。

 王子は、姫の行動に一瞬驚くも、彼女の喜びように満足しながら頷いた。

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