思案

  マグマは、もう一度、姫に会いに行こうと心に決めた。

 だけれど、彼女をどうすれば笑顔に出来るか分からない。

 そこでマグマは姫のことを知ろうと思った。

 マグマは街に出て、行商人から果物を買い、今度いつ城下町の塀が開かれ、他国の商品を買えるだろうかという切り口で、会話を広げ、姫が他国に嫁ぐため、塀が長く開かれる日取りを聞き出した。

 そして一週間後が姫のが異国へ旅立ってしまう日だと分かった。

「一週間か」

 一週間もあれば、なにか大きなプレゼントを作れそうだが、相手は一国のお姫様だなんでも持っている。

 しかし、マグマが見たお姫様は出会って、再会したどちらとも、憂い顔を浮かべていた。

 裕福なお姫様の、憂い顔の理由はなんだろう?

 ソファで話していた、見知らぬ異国に嫁ぐことだろうか?

 この国のために嫁ぐのに、それを誰にも感謝されないことだろうか?

 それとも、それら全てを他者に理解してもらえない孤独だろうか?

 

 ならひとりじゃないよと、自分が伝えれば良いのだろうか?

 自分のような、天涯孤独のならず者に?

 自分が困ってもいない人間になにかしてあげるなんて、なんだか酷い驕りのように感じた。

「おいっ、そこの旅人」

 聞きなれた声だった。 

 振り向くと、そこにはアドムが店の前でパンを買っているところだった。

 アドムの横にいた、牛に乗ったパイジが、アドムが旅人と呼んだ人物を見て「あっ」っと声を上げる。

 マグマは二人に自分の変装がバレていることに気が付き、二人に近づいた。

「おや、異国の旅人かね?」

 パン屋の店主が言った。

「ええ、まあ」

 マグマは深くフードを被る。

「アドムのところは、街外れだからそういう知り合いもいるんだな」

 パン屋の店主は自分で言いながら納得していた。

 マグマはこうして、ひとりでいるより安全に、アドムとパイジと牛と一緒に街の塀を出た。


「ねえ、アドム。どうすれば女性を笑顔に出来るかな?」

 マグマはパイジの乗った牛を引くアドムに聞いた。

「‥‥‥それは、その相手がどんな女性かによるな」

「その人は恵まれていて、俺たちみたいに生活に困るってことが全くないんだ。おまけに美人で、多分話し方からしてすごく頭がいいし、‥‥‥今度この国よりもっと裕福な国に嫁ぐんだ」

「そうか、そういう人は、きっとなんでも持っているだろうな」

「ああ、そうなんだ。だからその人になにもあげられる物がないんだ」

「どうして?」

 パイジがマグマに牛の上から聞いた。

「その人が、なんでも持ってるからだよ」

「じゃあ、どうして?」

「じゃあって、なんだよ」

「多分、じゃあなんで、なにかをあげたいのかという意味だよ」

 アドムがパイジを見上げると、パイジが微笑むのでそうらしかった。

「その人に笑顔になって欲しいからだよ。二回しか会ってないけど、いつも憂いというか、悲しそうな、寂しそうな、そういう顔をしてるから」

「どうして、かなしいの?」

 パイジがまた牛の上から聞いてきて、マグマはちょっといらいらしてきた。

「自分が行きたい場所に、行きたい時いけないのは、億劫だよな」

 アドムは、マグマが話している相手が誰かも知れないのに、とても的を射たことを言った。

「そうか、どこか、彼女を彼女の喜ぶ場所に連れてけば良いんだ!」

 マグマは飛び上がって喜ぶと、感謝を二人に伝えて、チーターのような速さで走って自分の住処へ帰った。

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