おつり

 マグマが爺やの後を付け始めたころ、アリア姫は広い自室で侍女たちと一緒に荷造りをしていた。

「これで初めて私のものになるのかしら?」

 大きな鞄に、詰められていく服を眺めながら、アリア姫は自嘲気味に微笑んだ。

 その横で、侍女頭が悲しいそうに眉間にシワを寄せている。

「やめて、サーサ。あなたまで爺やみたいにシワシワになっちゃうわ」

 アリア姫が侍女頭のサーサの手を取り、自分の手を重ねた。

 サーサは口元をゆるめたが、立ち上がって両手で目を覆ったまま、部屋の外へ出た。

「うわっ!?」

 サーサがドアを出た瞬間、ドアの外の目の前に立った爺やとぶつかった。

 二人がよろけて、慌てふためいているスキに、マグマは爺やの後ろから出て、部屋に入った。

 そして、マグマは姫が部屋のソファーに腰かけているのを見つけると、壁づたいに忍び寄った。

 憂い顔で俯いている彼女はなんだか悲しそうだとマグマは感じた。

 姫のいるソファの目先では、侍女たちがせっせと服をたたみ、本を名前順に直して、なにを鞄に入れたかメモをしていた。

 侍女は三人。三人とも俯いて作業をしている。

 マグマはなにごとも無い体を装い、姫の隣に腰かけた。

「サーサ、私これからどうなるのかしら? ひとりで嫁いでやっていけるかしら?」

 アリア姫は、サーサが自分の横に戻って座っていると勘違いしているらしかった。大きな溜息をつき、両膝を抱いてからまた話し始める。

「でも。もしかしたら、今よりずっと楽しいかも知れないわ。だってこの国に多額の援助をしてくれるんだもの。きっと私が見たこともないような素敵なものがいっぱい向こうにはあるのよ。そしてその国に嫁げば、この国ももっと潤うの」

 せっせよ作業する侍女たちが、手を止めないまま聞き耳を立てていた。下を向いたまま作業を続け、ふふふと笑ったり、鼻をすすったり、口端を強く結んで、なにも言うまいとしている様子だ。

「でもそんなこと、お姫様なら普通だし、誰にもわかってもらえないわね」

 姫の目線と声のトーンが緩やかに落ちた。

「俺はずっと覚えてるよ」

 アリア姫は顔を上げ、マグマは頭部全体に巻かれたターバンを取った。開けたターバンから数枚の金貨が散らばる。

 二人は同時にソファーから立ち上がってお互いを見た。

 なにが起こったか、全く分からない侍女たちは唖然としている。

 マグマは胸元からも金貨の入った袋を出した。

「昨日、アンタにもらった指輪のつりだ」

 アリア姫はマグマを見つめたまま両手を出し受け取った。

「パイジは、十歳の女の子は、アンタのお陰で助かったよ。そのじいさんもな」

 姫の目から一筋の涙がこぼれた。

「だっ、誰か来て~~~」

 中年の侍女が叫ぶより先に、マグマは飛び出して、窓から逃げた。

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