すきもん

 マグマとアリア姫は朝一の市場に言って、商人たちが夜明け前に城壁内に荷を運び、早朝に競りを始めるのを見た。

 マグマは、中年の男性に、アリア姫は少年の姿に扮装した。

「モノの値段と言うものは毎日変わるものなのね」

 アリア姫は、商人が手を上げて競って買値を叫ぶのを見て楽しそうにしていた。

「そうだね。物事には流行り廃りがあるから」

 マグマはアリア姫が何故そんなに競りを楽しそうに見ているのか分からないので、取り合えず馬鹿だと思われないように、わかったようなことを言っておいた。

「わたしね、経済に興味があるの、人々が豊かに暮らすには、やっぱりお金は大切でしょ?」

「じゃあ、全員をお金持ちにすれば?」

「それは、‥‥‥どうかしらね。お金があっても立場があったら買い物も難しいのよ? 決まったところからしか買えなくて、自分で選んだり出来ないの」

「‥‥‥それは、不自由だね」

 わかりもしないのに、同情することも出来なくて、マグマはただ、アリア姫の横顔を眺めることしか出来なかった。


「500ドエ!」

「700ドエ!」

 競りをする人々の声にやたら熱がこもっているのが聞こえ、マグマとアリア姫はそちらの競りに引き寄せられた。

「あの、二股の人参は、どうしてあんなに値段が上がっているの?」

 アリア姫が神妙な顔で聞くので、マグマはどう答えていいか分からず、唇を歪めた。

「あー、あーーー、あー。アレは、縁起が良いんだよ! 二股人参は、持っていると子どもが出来やすくなるんだ」

「まあ、そうなの? じゃあ、侍女のマテレに買っていこうかしら」

 アリアはそう言って、マグマが静止する前に、競りの一番前に出て、

「2000ドエ!」

 と、叫んだ。

 競りにいた全員の男性が、少年に化けたアリア姫を上から見る。

 アリア姫は、自分が割って入ったことで、みんなの機嫌を損ねてしまったのかと、慌てて顔を半分下げた。

「坊主、威勢が良いな」

「ああ、若いのに好きもんだ」

「好きもん?」

「誉め言葉だよ?」

 顔を歪めて普通に女性の仕草をしだしたアリア姫の横に張り付いて、マグマがフォローした。

「ああ、そうなの‥‥だ」

 アリア姫は自分にスキが出来たことに気が付いて、わざとらしく蟹股で両腕を元気に振って見せる。

「そうなんだぜ! オレ、好きもんなんだぜ!」

 その場からどっと笑い声が上がり、明るい空気になった。

「気の良い奴だ。あの人参はお前さんに譲ろう」

「そうだな、若者に道を譲ろう」

 老席らしい商人が蓄えた髭を撫でながら微笑んだ。


 アリア姫は、初めての競りで、戦利品を手にし、心底嬉しそうに微笑んだ。

「やった!二股人参ゲットだぜ!」

 人参を持って微笑む、少年に化けたアリア姫を見て、みんなが幸せな気持ちになった。


「わたしの国の商人たちは、みんな良い人ね」

「そうだねえ」

 マグマはアリア姫が楽しそうなので余計なことは、この場で教えまいと思った。

 それよりなにより、こんなにも早く、彼女の満面の笑顔が見れて、満足していた。

 

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