第184話

「わあ、いい天気!」

 

 ぼくは、青空を仰いで、にっこりする。

 青みを増した空に、大きな蝉の声が聞こえ始めていた。今日も暑くなりそうで、ワクワクしちゃうな。

 お義母さんの誕生会から、三日――ぼくと宏ちゃんは、和やかな日々を過ごしている。ぼくは、うんと伸びをして……うっと息を詰めた。

 

 ――もう、宏ちゃん! ……あんな格好させるからっ……

 

 とんとんと腰を叩きながら、頬が赤らむ。

 初めて、抱き合った日から……毎日してるん。それは、恥ずかしくても、嬉しいからいいんやけど。

 夫婦の営みって、どこもあんなに……深く、楽しむものなんやろうか?

 昨夜、宏ちゃんに求められたことを思うと、背中まで汗ばむみたいやった。

 

「……えーいっ、まだ朝やのに、何考えてるん! お掃除しよっ」

 

 ぎゅっと箒を握りしめ、お店の前を掃き清めていく。それが終わったら、水を撒いて。邪念を祓うように、張り切って動いていると――きらり。

 左手の薬指に、太陽の光が反射する。

 

「……あっ」

 

 その眩しさに、胸を撃ち抜かれたみたいに、ぼくは動きを止めた。

 まじまじと見つめて――頬がでれっと緩んでしまう。ぼくの左手には、銀色の結婚指輪が輝いてる。

 宏ちゃんがくれた――


 

『成、誕生日おめでとう。ちょっと遅くなったけど――』

 

 ホテルで、ケーキとシャンパンが届いた頃。

 宏ちゃんが、すっごく照れながら、プレゼントしてくれたん。

 ぼくは、びっくりして、フォークを取り落としそうになっちゃった。

 

『どうして……』

『うん。目に見える形で、俺たちが夫婦だって言いたいな、と思ってさ。……受け取ってくれるか?』

『宏ちゃん……!』

 

 震える手で指輪を受け取ると……内側には、ぼく達のイニシャルと。それと、英語で刻印されていたん。

 ――「永遠に離れない」って。


『……宏ちゃんっ、ありがとう……!』


 感激のあまり、宏ちゃんに飛びついてしまった。



「……ふふ」


 指輪を見るたびに、あのときの嬉しさがぶり返してきちゃう。

 ぼくは、薬指に輝く銀の指輪を、そっと右手で包んだ。


 ――本当に、夫婦なんだよね。ずっと一緒にいられる……


 じんわりと、噛み締めていると――


「おーい、成っ」


 ふいに、大きな声に呼ばれる。

 振り返ると、お店の入り口で、宏ちゃんが大きく手を振っていた。


「朝飯できたぞー」


 大らかな笑みを浮かべて、宏ちゃんが手招く。その薬指にも。ぼくと同じ光が輝いていた。

 きゅんと胸が高鳴る。

 

「はーいっ」


 ぼくは、笑顔で頷いて――宏ちゃんの側に駆け寄った。

 

 

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