第305話

 今夜は、いつもと違う――最初のキスから、そんな予感がした。

 

「宏ちゃんっ……」

「成、成……」

 

 ソファに押し倒されて、性急に服を脱がされる。腕から袖を抜かれ、皮を剥かれる果物になった気持ちで、宏ちゃんを見上げた。

 

「どうした?」

「う、ううん……」

 

 ぼくに跨ったまま、乱暴にシャツを脱ぐ宏ちゃんに、頬が熱る。

 もじもじと裸の爪先でソファをかいていたら、覆いかぶさってきた。

 

「あっ」

 

 ぎゅっと抱きしめられる。逞しい体に埋まって、森の香りを嗅いでいると……お腹の奥がじいんと熱くなった。

 

 ――宏ちゃん、すごくいい匂い……

 

 頭がぽうっとして、気持ちいい。

 ぼくは浮かされるように、広い背に腕を回した。すると――頬をぱくりと食まれる。

 

「ひゃっ?」

「いい匂いだ……もっと、こっちにおいで」

「……あっ、ふあ」

 

 ぴったりと身を寄せたまま、体じゅうを撫でられる。手のひらで、肌を味わおうとするような……丹念な動きに、息が弾む。

 

「んんっ……やぁ」

「可愛い……」

 

 宏ちゃんは、セクシーに唇を舐めた。

 痩せっぽちの胸に顔を伏せたと思うと――震える先端を舌で弾かれた。

 

「ああっ」

 

 びりびり、と稲妻が走り、仰け反ってしまう。

 ソファから落ちそうになったのを、宏ちゃんは抱きとめてくれた。

 

「……っ」 

「ソファじゃ狭いな」

 

 カーペットに降ろされて、すぐに始まってしまう。そのとき、ここが二人でのんびりしてる居間やって、ふと気づいたん。

 

 ――やあ、ここで……!?

 

 明るいし、ふわふわな布を素肌に感じて、恥ずかしくなる。

 

「ひろちゃ、あっ……待ってぇ……」

「どうして?」

「あぁ……!」

 

 宏ちゃんは、気にならないみたい。どころか――いつもより性急で、ちょっと荒っぽくて……ぼくは、ぐずぐずになってしまう。

 はふはふと忙しく息を吐いて、甘えた声を漏らしていると――ちゅっとキスが降ってくる。

 

「ふっ……」

 

 深いキスに、目を閉じる。

 柔らかい舌が絡んで、口いっぱいを舐められちゃう。――ぴったり合わさった唇から、くちゅくちゅと水音が響いていた。

 

 ――きもちいいよぅ……

 

 お湯に浸かってるみたいに、いい気待ち。

 夢中で、大きく口を開いていると……宏ちゃんが腰を揺らした。

 

「あぅっ」

「すごく濡れてる……」

 

 熱い先端が、後ろに触れて……ぴくんと腰が跳ねる。

 

「すごい、熱い……宏ちゃんの……」

「お前が可愛いから」

「……っ、やだぁ」

 

 耳に熱い息が触れ、ぞくぞくと感じてしまう。

 恥ずかしいのに、嬉しい。火のような顔を両手で覆うと、手の甲にキスが降ってきた。

 

「成……いいか?」

 

 熱い声で囁かれ、はっとする。

 ――最後まで。

 その気持ちが、伝わってきて……ぼくは、どきんと胸が激しく鼓動した。

 

「……うんっ」

 

 顔は見せられないけれど……確かに頷いてみせる。宏ちゃんは、嬉しそうにぼくを抱きしめた。

 

「ありがとうな」

 

 ぼくも――そう答える代わりに、宏ちゃんの首に抱きついた。

 

 



 

 

 

「んっ、あぁ……」

 

 カーペットに横ばいになり、後ろに指を受け入れていた。宏ちゃんはぼくを後ろから抱きしめて、両手で恥ずかしいところに責め苦を与えてくる。

 

「あ……あーっ……!」

 

 太くて長い指が二本、後ろをぬるぬると出入りしてる。同時に、熱を持った蕾を優しく揉まれて、快楽に頭がチカチカする。

 

「きもちいい……?」

 

 声も出せずに、こくこくと頷く。

 

 ――きもちいい……いっぱいなのに、ちっとも痛くないっ……

 

 根元まで含まされた、宏ちゃんの指をきゅうと締めつける。初めて二本も受け入れて、きついはずなのに……強い快楽に腰が溶けそうになっちゃう。

 たっぷりと塗られた潤滑剤と、蕾から零れる蜜で、ぐちゅぐちゅと淫らな水音が響く。

 

「ああぁっ……」

 

 お尻の中の一点を押し込まれ続けて、蕾から蜜が噴き出す。

 ぐったりと力が抜けた体を、宏ちゃんはぎゅっと抱きかかえた。涙と涎でぐしょぐしょの頬に、愛おしげにキスされる。

 

「可愛い……もう、とろとろだな」

「んん……」

 

 ちゅちゅ、と首筋や胸にキスされて、腰が震えた。

 長い間、甘い責め苦を与えられて……もう体がふにゃふにゃになってる。胸の尖りを唇で摘まれて、「ああ」と泣き声が漏れた。

 

「もう、お願い……宏ちゃん……」

 

 鉛のような腕を持ち上げて、宏ちゃんに抱きつく。

 

 ――もう、耐えられない……

 

 はしたないと知りつつも、脚を開く。

 

「いいのか?」

 

 何度も頷く。すると、宏ちゃんは嬉しそうに笑って、ぼくに触れるだけのキスをする。

 

「優しくするから」

「……うんっ」

 

 笑んだ唇に、キスが仕掛けられる。何度か確かめるように中を探った後、指が引き抜かれ……宏ちゃんが覆いかぶさってきた。腰を抱かれて、どくんと鼓動が跳ねる。

 

 ――ああ、これで……

 

 宏ちゃんの、ホントの恋人になれる。

 そう思って……ぼくは、きつく目を閉じた。

 

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