第285話

 飛び込むように車に乗り込んだと思うと、エンジンが唸る。

 宏ちゃんは、慌ただしくぼくのシートベルトを締めて、言った。

 

「今から家は遠いな。成、ホテルでも構わないか」

「えっ、うん。でも、そんな大丈夫やで?」

 

 ぼくは、おろおろとバッグを抱く。たしかに、体がホカホカしているものの、噂で聞くほど切羽詰った感じはしないから。

 宏ちゃんは首を振り、キッパリと言う。

 

「お前の体のことは、俺の方がわかってる」

「……ひえっ!?」

 

 とんでもない言葉に口をパクパクしていると、宏ちゃんは「飛ばすぞ」と言って、車を発進する。

 開け放した窓から、突風が吹きこんだ。宏ちゃんは宣言通り、びゅんびゅん車を飛ばし、華麗なハンドルさばきで前の車を抜き去っていく。

 凄いスピードのせいで、シートの背もたれに体を押し付けられながら――ぼくは、顔全部が熱くて仕方なかった。

 

 ――知らんかった。こんなにスピード出すんや、宏ちゃんてば。

 

 

 

 

 

 数十分後――宏ちゃんが素晴らしく飛ばしてくれたおかげで、あっという間にホテルに到着した。

 ビジネスホテルの一室のベッドに、ぼくはちょんと腰を掛けている。宏ちゃんに勧められて、もうシャワーを浴び終えて、バスローブしか着ていなかったり、する。

 

「……うう……」

「大丈夫か?」

 

 隣に腰かけた宏ちゃんに、肩を抱き寄せられる。同じくシャワーを浴びて、バスローブを羽織っただけのかっこう。――大胆にはだけた前から、逞しい胸が見えていた。

 

「大丈夫ですっ。宏ちゃん、あの……ちゃんと服を着て」

 

 刺激的な光景すぎます。慌てて前をかき合わせてあげると、宏ちゃんが笑う。

 

「もう脱ぐから、いいけどな」

「……宏ちゃんのエッチ!」

 

 どん、と胸を突くと、「あはは」と声を上げて笑ってる。ぼくは真っ赤になった頬を押さえて、床に突っ立った。

 

「すぐ脱ぐとは限らないですよっ、宏ちゃん」

 

 暫く経ったけど、ほわほわしていた体に、いまだ大きな変化はなかった。むしろ、お風呂に入ったから、身も心もさっぱりして……清く正しい有様だと思う。

 

 ――せっかく連れてきてもらって、申し訳ないのやけれど……たぶん、ヒートじゃないと思うんよ。

 

 そう主張すると……宏ちゃんは組んだ腿に頬杖をついて、面白そうに目を細めた。

 

「そうかあ? いい匂いだけどな」

「それは、宏ちゃんも……」


 気恥ずかしくなって、途中で口を噤む。 

 ……宏ちゃんから、凄くいい香りがするん。嗅いでいるとね、気もちがそわそわして、じっとしてられないくらいに。

 すると、手が差し出された。

 

「成、おいで?」

 

 もうすでに、ぼくを抱きしめているような熱い瞳で見つめられ、頬がぱあっと火照る。

 

 ――わあ。なんか、恥ずかしい……

 

 向き合うだけで、変な気持ちになってきて、戸惑っちゃう。――お部屋で二人っきりなのは、いつものことなのに。

 ”そういうつもり”で来たせいやろうか。

 

「ね、ねえ、宏ちゃん。戦利品、いろいろ見ない? ベッドにわーって広げて、楽しむの」

 

 ぼくは恥ずかしさに耐えかねて、目を逸らした。

 

「ベッドにか?」

「そうっ。立ちっぱなしだったし……寝転んで、ゆっくりするん。ねっ」

「ほう」


 ――わあ、宏ちゃん響いてなさそう~。


 ともあれ、バッグは備え付けのクロークに置いてある。急き立てられるよう、足を踏み出そうとしたら――くい、と手首を引かれた。

 

「あっ!」

 

 ぼくは、宏ちゃんの膝の上に座り込んでいた。

 逞しい腕に羽交いに抱きしめられ……どきん! と心臓が大きくジャンプする。


「鑑賞会も良いけど。俺は、お前を見たいかな」 

「宏ちゃ……んっ」

 

 顎を掴まれ、後ろを振り向かされたと思うと……かぷりと食まれるよう、キスされた。

 

「待っ……ふぁ……っ」

 

 薄く開いた唇のあわせから、舌が滑り込む。「待って」も「だめ」も言わせまいとするよう、絡められ――甘えた吐息ばかり漏らしてしまう。

 

「――ひゃっ?」


 バスローブの上から、胸の尖りをくすぐられた。甘いキスで期待した其処を、厚い布越しに引っかかれると、たまらない。


「やあ……そこはっ」

「好き?」

「ぁんっ」


 前合わせから入り込んできた手が、キュ、と尖りを摘まむ。……そこは、毎日のように愛されるせいか、すごく敏感になってて。

 やのに、宏ちゃんは嬉しそうに、ますます可愛がってくるん。


「あぁ……っ」


 胸への愛撫で、意地も力もなくなってしまう。

 身を預けたぼくを、宏ちゃんはぬいぐるみみたいに抱えて、愛で始めた。





「ひろちゃ……もっと」


 そのうちに――ぼくは宏ちゃんの膝に向き合って、必死にキスに応えていた。宏ちゃんはくすりと笑って、ぼくの顎を摘む。


「可愛い……もっと口開けて」

「んっ……」


 言う通りにすると、キスがもっと深く甘くなる。ぴちゃぴちゃって水音が、明るい客室に響いて――すごく、あられもない。

 でも、すごく気持ちいい……


「ぁぅ……!」


 一緒に、きゅ、きゅ、と胸の尖りを捏ねられて、頭がトロンとする。


「!」


 がっしりした首に腕を回して、舌を絡めていると……大きな手が、トントンとお尻の上を叩いてきた。


――やっ……それ、だめぇ……!


 お腹の奥が、震えちゃう。

 甘痒い刺激に、もじもじと体を揺すると……するりとバスローブの裾をからげられた。下着をつけていないから、お尻が露わになる。


「成、綺麗だ」

「ひゃ……っ?」


 二本の太ももを包むように、大きな手が上ってくる。


――ああ……っ!


 気持ちいい、もどかしい――宏ちゃんの肩に、きつくしがみ付く。ずっと続くキスに、吐息も飲み込まれ、お腹に気持ちよさがわだかまってきて……

 熱い指先が、内腿をつと撫でて、ビクンと体が弾む。


「……んぅっ、ふ……!」


 優しく、脚の付け根を揉みほぐされる。

 しだいに……宏ちゃんの膝に跨った脚の奥が、熱く潤み始めていた。

 蕾と、後ろと。その間に、疼くようなちりちりした熱が――


「……はぁ……はぁ」


 やっと離れたぼく達の間に、銀の糸が伝う。それを恥ずかしいと感じる間もなく――押し倒されてしまった。

 冷たいシーツに背中がくっついて、すぐに宏ちゃんが覆いかぶさってくる。


「ほら……凄くいい匂いだよ、成」

「……あっ……」


 わざとやん! と正気なら、突っ込んでしまうんやけど――ぼくの理性は、もうとろとろになっていて。性急にバスローブを脱がされるのを、夢心地で待った。


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