錬金術師のケサム

 老夫婦に化けたマグマとアリア姫が去った後、宝石店テントに、散歩から帰ってきた40代の男性の姿があった。

「天才錬金術師ケサム様、また良い感じの商品を作ったのかい?」

 宝石店の店主がケサムと呼んだ男性を、軽く労う。

「おや、あの指輪売れたのか?」

 ケサムは渋くてよく響く声だ。

 もじゃもじゃの髭と、ターバンからはみ出す天然パーマが特徴的だ。

 商店の机の上を見まわして、マグマがアリア姫に買った指輪が本当にもうそこにないことを、視線で机を這うようにして確認する。

 ケサムは寝不足なのか、目の下が青く、顔がどんよりして見える。

 肩には、商品のはみ出した袋を担いでいた。

 この宝石店の商品は、ケサムが作っている。

「ああ、商人の老夫婦が買ってたよ。自分の持ってた指輪に似てるって言って」

「なんだって?」


 ケサムは目を見開き、商店の広がる当たりを見まわした。

「その夫妻は、一体何処へ行った?」

「さあ、何処だろう。ここへ来たのが奥様は初めて見たいだったから、何処か観光してるんじゃないかな?」

「どんな服を着ていたんだ?」

「臙脂の服と紺の服だよ。ったく、なに慌ててんだ?」

「あの指輪にそっくりなのを持ってるのは、私のいなくなった妻だけだ。その人を探さないと」

 ケサムは肩に担いだ荷物を、店の端に投げておくと、店の後ろに乗せたロバに乗って、急いで大通りに向かった。

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