迷走

 マグマは、だだっ広い王宮内を歩きながら、姫を見つけた時、彼女がひとりでいてくれたなら、ありがとうと伝えられるのにと思った。

 なにか姫の居場所を示すような物を視線だけで探すが、どれも高価だということしか分からない。

 そして、そこでやっと自分はあの美しいお姫様に、もう一度会いたいだけなんだと気が付いた。

 人の気配のない通路でひとり、マグマは立ち止まった。

 俯いて、大きく息を吐いた。自分が今ここにいることを少し後悔して、小粒の羞恥心が胸のうちに湧いてくるのを感じた。

 思えば、相手はこの国のお姫様だ。だから、こんな金貨なんかなくても、一生涯、十分に裕福な生活をしていける。

 きっと、マグマと違い、なんの不自由もしないのだろう。

 だけれども、マグマはそこで引き返す気にはなれなかった。

 なぜだろう?

 マグマは自分に問いかけた。

 なぜだろう?

 なぜ自分はまだここにいるんだろう?


「おい! お前!」

 マグマはびくりと肩を震わせ、三秒経ってからゆっくり声の方へ振り返った。

 10メートル先に、なにかの役職らしき服装を来た白髪で細身の背の高い男性が、勇み足でこちらへ近づいてくる。

「お前、持ち場は何処なんだ。こんなところでなにをしている」

 渋く、良く通る覇気のある声だった。

 それでマグマは気が付いた。目の前の人物は、昨晩、一番に姫のいた部屋に入ってきて、兵を呼んでいた老人だ。

 マグマは知らないが、その老人はアリア姫の爺やだ。

 マグマは直ぐに直立して、敬礼をし、敬意を表した。

「じょっ、上官に一通りのない場所も見回って来いと言われました」

「ふうん‥‥‥、まあ確かに必要だな。昨晩のようにならず者を姫様に二度と近づけるなよ!」

「はっはい!」

 爺やの大きな声に、マグマは反射的に返事をしていた。

「もし、同じようなことがまたあったら、その時は‥‥‥」

「その時は?」

「兵士全員基礎教育を私が全て教え直す!」

 それは恐いかも知れないとマグマは思った。

 爺やは、ぴっと背筋を直すと、しゃきっとした道のりで戻っていった。

 そして、マグマは爺やに気が付かれないように、爺やの背後に周り、数歩後ろを歩いた。

 よそ目には、警備兵のひとりが、爺やに付き従っているように見えた。

 マグマはそのまま姫のいる部屋に辿り着いた。

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