来訪者

 姫の身代わりとして、姫の部屋でドレスアップされたアニスは、今いる状況に慌てず冷静に対処していた。

 その態度が周りには本物のお姫様らしく見えて頼もしく思えた。

「アニス様、とても様になっていますが、仁王立ちはおやめください」

「ごめん、大工の仕事の癖だ」

「今日、都合の良いことに、王は頭痛が酷く、一日お部屋で寝ていると言われてます」

「それ、都合良いとか言っていいのかな?」

 アニスはサーサの笑顔を目の前に首を傾げたが、それよりも、王宮の内装建築に興味があった。

「綺麗な作り。これがもう何百年も前に建てられたなんて、感動の極みだわ」

「そうですね。お手洗いは三十年前のままですよ」

「‥‥‥それは工事した方が良いかな」

 アニスは口端を上げ、微妙な笑みを浮かべた。

「大変です! サーサ!」

 ひとりの侍女が侍女頭のサーサを呼んだ。サーサの母親くらいの年齢の侍女だ。

「とっと、隣の国の王子が突然、お忍びでいらっしゃいました!」

「なんですって?」

「え? どうすんの?」

 アスニは不味いことになったと直ぐに分かった。

「王様は、一日出てこないと言ったら、本当に出てこないでしょうし‥‥‥」

「ええ、もう王様にはお伝えしたんですが、どうしても頭痛が酷くて出れないと」

「では、アリア姫様に出てもらうしかありません」

 アスニはそれを聞いて血相を変えた。

「ちょっと待ってよ! お姫様は体調不良で顔を出せないことにするんじゃなかったの?」

「大丈夫です。隣国の王子は数年前に姫に会ったきりで、顔なんてきっと覚えていませんよ」

 サーサは明るい笑顔で笑ったが、なんとなく圧をかけられてるように、アスニは感じた。

「賃金は弾みますから」

「わかった」

 アスニの目に輝きが戻った。

「きっと、顔にベールをかけておけば大丈夫だよね」

 アスニが前向きな算段をして、両腕に力を籠め、拳を握った。

「良いですね! それでアイメイクを濃い目にしましょう」

 サーサはさっさと準備を始めた。

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