マグマの過去の夢

 マグマは夢の中で、懐かしい記憶の中にいた。

 そこには、マグマの懐かしい父と母の姿はなく、大勢の人々と列に並んで、重たい荷を運んでいた。

 何キロも何キロも長い距離を、砂漠の乾いた風が吹く中で歩く。

 少しでも立ち止まり荷を下ろせば、素早く上司がやってきて、早く立ち上がれと鞭で打たれてしまう。

 ぜえはあと、息をするたびに砂が口に入った。

 開けたターバンを直す暇もない。

 喉は乾いているのに、汗が吹き出して止まらない。


 誰かが、マグマの後ろでマグマがよろける度に下品な笑い声を立てていた。

 マグマはそれが悔しくて、何度も何度も荷を肩の上で跳ね上げては荷を持ち直し、なんとか負けずに頑張ろうとした。

 その度に、大きな声で話す声がして、それがまるで自分の背中を指しているように感じた。


 苦しい、苦しい、こんなことがいつまで続くんだろう?

 その問いかけに答えてくれる人は誰もいなかった。


 もう駄目だ、もう疲れた。

 意識が消えかけて、マグマが荷を持ったまま地面に膝を付いたその時、誰かが悲鳴を上げた。

 その悲鳴は全員に広がる。

 マグマが顔を上げると、数百メートル先に砂嵐がとぐろを巻いて回転しているのが見えた。

 みんな、荷を捨てて、来た道に走って逃げる。

 マグマも立って逃げないとと思った。

 だけど、身体が動かない。

 はあ、はあと自分で息をして、その息で喉がまた乾く。

 マグマは力尽きてうつ伏せに砂地に突っ伏した。


「うわっ!?」

 その時、マグマは夢から醒めた。

 全身に冷汗をかいていた。

 マグマの腹の上で寝ていたタルタルとサルサとトマトが、驚いて飛び降りる。

「ああ、驚かせて悪かった」

 マグマは頭を抱えたまま謝った。

 そして、なんて自分は運が良いんだろうと思った。

 マグマは、砂嵐の竜巻に飛ばされた後、今いる洞窟の近くにいた。目覚めると、今一緒に暮らしている、三匹のプレーリードックたちに囲まれていて、ここまで連れてきてくれた。

 マグマはその頃、痩せた子どもだったので、竜巻の力で誰よりも遠くに飛んだらしかった。

 そして、奇跡的に持っていた荷が自分の下敷きになったことで、落下の際の衝撃で怪我をすることもなかった。

 後から街へ出てわかったことだが、その時助かった人間はわずか数名ということだった。


 その竜巻の一件から、マグマはこの世には、なにか自分ではコントロール出来ない力が働いていることを理解していた。

 それは人の権力もそうだが、それ以上に、自然の節理はなにか見えない強い力で全てのものと繋がっていて、自分もその一部なんだと強く信じるようになった。

 そして、先が見えなくても、自分から道を進めば、自ずと助は現われると確信した。


 マグマはその時の気持ちを思い起こすと、気が付いたら、両手を胸に当てて願っていた。

 いつか、あの美しいお姫様を、自分が笑顔に出来ますようと。

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