大工と大工の娘

 マグマとアリア姫がティー・ファニーで朝食を取っている頃、城の修繕補習を長年務める大工のモバウが、爺やにドアの修理と、姫の安否確認を頼まれ、娘のアスニと一緒に王宮に訪れていた。

「なんでこんなに屈強な兵士が揃っていて、壁くらい登れないんだ」

 モバウは率直に話すタイプの老人だった。

 娘のアスニが、正直すぎる父の後ろで、申し訳なさそうに身を縮める。

「兵士は、戦う者であって、軽業師じゃない」

「落ちたら死んじゃう」

「やれやれ」

 モバウは呆れた顔をしてから、梯子を壁に掛け、少し上ってから、ロープを姫の部屋のバルコイニーに向かって投げ結わいた。

「父さん、わたしはドアノブの方を直してくるね」

「ああ、任せたよ」

 娘のアスニも、モバウにはまだまだ適わないが、良い腕の大工だった。

 アスニは姫の侍女頭のサーサに案内されて、内側から姫の部屋へ案内された。

 モバウの手際の良さと、技の華麗さに、兵たちが感嘆の声を上げる。

 モバウはそれを気にする様子もなく、ごつごつした手でロープを伝い、上に向かった。

 モバウはバルコニーに入り、工具で窓を外から開けると、二回ノックをして姫の返事を待った。

 しかし、なんの返答もない。

 モバウは仕方なく、遠慮がちに窓を開き、中へ入った。

「おかしい、人の気配がない」

 モバウはなにかおかしなことが起こっていると気が付き、身を屈めて当たりを見まわした。

 しかし、姫の部屋の中には、姫本人も、姫以外の人物も誰一人いなかった。

 モバウは自分が厄介ごとに巻き込まれたと、ひとり床を見て落ち込んだ。

 モバウが頭を片手で押さえたその時、がちゃがちゃがちゃと音が響いた。

「直った」

 ドアからアスニが入ってきた。

 後ろには、神妙な顔で姫を心配する侍女頭も一緒だ。

 モバウは二人の顔を見て、もう駄目だこりゃと心で愚痴った。

「姫様がいない!」

 叫んだサーサが、顔に手を当てて、いた場所でバタンと倒れた。

 

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