第215話

 時計の秒針が、カチカチと音を立てる。静かな夜の気配のなか、ぼくは宏ちゃんとぴったり折り重なっていた。

 

「んぅ……」

 

 後ろに長い指を含まされて、もじもじと爪先がシーツを掻く。

 

 ――声、でちゃう……

 

 枕に顔を押し付けて、震える吐息を押し殺した。……同じ階にいる綾人に、気づかれないように。

 でも、堪えれば堪えるほど……潤んだ中を探る温かい指に、からだが溶けそうになる。

 

「……宏ちゃん……っ」

「可愛い……我慢しなくていいぞ?」

 

 耳元に熱く囁かれ、肩が震えた。

 背中に覆いかぶさっている宏ちゃんから、芳しい香りが溢れる。胸いっぱいに吸い込むと、頭がくらくらして、自制心を失いそう……

 

「ぁぅ……っ」

 

 そのタイミングで、ひときわ奥に宏ちゃんを引き込んでしまった。お腹の裏側をとんとんってタッチされて、目の奥で火花が散る。

 

「宏ちゃん、だめっ……」

 

 いやいやと頭を振ると、片腕でしっかりと抱き留められた。――逃さへんって言うみたいに。

 それどころか……背中にぴったりと密着して、体中を愛撫される。指先で胸の突起を丸めながら、腰の奥を丹念に甘やかされて……枕を噛みしめて、泣いてしまう。

 

「ひう……うぅ」

「成……すごく、熱くなってる」

 

 いつもより、もっと――そう囁かれて、頬が燃え上がった。

 

「……っ、んくぅ……」

「なんでかなぁ……聞かれると思ったら、たまらない?」

「ち、違……」

 

 意地悪な言葉に、胸が甘くひっかかれる。

 

 ――そんな恥ずかしいこと、言わないで……

 

 そう抗議したいのに。涙の伝う顎にキスされて、背を覆う温もりが、愛しくてたまらなくなる。

 と――脇腹を滑って来た手のひらに、痛いほど兆したぼくを包まれて、目を見開いた。宏ちゃんは、花の蕾を愛でるように優しく、ぼくに触れて……

 

「いやっ……ああ!」

 

 ちっとも堪えられないで、熱い蜜が溢れ出す。

 とろとろと溢れるそれを、塗り広げるように揉みこまれて、小さく叫んだ。

 

「だめっ……はなしてぇ」

「まだ出てる……気持ちいい?」

「あぁっ」

 

 優しく擦られて、後ろをきゅうと締め付けてしまう。返事をしなくても、それで全て了解されてしまったのか……宏ちゃんは手の動きを休めない。前と後ろから、ぐちゅぐちゅと水音が響く。

 

 ――声、我慢しても意味ないっ。こんなに大きな音……

 

 恥ずかしくて、涙がぽろぽろ溢れる。

 

「ひろちゃ、だめ……ん、くぅ」

 

 すごく楽しそうに、ぼくの身体を奏でる宏ちゃんが、ちょっとうらめしい。

 枕を握りしめ、肩越しに振り返ると……唇が重なった。こわばりを解くような、あったかいキス。

 熱い舌に口いっぱいを愛されて……腰の奥をぐちゅぐちゅとくじられながら、何度も背筋を震わせた。

 

「あ……」

「そう、いい子だ……」

 

 ころん、と体を返されて、脚を大きく拡げられる。

 ぼくから溢れ出した蜜で、ぐっしょり濡れた下肢を撫でられて、吐息が漏れた。

 

「あ……みないでっ」

 

 予感に、腰を捩って隠そうとする。間に合わなくて――兆したものから、熱い蜜が伝った。一部始終を見られて、恥ずかしくて死にそうになる。

 

「やあぁ……」

「可愛い。また出ちゃったな」

 

 ちゅ、と甘いキスが降ってくる。ぴったりと合わせた唇から、指を含んだお尻から水音が響く。気持ちよくって、どうしても腰が悶えてしまう。

 唇のなかで、宏ちゃんの吐息が笑うように震えた。

 

 ――もう、宏ちゃんの意地悪っ……

 

 泣きそうやのに、もうからだが止まらない。

 逞しい腰をはさむように促され、そのとおりにすると、恥ずかしいところが重なり合った。

 ぼくはがっしりした首にしがみ付いて、呻いた。

 

「あ……あう……っ」

「きもちいい?」

 

 夢中で、こくこくと頷いた。

 宏ちゃんの高ぶりが、ぼくの体を愛撫して、どんどん熱くなる。夜目にも浅黒い肌から汗が滴って、頭がくらくらした。

 

「宏ちゃん、宏ちゃん……」

「成っ……」

 

 交わしていた唇を離し――すごく近くで、宏ちゃんが囁く。

 

「お前は俺のだ。ずっと……」

 

 狂おしい声に、胸がずきんと痛くなる。

 なんでか、切なくてたまらなくて、必死に大きな体を抱きしめた。

 

 ――宏ちゃん、どうしたの……?

 

 どうして、苦しそうなの? ぼくは手を伸べて、艶やかな黒髪を、何度も撫でる。ぴくりと震えた肩には、キスを。慰めてあげたくて……大切な人やから。

 宏ちゃんは、無言でぼくをきつく抱きしめる。そして――激しく、揺さぶり始めた。

 

「あ……っ!」

 

 強すぎる快楽に、頭が真っ白になる。

 どうしたのって聞きたいのに、もう言葉にならない。溢れる声が、宏ちゃんの唇に吸い込まれる。

 奥に含んだ指を締め付けて、果てた途端――意識を失った。



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