身代わり

 アリア姫の部屋に入った爺やは、顔を真っ青にした。

「姫様がいない!」

「きっとまた城の何処かに隠れていらっしゃるんですわ」

 侍女頭のサーサが言った。

「探せ!探せ!」

 しかし、アリア姫は何処にもいなかった。

 それもそのはずだ、マグマと外に出て行ってしまったのだから。

「ああ、どうしましょう。王が部屋から出てこられました」

 侍女のひとりがスカートを抱え、走ってアリア姫の部屋の前で王の近況を話した。

「しかも、すこぶる機嫌の悪いご様子です」

「あーあ、参った」

 爺やは顔を手で覆ってから、アスニの方に顔を向けた。

「娘、姫様と同じくらいの背恰好だな」

「そ、そうなんですか?」

 父のモバウは咄嗟に娘の手を取った。

「‥‥‥こいつは凄いお転婆で、手が付けられない厄介者です」

「父さん、それ酷くない?」

「まさに、姫様にそっくりだな」

 爺やは片手を宙でひらひらさせてから、手を顎に当て、まじまじとアニスを見た。

「姫様の服を着て、姫様のふりをしてくれないか?」

「コイツには無理です」

 モバウが言うと、アニスがムスッと顔を歪めた。

「アタシ、やる」

「それでは早速、お風呂の準備から」

「で、でも顔はどうするんですか?」

 モバウが両手を広げて抗議した。

「体調を悪くされて、伏せってることにすれば大丈夫だろう。風邪がうつらないようにと、距離を取ってもらう」

「距離を取るなら、アスニを身代わりにすることはないのでは?」

 モバウは再度両手を広げ、地団太を踏んで抗議した。

「父さん、アタシやる。支払いはいかほどなの?」

「賢い娘だ。そういうところも、姫様に似ている」

 爺やは嬉しそうに、にっこり微笑んで、両手の指を胸の前で合わせた。

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