ティ・ファニーで朝食を

 マグマはアリア姫がとても嬉しそうに微笑むので、朝食はなにか特別なモノを食べさせてあげたいと思った。

 なので、衣服の商人から、真新しい臙脂と紺の服を買い、ペンシルで顔にシワを描くと、髪はターバンで隠し、眉毛だけ白粉で白く塗る。

 マグマはアリアと一緒に、中流階級の商人の老夫妻の変装をした。

 

 二人は完璧な変装で、城下町の人気レストラン。ティー・ファニーで朝食を取ることにした。

 二人分の日替わりカレーのオーダーを、目の前でメモする店員に、メニューを広げて、アリア姫が興味深そうに聞いた。

「ねえ、メニュー表があるってことは、毎日この値段なの? 食べ物の出荷量や値段は変わるのに?」

 朝勤務で眠そうな店員は、目を点にした。

「そんな、当たり前のこと聞くなんて馬鹿じゃないか」

 去り際の、店員の独り言が、アリア姫の耳に入ってしまった。

 アリア姫は目を丸くして、手からメニューを落とす。

「あー、あはは悪気はないと思うよ? 多分」

「馬鹿? 馬鹿って言われたわ。私、歴史の先生にも、数学の先生にも覚えが早いって褒められたのに」

 アリアの目が顎と一緒に右往左往する。

「ほらほら、落ち着いて、俺たち今、おじいちゃん、おばあちゃんだろ?」

 しかし、アリア姫の耳にはマグマの言葉は入っていかないようだ。

「はあっ、やっぱり私はお姫様だから、先生たちも気を使って褒めていてくれただけなのね」

「ちょっと、ちょっと、聞かれるよ」

 マグマが両手をアリアの前で上下させながら周りを見渡した。

 どうやら周りの客は自分たちの食事や会話に夢中で、アリア姫の話しは聞いていないようだ。

「はあああああああああああ‥‥‥」

 アリア姫は、両手をテーブルについて突っ伏した。

 マグマの口端の右が、いびつに歪んで笑う。

「どうか、しました?」

 さっきと違う、中年の元気そうな女性が、二人分のカレーセットをトレーに乗せた状態でやってきて尋ねた。

「ああ、なんでもない」

 マグマは咄嗟に、自分の声を低くして、シワがらせた音で話した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る